記憶力のプロが「酒はやめろ! 小説を読め! 社交しろ!」と言っておられます
「完全“記憶”ガイド(The Complete Guide to Memory)」って本をチビチビ読んでおります。神経科学者のリチャード・レスタック先生の新刊で、博士は米国精神神経学会の元会長だったお偉いさんであります。
名前のとおり、記憶力をあげる方法をガッツリとまとめた一冊で、「あれ?いまなにしようと思ってたんだっけ?」や「読んだ本を思い出せない?」みたいな状態を解決してくれる内容になっております。記憶力が練習で向上させられるのは有名な話でしょうが、最近はアルツハイマー病を予防できるケースもあるってことで、非常に希望が持てる感じですね。
で、個人的にタメになったのは、以下のようなポイントです。
- 「記憶の衰え」を不安に思う人は多いが、たいていはそこまで心配するほどのことではないケースが多い。
- 記憶の技術とは「注意の技術」であり、「ものごとを覚えられない!」という状態は、たんに自分が注意を払わなかっただけであるケースがほとんどである。たとえば、同僚と会話中に他のことを考えていたら、後で何を話したかを思い出せないのは当たり前。
- 記憶力を高める方法の代表は、小説を読むことである。デュマの『モンテ・クリスト伯』のように複数のキャラが登場する小説は、精神を刺激する良いトレーニングとして機能する。キャラの把握が難しいときは、新しい登場人物が出てきたところで下線を引き、後でめくって思い出すという方法を使っても構わない。キャラを覚えられないからと言って、複雑な小説を読むのを止めてしまうのは非常にもったいない。
- また、小説の複雑プロットを把握することは、ワーキングメモリの訓練にもなる。ワーキングメモリは非常に重要な機能で、これがないと大半の作業を行うことができない。ワーキングメモリは30代から低下していくので、毎日練習するとよい。
- その他にも、「記憶の宮殿」も、記憶力のトレーニングとしては非常に優秀である。くわしいやり方は「全米記憶力チャンピオンが教える記憶の宮殿のやり方」などをご参照あれ。
- 近年の認知症研究によれば、喫煙、肥満、大量飲酒などを抑えることで、アルツハイマー病の40%を予防または遅らせることができる。65歳以上になると脳神経細胞は若いときより少なくなるのが普通でである、遅くとも70歳までには禁酒するのが推奨される。アルコールは非常に弱い神経毒で、神経細胞には良くない。
- 記憶力にとってもうひとつ重要なのは、聴覚や視覚の維持である。耳と目が衰えると、会話や趣味に没頭しにくくなるため、どんどんと記憶力が下がってしまうケースが非常に多い。もし聴覚と視覚に問題が出たら、すぐに治療を行うべき。
- もっとも、記憶力には負の側面がある。記憶力が良すぎた場合は、過去の恥ずかしい失敗やPTSDのフラッシュバックなども、根強く脳に刻まれてしまうことになる。しかし、このような苦しい記憶を残さないようにする技術は開発が進んでおり、たとえば高血圧の治療に使われるベータ・ブロッカーは、嫌な記憶によるネガティブな感情を鈍らせることが分かっている。
ということで、あくまで本のごく一部ではありますが、すぐに生活に取り入れられそうなポイントは以上です。「小説を読め!」「酒をやめろ!」「記憶の宮殿をやれ!」「耳と目をいたわれ!」ってのを強調しているのは納得ですねぇ。
また、個人的には、本書のなかにある「記憶とは私たちそのものなのだ!」って考え方も、非常に重要だと思わされました。記憶が弱くなると、友人と家族との共通の過去を回想できなくなって関係性は弱まるし、自分の過去を思い出せなくなると人生の意味と質感も失われちゃうしで、自分の存在感がどんどんとおぼろげになっていくんだそうな。
実際のところ、認知症にかかった人たちは、人格の特性がどんどん弱くなり、よりフラットになっていき、とうてい同じ人間とは思えない状態になっていくらしい。うーん、おそろしい。
ということで、私のようなアラフィフはもちろん、30を超えた方は日々のトレーニングが必須。幸い私は小説が好きなので、もうちょい複雑な小説にもガンガン挑んでいこうと、あらためて思わされました(ピンチョンとか、もっと読もう……)。小説が苦手な方は、記憶の宮殿とかをどーぞ。