「肥満の方が実は長生き!」ってデータがあるのは、実は「あれ」のおかげだったらしい
肥満の方が長生き問題
「肥満のパラドックス」って現象がよく言われるんですよ。有名なのは2015の観察研究(1)で、6,850 万人のデータを25年にわたって追いかけたら、
- 心疾患だと診断された患者さんは、標準体重よりも肥満ぎみのほうが長生きだった!
って結果が出たんですな。ご存じのとおり肥満は万病の元でして、心疾患、癌、糖尿病などさまざまな病気の発症リスクを上げるのは有名な話。それにもかかわらず「太ってたほうが長生き!」って結論が出たんで、いろいろとややこしいことになったわけです。近年では、ここらへんのデータをもとに、「実は太ってたほうが健康なのだ!」みたいな主張もチラホラと出てきたりとか。いやー、難しいですね。
が、新しく出てきた研究(2)では、「それって筋肉量のせいじゃない?」って結論になってて思わず納得でありました。
肥満のパラドックスは筋肉量で説明できる
これはノースウエスタン医科大学の研究で、11,687人の男女の体型をDEXA法で調べたうえで、その後の9.3年間にどんな違いが出るかをチェックしたんですな。研究者いわく、
肥満のパラドックスは大きな混乱をもたらし、さらには患者の健康にダメージを与えている。近ごろでは、肥満体重でも心疾患リスクが上がらないこともある事実が有名になってきたからだ。
そのせいで、これまでにも複数の患者から「研究では肥満の方が長生きなのに、なんで体重を落とさなきゃいけないんですか?」と聞かれてきた。そのたびに私は「体重を落とすのは、心疾患だけでなく、癌のような他の病気を防ぐのにも役立つんですよ」と言うしかなかったのだ。
ってことで、なかなかお困りだったようです。そりゃそうですよねー。
でもって、調査の結果はこんなグラフになりました。緑の線が「筋肉が少ない人」で青い線が「筋肉が多い人」です。
Credit: Abramowitz et al. CC-BY
これをざっくり言いますと、
- やや太めの人(BMIが22〜25ぐらい)が筋肉が少ないと、筋肉が多い太めの人に比べて全死亡率が26%高くなる!
- 太った人(BMIが25〜30ぐらい)で筋肉が少ない場合は、筋肉が多い太った人に比べて全死亡率が49%高くなる!
みたいな感じです。同じ肥満体でも、筋肉の量によって死亡率がまったく変わっちゃうわけっすな。さらには、
- 筋肉量を組み込むと「肥満のパラドックス」は消える!
って傾向が出てるのもおもしろいポイント。具体的には、
- 筋肉量を考慮しない場合は、BMI 18.5-25ぐらいの方がBMI 25-30の人より全死亡率は高い
- が、筋肉量を考慮に入れるとBMIは低いほうが全死亡率が低くなり、BMI 30-40ぐらいの人の全死亡率が跳ね上がる
ぐらいの感じです。やっぱBMIだけで健康レベルを測ると、何かと問題が出てくるなーって印象ですねぇ。
まとめ
もちろん、この研究にも限界はあって、運動量とかタバコの習慣なんかはすべて参加者の自己申告にもとづいております。また、これだけだと「筋肉があればあるほど死亡率は下がるのか?」ってのもよくわからないところです。
とはいえ研究者も言うとおり、
筋肉量は加齢による慢性病の発症から身を守るプロテクターになってくれる。筋肉によってたんぱく質の量が保たれれば、カタボリックストレスにも良い影響が出る。筋肉は全身の代謝と炎症をコントロールする重要なポイントなのだ。
ってことなんで、「とりあえず筋肉をつけておくとアンチエイジングがはかどるぞ!」とは言えそうな感じですね。