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「本番で急に実力が発揮できなくなる!」現象はなぜ起きる?そして、どうトレーニングすればいい?

 
 

本番のプレッシャーで急になにもできなくなるのは誰にでもあること。いわゆるチョークやイップスと呼ばれる現象で、私もテコンドー審査などでは急に「あれ?この次の動きなんだっけ?」みたいに基本の動作を忘れたりするんで、困っております。

 

 

なぜこのような現象が起きるかについては昔から研究が進められてまして、一説には脳の扁桃体(原始的な感情を司るエリア)が興奮しすぎて、交感神経が活性化した結果として体がガチガチになるのが原因と言われてますが、まだ謎が多い分野だったりするんですな。

 

でもって、新たにソニーコンピュータサイエンス研究所などのチームが行った研究(R)では、「なんで本番でミスが起きるの? この問題を防ぐためのトレーニングはあるの?」ってのを調べてくれててめちゃくちゃ参考になりました。

 

 

いちおうチームの問題意識を紹介しておきますと、

 

ピアニストやスポーツ選手、外科医などの専門家は、膨大な練習によって技術を習得する。しかし、ピアノコンクールやオリンピックのようにプレッシャーがかかる場面では、心理的ストレスによるミスがどのような神経生理学的・心理学的メカニズムによって引き起こされるのかは、まだ解明されていない。

 

って感じです。プレッシャーで本領が発揮できなくなる現象は、まだほとんど原因がわかってないわけですね。

 

 

そこでチームは、こんな実験をしております。

 

  • 実験1:11人のピアニストにショパンの曲を弾いてもらうが、その際に研究者が微妙にずれた間隔でピアノの音が出るタイミングを遅らせ、演奏がどうなるかを調べる。この時、参加者の真横に別のピアニストに立ってもらい、演奏の緊張感を高める

 

  • 実験2:30人のピアニストを対象に、ピアノの音が微妙に遅れて出る環境で演奏のトレーニングを数十分ほど行う。その際に、全体を「音の遅れを無視して演奏するグループ」と「音の遅れに反応して速いペースで演奏するグループ」にわける。その後、みんなにストレスがある状況でショパンを弾いてもらう

 

ってことで、これが何を調べてるのかと言いますと、「私たちは自分のミスに過剰反応することでイップスが起きるのではないか?」ってとこをチェックしたわけです。要するに、

 

  1. ピアノを弾いてるときに、自分が意図したよりも遅れて弾くミスをする

  2. そのミスに必要以上に反応しまくり、ミスを取り戻そうとしてペースが乱れる

  3. さらにミスが増えて、過剰反応がどんどんブースト

  4. イップス!

 

みたいな流れを想定してるわけです。本当は無視できるはずのミスに過剰に反応した結果、最後にはなにもできなくなっちゃうんじゃないか、と。これはありそうな仮説ですねー。

 

 

でもって、結果はチームの予想どおりでして、

 

  • どの参加者も、メンタルが緊張してる状態では、音の遅れに反応して演奏タイミングの正確さが減った
  • しかし、事前に「音の遅れを無視して演奏するトレーニング」をした場合は、演奏の乱れが見られなくなった

 

だったそうです。本番の前にミスを無視するトレーニングをしておくと、本番でも過剰反応にハマらずに済むみたいっすね。

 

 

もちろん、これはピアニストだけの研究なので、ほかの種目にも当てはまるかどうかは謎なんですけど、理屈としては十分に応用できそうな気がするわけです。研究チームいわく、

 

心理ストレスにともなう演奏スキルの低下の背景には、聴覚情報を用いて適切に運動を制御するというエキスパート特有の技能が失調し、あたかも初心者のような状態になってしまうこと、このような技能失調は事前の聴覚運動トレーニングによって防げる可能性があることが明らかになった。

 

とのことで、これはプレッシャーがかかる状況に身を置く人には使えそうな知見じゃないでしょうか。つまり、

 

  1. 普段どおりに練習をしつつ、いつもよりも小さなミスに意識を向ける
  2. 練習でミスが起きたら、それを意図的に無視して通常どおりの動きを続ける

 

って感じで、小さなミスが起きても意図的に「ふーん」ぐらいの気持ちに収めることを癖づけていくと良いかもしれません。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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