ある虐殺者の追憶 『アクト・オブ・キリング』
https://yuchrszk.blogspot.com/2014/04/blog-post_19.html
「アクト・オブ・キリング」を見ました。
60年代のインドネシアで共産主義者(と疑われた人)を殺しまくった男に、当時の殺人方法を再現した映画を作らせるという、コンセプトだけで「見たい」と思わせる一本。虐殺に関わった民兵(=チンピラ)たちが、現在でも英雄あつかいされており、笑顔で日常生活を送っている事実にまずは驚かされました。
殺人を再現と聞くといかにもエグそうですが、若作りで髪を黒く染めた元虐殺者アンワル・コンゴは北島三郎みたいなルックスだし、女装して映画に参加する手下の姿はマツコ・デラックスにそっくり。血のりや生首の特殊効果もダウンタウンの「ごっつええ感じ」を下回るレベルで、画面に映しだされる光景はシュールなコントそのものであります。
実際、わたしも何度かふきだしそうになりましたが、そこで行われているのは実際に起きた虐殺の再現なわけで、場内にはつねに「笑っていいのかな…」といった困惑ムードがただよっておりました。
それにしてもリアルなのが、当初は楽しそうに殺し方の説明をしていたアンワルが、少しずつ自分の犯した殺人の重さに気づいていくところ。倫理の崩壊は、まずは相手に「共産主義者」や「ユダヤ人」といった「記号」を貼り付けることから起きますが、フィクションの世界を経由することで「共産主義者」の記号性に気づいてしまい、ようやく殺人が現実感を持ち始めたのかと思います。
その結果として、ラストで虐殺者の身に起きる変化は圧巻の一言。記号が現実になったときは、まず人間は体から反応せずにはいられないんですね。 ここ数年の映画で、これほど真に迫ったシーンを見たことはありませんでした。夢に出てきそう。
そんなわけで、ひたすら困惑とリアルに満ちたドキュメンタリーの傑作。映画館でご覧になることをオススメします。