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【質問】MAPが最強の筋肉成長サプリだって本当ですか?


こんなご質問をいただきました。

 

最近トレーナーから「プロテインよりMAPのほうが効率がいい」と言われました。吸収率99%、10gでプロテイン50g分の効果があると聞きましたが本当でしょうか?買うべきですか?

 

ということで、近ごろ少し耳にするようになったMAPってのは、果たして取り入れるべきなのかってご質問であります。

 

MAPってのは必須アミノ酸(EAA)を特定の比率で配合したサプリでして、8種類の必須アミノ酸を人間の体に最適なバランスでブレンドすることで、

 

  • 体内利用率が99%でほぼ無駄が出ない!
  • 10gでプロテイン50g分の効果がある!
  • 窒素老廃物(アンモニア)をほとんど出さない!
  • 消化負担が少なく腎臓や肝臓に優しい!

 

みたいな効果を得られるとされてまして、NASA、医療現場、軍でも使われている……みたいな主張もあったりします。個人的には、ぱっと見は「普通のEAAとどう違うんだ?」って感想を持っちゃうわけですけど、これが事実なら使ってみたくはなりますなぁ。

 

では、私がどう思っているのかを見てみましょう。まず、MAPの売り文句としてよく出てくる、「たった1gで肉や魚に匹敵するタンパク合成効果を持つ」ってフレーズから。

 

この主張の根拠になっているのは「窒素保持率」(NNU)って指標でして、このブログでも何度か出てきたことがありますね。これは摂取したタンパク質のうち、実際に体内で利用されて組織の合成に回った窒素量の割合を示す指標で、いわば“タンパク質の利用効率”を表すものであります。この指標をもとにして、MAPを推す人は「MAPのNNUは99%、ホエイは18%、肉は32%しかない!」と主張してるんですな。

 

その点で、たしかにMAPは、窒素の利用率が非常に高い(99%)と報告されているんですけど、ここで注意したいのが、この数値はあくまで特殊条件下で得られたものという点です。具体的には、

 

  • 条件が非現実的=MAPは空腹状態・単体摂取・低用量という条件で計測しているので、通常の食事環境とはまったく別物だったりする。
  • 測定方法に一貫性がない=NNUは公式な国際基準ではなく、MAP販売元が採用する独自指標でしかない。
  • 第三者研究の欠如=客観的な追試、信頼できる独立機関での検証がほぼ存在しない。
  • 筋肥大とは直接の関係がない=窒素の保持は筋肉が増えることとイコールではなく、単に尿中排泄が少ないだけの可能性もある。

みたいなとこですね。MAPは必須アミノ酸(EAA)だけで構成されているんで、無駄が出にくいのは事実なんだけど、それはあくまで窒素排泄が少ないというだけの話。筋肉合成の材料に使われるかどうかは、筋トレ刺激や摂取カロリーなど他の要因によって決まりますからねぇ。つまり、「窒素保持率99%!」というのはわりと誇張ぎみなんじゃないか、と。

 

では、実際にMAPは、他のたんぱく源より優れているのか?という点ですが、現時点ではMAPがホエイや食事由来のたんぱく質を圧倒するようなデータは存在しないので、なんとも言いづらいところであります。こちらもざっくり言うと、

 

  • MAPと他のたんぱく源を使って筋肉の成長を比較した試験は極めて少ない:MAPに関する臨床研究はごくわずかで、しかもその多くがMAPの販売に関与する団体が行っている。しかも、すべてサンプルサイズは10〜20人程度だし、長期追跡データがないし、アウトカムもあいまい(「疲労感の改善」とか)なので、いまんとこ「裏付けはない!」としか言いようがない感じ。

 

  • 筋肥大や筋力アップに関する直接的な比較がない:MAPとホエイや食事たんぱくを「筋肉の成長」で直接比較した研究はないので、なんとも言いようがない。それだったら、数百本単位で臨床試験が行われているホエイプロテインを使ったほうが良いのは間違いない。MAPはあくまで「理論的に優れている」という主張が中心で、「実際に筋肉が増えたか?」という最重要ポイントの証拠はなかったりする。

 

  • たんぱく質=EAAだけではない:MAPは「EAAのみ=無駄がない」という理屈なんだけど、実は非必須アミノ酸(NEAA)にも重要な役割があったりする。たとえば、グリシンやプロリンはコラーゲン合成に欠かせないし、グルタミンは腸粘膜の修復や免疫サポートに必要。MAPはこれらを含まないため、長期的に偏ったアミノ酸摂取になる可能性もある。

 

ということで、基本的にMAPの効果については「なんとも言えんなー」ってとこだし、おそらく普通にホエイプロテインのほうが優秀な気がしております。

 

いちおう公平を期してMAPの良さそうなところも挙げておくと、


  • 低カロリー

  • 消化負担が少ない

  • 吸収が速い


といった特徴は、人によっては上手く使えるかもしれません。たとえば、

 

  • 胃腸が弱っている高齢者

  • 食欲がない病後の栄養補助

  • ダイエット中でカロリーを抑えたい人

 

などには補助的に使う価値があるかもしれません。とはいえ、なにせMAPは値段も高いので、私としては「あんま使う気にはならないなぁ」ってところです。

 

あとMAPの強みは、

 

  • 必須アミノ酸バランスが良い
  • ロイシン含有量が高い
  • 消化吸収率が高い

 

ってとこなので、ここらへんの条件を満たすような食品を選んでおけば、わざわざMAPを買うほどのこともないんじゃないでしょうか。たとえば、卵、鶏むね肉(皮なし)、牛赤身肉、ギリシャヨーグルトとかですね。難しいことを考えたくないなら、普通にアイソレートのホエイプロテインを飲んでおくだけでも良いでしょうしね。MAPは確かに面白いサプリではあるんだけど、「日常食の工夫」でほぼ同等の効果は得られるんじゃないかなーと思っております。

 

 

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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