賢者のメンタルを育てる「デタッチドマインドフルネス」状態に入る5つの技法
「デタッチドマインドフルネス」でネガティブ思考に対処
ちょっと前に「メタ認知療法の効果が凄いよー」って話を書きました。
軽くおさらいすると、メタ認知療法っては「ネガティブな思考への反応を変えよう!」って発想のテクニック。ネガティブな思考を治すんじゃなくて、ネガティブな思考に対してどう振る舞うかを考えようぜ!みたいな考え方です。
で、そこで重要視されているのが「デタッチドマインドフルネス」って技法であります。デタッチド(Detached)は「分離」とか「距離を置く」みたいな意味なんで、要するに、悩みや不安の対象から一歩引いた視点を持つタイプのマインドフルネスですね。
「デタッチドマインドフルネス」ってなに?
一般的なマインドフルネスと何が違うのかと言うと、
- マインドフルネス:ネガティブな思考や感情がわいたのに気づいて、それを受け入れた状態。「あー、いま不安で手が震えてるなー。でも、そうなっている自分を認めよう」みたいな感じ。ネガティブを受け入れて、自然に去っていくのを待つのがポイント。
- デタッチドマインドフルネス:ネガティブな思考や感情から距離を置いて、ひたすら観察に徹する状態。「あー、いま不安が起きてるなー。でもこれは自分ではないなー」みたいな感じ。この時、「なぜネガティブな思考が起きてるんだ?」とか分析しないのがポイント。とにかく観察。
みたいなところ。ただし、今の「マインドフルネス」って人によって定義が違うんで、あくまでざっくりした違いであります。とりあえず「ネガティブ思考への反応を止める」と「思考と自分の切り離し」の2点に重きを置いてるんだなーぐらいにお考えください。
さて、個人的にデタッチドマインドフルネスをおもしろいなーと思うのは、瞑想のテクニックをまったく使わない点だったりします。一般的には、瞑想トレーニングを通して思考や感情への態度を改めるのが定番ですが、デタッチドでは「メタファー」や「言葉によるガイダンス」だけでマインドフルネスの状態を深めていくんですな。
「デタッチドマインドフルネス」を育む5つの手法
その具体的な方法は、メタ認知療法を作ったウェルズ博士の2005年論文(1)に出てまして、いろいろと参考になります。自分でも簡単にできそうなものをいくつか紹介しましょう。
1.自由連想タスク
まずはリラックスして座わり、その状態で以下の単語を読んでみます。
- リンゴ
- 誕生日
- 海岸
- 自転車
- バラ
- 猫
このとき単語を読んで、自分の心がどう動いたかを観察する。単語のイメージがわいたかもしれないし、何かの記憶が浮かんだかもしれないし、なんにも起きなかったかもしれませんが、とにかく心の変化を受け身で見つめるのがポイント。その感覚がデタッチドマインドフルネスであります。
要するに、心のなかに自動的に浮かんでくる思考やイメージを観察するためのトレーニングなので、これが上手くなると、ネガティブな思考や感情もただ観察できるようになっていくはず。自由連想に使う単語はなんでもOKですが、最初のうちはネガティブな連想につながらない言葉がいかも。
2.タイガータスク
目を閉じて「トラ」の姿を想像してみるトレーニング。具体的には、
- リラックスして目を閉じる
- 目の前に「トラ」のイメージを浮かべる
- そのイメージを変化させようとせず、ただ観察する
って感じ。こちらもシンプルですね。
ここでのポイントは、意識してトラを動かしたり角度を変えたりしないこと。実際に試すとわかりますが、イメージをただ見つめていると、勝手にトラが尻尾を振ったり顔を手で洗い始めたりして結構おもしろいです。
慣れてくると「イメージが勝手に動き出すのを見つめる感覚」がつかめてきますんで、後はそれをネガティブな思考や感情にも使っていけばOK。これがデタッチドマインドフルネスの感覚になります。
3.空想技法
いったん楽しい空想にひたった後で、そのイメージを客観的に見つめるトレーニング。手順としては、こんな感じです。
- 豪華なレストランでもリゾート地のバケーションでも何でもいいので、とにかく自分にとって楽しい空想をする
- 空想の世界にしばらくひたる
- 空想を続けながら、一歩下がったところから見てみる
- 空想が自動的に展開されていくのを見ている現在の自分に気づく
空想を客観的に観察しつつ、さらにそんな自分にも意識を向けるという、ひとつ上の段階のマインドフルネスになっております。やや難易度が高いものの、空想の世界から一気に自分のモードを切り替えるのに慣れると、かなりメンタルの柔軟性が高まっていい感じです。
4.雲のメタファー
ここからは、トレーニングというよりも、「例え話」を使ってデタッチドマインドフルネスの感覚をざっくりとつかむための方法になります。ただし、「例え話」とはいっても、そこで味わう感覚はデタッチドマインドフルネスと同じなんで、結果的にはトレーニングにもなってたりしますが。
まず「雲のメタファー」は、以下のような文章を読んでみるだけでOK。
デタッチドマインドフルネスは、雲の中にいるあなたのそばを、別の雲が通り過ぎていくのを見つめるのに似ています。そもそも雲とは、地球が自分の天気を管理するための大きなシステムの一部。雲の形を変えてみたり、雲の動きをコントロールするのは不可能だし時間のムダです。
通りすぎる雲の観察日記をつけるように、自分の思考や感情もとりあつかってください。雲はやがて通り過ぎていきますが、雲があるあいだは手出しをしないでください。
仏教でも空と雲の例え話が使われますが、メタ認知療法でも似たようなことをするんですねぇ。
5.電車のメタファー
メタファー系の技法をもうひとつ。今度は雲の代わりに電車を使います。
自分の心を駅のようなものと考えてみましょう。思考と感情は、駅を通り過ぎる電車です。
電車はホームにいったん停まり、やがて必ず通り過ぎていきます。あなたはホームに立つ見物人になり、ただ電車が通り過ぎていくのを見てください。電車に乗り込まない限り、別の場所に着いてしまう心配はありません。
こちらも、思考や感情を「必ず過ぎ去るもの」として認識するのがポイントですね。
まとめ
そんなわけで、「デタッチドマインドフルネス」の代表的な技法でした。いずれもメタ認知療法の現場で実際に使われている手法ですが、私の経験で言うと、これらのテクニックを試した人の8割は「この程度の感覚でいいの?」みたいな反応になりますね(笑)
それもそのはずで、デタッチドマインドフルネスの感覚って、普通に暮らし手入れば必ずどこかで体験しているはずなんですよ。あまりにもなじみ深い感覚なので、意外性がないんですね。なので、マインドフルネスに対して過度な期待を抱いている人ほど、「へ?こんなもん?」って感想になりがち。
が、ここで大事なのは、「いざ!」という時に自由にデタッチドマインドフルネスを起動できるとこでして。脳がネガティブなモードに入ると、ついつい思考や感情と自分が一体化しちゃうんので、そこでデタッチドな状態になれるかどうかがポイントなんすよね。
そのためにも、上で紹介したタスクやメタファーで、デタッチドマインドフルネスの感覚を体に染み込ませておくと吉。慣れてくると、ジョジョのスタンドみたいに自由に起動できるようになるはずですんで。