糖質が少ない食事は寿命が4年減るかもだ!という観察研究の話
「糖質って体にいいの?悪いの?」って議論は昔からあるわけです。いっぽうの極には「糖質よくない!可能な限り減らそう」って説があり、またいっぽうでは「糖質はガンガン食ってOK!」って考え方もあったりとか。いまの日本だと「まぁちょっと糖質は減らしたほうがいいよね……」ぐらいの雰囲気がただよってる感じでしょうか。
といったところで、かの有名誌であるランセットに「結局、どれぐらいの糖質が健康にはベストなの?」って問題を調べた論文(1)が出ていておもしろかったです。
これは15,428人の食生活を25年にわたって追っかけた観察研究で、どんな調査かと言いますと、
- 全員がいつもどんな食事をしているかを質問票でチェック
- 6回分の集計データをまとめて、炭水化物の摂取量と総死亡率の相関をくらべる
って感じです。もちろん、運動レベル、喫煙、糖尿のような数字に影響を与える要素ははぶかれております。参加者が多いうえに最新の統計手法も使われていて、なかなかよろしいのではないでしょうか。
でもってこの研究では、1日の糖質の摂取量を以下のように分類してます。
- 低糖質=総カロリーの40%以下
- ほどほど=総カロリーの50〜55%
- 高糖質=総カロリーの70%以上
そこでどのような結果が出たかと言いますと、以下のグラフをどうぞ。ヨコ軸が糖質の摂取量で、タテ軸が総死亡の変化です
ってことで、ここからざっくり言えるのは、
- 糖質が50%前後のあたりがもっとも死亡率は低い!
- 糖質が少なすぎても多すぎても死亡率は上がる!
ってことです。研究者の推定によりますと、
- だいたい50歳の人が50%の糖質を取り続けると、低糖質な人より寿命が4年長くなる!(+33年 vs. +29年)。高糖質な人と比べても寿命が1年長くなる!(+33年 vs. +32年)
だったそうな。この研究だと40%以下でも「低糖質」と判断されるレベルで、糖質制限をやってる人にはちょっと怖いデータっすな。
さらに、この論文では過去の糖質データから432,179人分をまとめたメタ分析もやってまして、やはり似たような結果が出ております。簡単にいえば、こちらでも低糖質&高糖質な人ほど寿命が短い傾向があったんですな。うーん、恐ろしい。
とはいえ、この研究にも難癖をつけようと思えばできまして、
- 食事の内容が参加者のレポートだけを頼りにしている
- カロリーの質はまったく考慮されていない
ってあたりは判断が難しいところではあります。たとえば、葉物野菜ばっかり食べる糖質制限と、加工肉ばっかり食べる糖質制限じゃ結果はまるっきり違うでしょうからねぇ。
事実、狩猟採集民のデータを見てると全体的に糖質の摂取量はバラバラでして、なかには20%ぐらいの糖質で過ごす部族がいれば、95%の糖質で過ごす部族もいたりとか。そのいずれもが良好の健康状態を維持してるわけですから、いよいよ判断は難しくなっていくわけです。
もっとも、このへんは研究チームも考慮していて、以下のようにコメントしております。
この発見には、いくつかの説明が考えられる。第一に、糖質制限ダイエットは野菜・フルーツ・穀類の摂取量が減り、ARICのコホートが示すとおり動物性タンパク質が増える。これらの要素は、いずれも死亡率を高める要素だ。
第二に、糖質制限とバランス食では生理活性物質の量が違う。分枝鎖アミノ酸、脂肪酸、食物繊維、ファイトケミカル、ヘム鉄、ビタミン、ミネラルなどだ。長期の糖質制限は、体に炎症を起こし、生物学的な老化を促進し、酸化ストレスを発生させる。これは、特に植物性タンパクが少なく動物性タンパク質が多い場合に起きやすい。
その一方で、アジアや発展途上国によく見られる糖質が多い食事は、白米のように精製された炭水化物が増えがちになる。このような食事は質が低い食生活を反映しているのかも知れず、結果として慢性的に高まったグリセミックロードは、代謝にマイナスの影響をおよぼす。
要するに、「糖そのものが良い悪い」の問題ではなくて、あくまで三大栄養素のバランスが崩れたせいで必要な栄養が取れないのが問題なのだ、と。ここらへんは、実は「三大栄養素の割合を気にするのは、そろそろ止めるべきだと思う」と言い切ったイエール大学の見解に近いのではないかと。個人的にも賛成であります。
ってことで、結局のところ何が言いたいかと言いますと、
- 現代社会の環境では、とりあえず「ほどほど」の糖質を目指したほうがメリットは多そう
- ただし、ちゃんとカロリーの質に気を配れるのであれば、糖質制限でもまぁいいんじゃない?(めんどうだけど)
- もちろん、カロリーの質が良ければ高糖質でもいいのかもよ
みたいなことです。どうぞよしなに。