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筋トレや運動の成果を上げたいなら、まず“口を閉じる”べし!みたいな研究の話

   

 

「運動中は鼻呼吸をしろ!」みたいな研究(R)がおもしろかったんでメモっておきましょう。

 

これは体育系の大学生49名を対象にした実験でして、被験者たちに超ハードなウィンゲートテスト(全力で自転車をこぐやつ)をやってもらいまして、その際に、

 

  1. 口呼吸のまま運動をする
  2. 鼻呼吸のまま運動をする

 

という2パターンを使ってもらい、ついでに筋肉の酸素飽和度や血管機能などを比較したんだそうな。

 

すると、この結果がなかなかおもしろいもんでして、

 

  • 運動中のパワー(mPPOやaPPO)や酸素飽和度(SpO₂、TSI)には、鼻呼吸をしようが口呼吸をしようが、ほとんど差が出なかった

  • しかし、運動後の筋肉の回復速度は、鼻呼吸のほうが圧倒的に有利だった

 

というものだったんですな。ここで言う「圧倒的に有利」ってのをもう少し詳しく説明しますと、たとえば筋肉の酸素飽和度(TSI)の回復速度は、

 

  • 口呼吸:0.23%/秒

  • 鼻呼吸:0.45%/秒

 

だったそうで、ざっくり2倍の速さだったらしいんですよ。さらに、血管の回復力を示すFMD(血流依存性血管拡張反応)も、鼻呼吸のみで有意な上昇が見られたそうでして、これはなかなか良い結果じゃないでしょうか。少なくとも個人的には、「筋トレも有酸素運動も、できる限り鼻呼吸するか……」って気にはなりましたね。

 

じゃあ、なぜ鼻呼吸のほうが筋肉の回復に効くのか?ってところが気になりますけど、過去の研究では鼻腔内の圧力に注目していたのに対して、ここでは一酸化窒素(NO)って物質に注目しております。一酸化窒素はこのブログでも何度か取り上げてきた物質でして、血管を広げて血流を良くしたり、ミトコンドリアでの酸素利用を助けたりと、運動時にはかなり頼れる存在なんですよね。なので、当然ながら、筋肉の回復やパフォーマンス維持にもバッチリ関わってきます。

 

そしてなによりもポイントなのが、鼻呼吸のほうが一酸化窒素がたくさん出る!ってところです。鼻の粘膜ではiNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素)が活性化されやすいんで、一酸化窒素がモリモリ産生されるんですよ。一方で、口呼吸だと一酸化窒素の血中濃度が下がるという報告もありますんで、この違いはわりと大きそうな気がしますねぇ。

 

つまり、

 

  • 鼻呼吸 ⇒ 一酸化窒素が出て血管が広がり、そのおかげで酸素が筋肉に届きやすくなって筋肉が早く回復!
  • 口呼吸 ⇒ 一酸化窒素が減って血流がイマイチ上がらず、回復が遅れる…

 

ってメカニズムが考えられるわけです。やっぱ鼻呼吸は重要ですなぁ。

 

となると、「じゃあ、鼻呼吸が一択でしょ!」と言いたくなるわけですが、ここにはひとつ注意点もあるので覚えときましょう。というのも、今回の研究では、ウィンゲートテスト中の“自覚的なキツさ”は鼻呼吸のほうが楽だったという結果が出てるんですが、これは必ずしも運動のパフォーマンスが上がったとは限らないですよ。実際、この研究でも、出力や酸素飽和度には差が出なかったので、運動中のパワーそのものには鼻呼吸のメリットは少ないんじゃないかなー、と。まあ筋肉の回復速度や血管機能を考えると、トータルでは鼻呼吸のほうが優秀かなーぐらいのイメージですね。

 

また、この研究の面白いポイントは、若くて健康な学生たちだけでなく高齢者にも応用できそうってところでしょう。年をとると、筋肉の回復力や血管の柔軟性がどんどん落ちてくるもんでして、そうなるとちょっとした運動でも疲れが残りがちになるんですよ。そんなときに鼻呼吸を意識すれば、一酸化窒素の力が引き出されて、回復力を底上げできるかもしれませんからねぇ。なので、高齢者の方におかれましては、ウォーキング中や軽い筋トレのときでも、鼻呼吸を意識してみるといいかもですね。

 

さらに言えば、この結果は筋トレにも適用できると思ってまして、鼻呼吸で一酸化窒素が増えれば、それによって血管が拡張して酸素や栄養が届きやすくなり、次のセットまでの回復がスムーズになるはず。とくに、インターバルが短めのサーキットトレーニングや高回数のパンプ系トレーニングでは、鼻呼吸の恩恵がより大きいかと思われます。

 

あと、鼻呼吸には副交感神経を刺激してリラックスを促す効果がありますんで、これによって、トレーニング中の過剰な興奮を抑え、冷静な判断力やフォームの維持に役立つ可能性もあるのではないかとも思うわけです(あくまで個人的な感想ですが)。

 

ということで、今回の話をまとめると、

 

  • 鼻呼吸は、運動中のパフォーマンスそのものには大きな差は出ないが、運動後の筋肉の回復速度や血管機能は鼻呼吸のほうが良い
  • これは鼻呼吸によってNOの産生が増えることが理由のひとつであり、高齢者やリカバリー重視のトレーニングには鼻呼吸を取り入れる価値あり

 

といった感じです。ちなみに、私も最近の筋トレ中には「できるだけ鼻呼吸」を意識してたりしまして、最初はちょっと苦しかったんですが、慣れてくると良い感じがしております。たぶん、心拍数や呼吸のリズムが整うことで、全体的に余裕が出てくるんでしょうな。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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