ミシガン大学研究者「情熱が持てる仕事を選ぶことよりも、キャリア選びで大事なことは他にあるぞ!」
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『情熱の問題(The Trouble With Passion)』って本をチラホラ読んでおります、著者のエリン・チェフ先生はミシガン大学の社会学者で、社会の不平等について調べている学者さんです。
で、本書が問題にしているのは、タイトルどおり「情熱をもとに仕事を決めるな!」みたいなポイントです。「科学的な適職」でも「好きを仕事にすると問題が起きやすいよー」って話を書いてますが、その点をガッツリ掘り下げた感じですね。
チェフ先生は、もともと男女の雇用の不平等や、低学歴な労働者における不平等について調べていたんですが、そのうちに「『情熱を追え!』みたいなアドバイスが良くないのでは?」って結論にいたったんだそうな。ここでチェフ先生が問題にしている「情熱を追え!」ってのは、
- 自分の仕事を決めるためのベストな方法は、自分の充実感や有意義だと思うことに焦点を当てることだ!
みたいな考え方のことです。まさに「好きを仕事に!」とか「楽しいことで稼げ!」みたいな発想のことでして、チェフ先生は、この考え方によって逆に生産性が損なわれてしまうし、職場における搾取や不平等が生まれてしまうんじゃないかと考えておられるわけです。
では、「好きを仕事に!」とか「情熱を追え!」って考え方にどんな問題があるかというと、先生は以下のように指摘しておられます。
- 社員を雇う側が求職者をどのように評価しているかを調べた研究によれば、仕事に対する情熱をアピールする応募者の方が、そうでない人よりも採用率が高かった。これは、「情熱がある人ほど報酬が低くてもよく働くだろう」と思われる可能性が高いからで、決して雇用者に情熱が伝わったからではない(ことが多い)。そのため、情熱を持った者ほど搾取され、やがて生産性も衰えていきやすくなる。
- 社会科学のこれまでの研究によれば、仕事に情熱を持っている人が、そうでない人よりも高い成果を生み出しているという証拠はない。
- それどころか、過去の研究によれば、仕事に熱中することで生産性が低下するとの報告も多い。仕事に情熱を持った人は、仕事とプライベートを切り離すのが難しく、そのせいで創造性が下がってしまうケースが多いからである。
- それでも、多くの人が自分の情熱を追い求めようとするのは、社会が「労働に集中してコミットせよ!」と要求しているからである。特に理系の専門家は、週に50〜70時間と日常的に働くことが期待されており、自分が好きでもない職場には、誰でも進んで行こうとはしない。
- とはいえ、自分の仕事を好きになっていけないという話ではない。実際には、自分の仕事を好きな人はエンゲージメントが高いとの報告もあったりはする(それでも生産性に結びつかないのが切ないわけですが)。
- 最も重要なのは、どんな職業だろうが、自分の仕事を好きになれるかどうかは職場の人間関係によるが大きいというポイントである。「職場で他者から尊厳を持って扱われているか?」は、キャリアの幸福にとって「情熱を持つこと」よりも重要であり、これはどのような種類のキャリアでも変わらない。
- もちろん、以上の話は、「嫌いな仕事についてでも、経済的な安定や休暇を優先せよ」と主張しているわけではない。大事なポイントは、情熱の追求をキャリア決定の中心に置いたり、情熱を追求するために仕事以外のものを犠牲にするのは良くないぞ、というところである。
- 情熱の弊害を避けるためには、仕事のほかにも好きなことを増やすのが重要となる。仕事以外にも刺激的で楽しいことをスケジュールに入れて、情熱のポートフォリオを多様にしたほうがよい。もし自分のアイデンティティを「情熱のある仕事」だけに預けてしまうと、その仕事から情熱がなくなったり、情熱のない部署に配属されたりすると、自分が失われたように感じてしまう。いずれにせよ、仕事以外にアイデンティティの場を確立しておくのが望ましい。
ということで、「科学的な適職」で指摘した「好きを仕事に」の害とはまた異なる観点から、情熱のデメリットを指摘していて、参考になる方は多いのではないでしょうか。「情熱のポートフォリオを広げとけ!」ってのは、分散投資のアドバイスとそっくりで、そこらへんもおもしろいですね。「1つのカゴに卵を盛るな!」ってアドバイスは、情熱にも当てはまるわけっすね。