糖質を減らすとエネルギー消費量が爆上げする!はどこまで本当か?
糖質制限に関するご質問をいただきました。
糖質制限と消費カロリーについての質問です。
以前、糖質制限で消費カロリーが増えるのはタンパク質の摂取量が多くなるからとの記事を拝見しました。しかし、あるブログではタンパク質量を固定したにも関わらず、消費カロリーが増加したという研究が紹介されていました。この論文についてのパレオさんのご意見を伺いたいです!
とのこと(質問ではブログのアドレスも貼ってあったんですが、いちおう伏せさせていただきました)。ここで触れられている論文ってのは2018年のもので(R)、その結論ってのは上の文章にもある通り、
- 糖質制限をしたほうが、カロリー摂取量とタンパク質をそろえても1日の消費カロリーが増えたよ!
みたいになってます。ざっくり実験の概要をお伝えしますと、
- まずは普通にカロリー制限をして、体重が12%以上減った人だけを参加者に選ぶ
- みんな体重の維持に必要なカロリーを食べ、そのうち20%をタンパク質にする
- 炭水化物は総カロリーの20%、40%、60%のどれかに割り当てる
って感じで20週間の様子を見ています。カロリーとタンパク質を調整した上で糖質の量を変えたらどうなるか?ってポイントをチェックしたわけっすね。
その結果はと言いますと、
- 炭水化物を20%にしたグループは、60%のグループよりエネルギー消費量が1日209〜279kcalも多かった!
だったんですな。いやー、この数値は確かにすごいっすね。
さて、この結果を見れば「やはり糖質制限最強!論争に完全決着!」みたいに思っても仕方ないところですけど、個人的には「どうすかねぇ?」と思っております。詳しくデータを見てると、なんか謎のところがいろいろあるもんですから。
たとえば、まず気になるのは基礎代謝量ですね。実はこの実験では基礎代謝もちゃんと測ってまして、なぜかどのグループも数字に変化が出てないんですよ。「糖質制限でエネルギー消費量が上がった!」ってのが事実ならば、基礎代謝に変化がないとおかしいですからねぇ。
そう考えると、このエネルギー消費量の差って「活動量の違いが原因なのでは?」って気もしてくるわけですが、実際のところ、データを見るとそんなに変わりはないんですよね。厳密に言えば、炭水化物40〜60%グループの方が1日3〜4分ほどハードな運動の量が減ってルものの、これで説明できるのは1日30〜50kcalぐらいでしょうしね。
ってことで、いろいろ疑問の多い研究だなーとか思ってたわけですが、実はすでに原論文(R)に物言いのレスポンスが付いてたりします。反論の主はNIHケビン・ホール博士で、長年にわたって糖質制限を調べてる有名な人です。
で、ここでホール博士が言ってるポイントを簡単にまとめると、
- ここでエネルギー消費を測るために使われている二重標識水法は、この実験のように体重が変化する状態で使うと信頼性がとても下がる(体重が一定の状態なら信頼性はとても高い)
- この研究では途中で指標を変えており、本当はカロリー制限にチャレンジする前の数値を使う予定だったのに、糖質制限のスタート直前にベースラインを変えている(悪くいえばゴールポストを動かしたようなイメージ)
- 予定どおりのベースラインを使って再計算すると、統計的に有意ではなくなる
みたいな感じ。なかなかツラい結果ですが、ベースラインの変更については判断が難しくて、あとで「こっちの方がふさわしい!」と思うこともよくありますからね。ただし、個人的には二重標識水法の問題は大きそうに思いますし、ホール博士の指摘が上にあげた疑問点を解決してくれるのも確かなんですよねぇ。
そんなわけで、ちょっと長くなりましたが、
- この実験の結果は、説明に苦しむようなものが多い
- 計測法と分析に問題がある可能性も大きい
みたいなところです。とりあえず、「このデータだとなんとも言えないかなぁ」ってのが正直なとこじゃないですかねー。