「最高の体調」のボーナストラック編#7:「ジョブクラフティング」
「最高の体調」に収録しきれなかった文章を紹介していくコーナーでーす。「「最高の体調」のボーナストラック編#1:「ポリフェノールと腸」」に書いたとおり、本書から漏れた文章を紹介していきます。
さて、ここで紹介するのは、前回の「好きなことを仕事にする者は本当に幸せか?」の続きに当たるパートです。前回は「好きを仕事に!」が決して正しいわけじゃないって話でしたが、ここでは「ならばどうすればいいの?」って問題をさっくりまとめてあります。ではどうぞー。
何がミッドウエスト病院の清掃チームを変えたのか?
病院の清掃は過酷な仕事です。一般企業のクリーニングより嘔吐や排泄物に接する確率が高く、手術室の床にこぼれた血液をぬぐい去るのも日常茶飯事。間違って使い捨ての注射器に触れれば感染症の可能性もあります。
そのため、病院の清掃員はモチベーションの低下に悩むことが多く、すぐに退職してしまうケースも珍しくありません。
2001年、ミシガン大学の心理学者ジェーン・ダットン博士が、ミッドウエスト病院の清掃チームに、ある介入実験を行いました。
その結果、数週間で清掃員のモチベーションは回復し、院内の清掃レベルも改善。かつては夜中まで汚れていた床やトイレが夕方にはピカピカになり、患者からも感謝の声が多く出るようになったと言います。いったい、なにがそこまで清掃チームを変えたのでしょうか?
病院スタッグを変えたシンプルな解決法
ダットン博士の解決策は、シンプルなものでした。清掃チームのメンバーを個別に呼び出し、それぞれが担当する病棟の患者と定期的に話をさせたのです。
清掃チームには、大きな意識の変化が生まれました。実験前は自分のことを「ただのスタッフ」だと思っていた者が、「掃除の仕事は『治療』のプロセスのひとつだ」という考え方に変化。ある者は自発的に患者の部屋にティッシュや水を届けるようになり、またある者は全身麻痺の患者の病室で花を交換する活動を始めました。
ダットン博士は次のようにコメントしています。
現代の仕事は官僚的で、いろいろなタイプの人間をひとつの型にはめようとする。仕事が退屈でドライに感じられるのも当然だ。しかし、自分の仕事を価値観にもとづいてとらえ直せば、どんな職業でも深い意味が生まれる
これは、「ジョブクラフティング」と呼ばれる手法です。2000年代の初めから研究が進んだ分野で、イエール大学の検証試験などにより、従業員のモチベーションを高める効果が大きいことがわかってきました。
ジョブクラフティングとは?
ジョブクラフティングの実践には、「仕事が持つ意義」を意識して掘り下げてみるのがポイントです。自分の仕事について「何のためにやっているのか?」や「この作業で喜ぶ人は誰だろう?」といった質問を重ね、大きな価値観を探っていくのです。202ページの「上位プロジェクト分析」を使って、試しにあなたの仕事を深掘りしてみてください。
また、さらにジョブクラフティングの効果を高めるには、エンドユーザーに会ってみるのも有効です。「GIVE & TAKE」などの著作で有名なアダム・グラントが行った実験では、大学の寄付金係と学生を面会させたところ、その直後から週の電話アポイント時間が142%も増え、全体の収益にいたっては400%にアップしました。エンドユーザーの存在が、仕事への価値観を高めたのです。
ジョブクラフティングは、すでに一部の企業で成果を上げており、フェイスブックでは定期的にユーザーの感謝の手紙を開発チームに読ませ、建設機械の大手ディア・アンド・カンパニーは従業員とユーザーがじかに会う機会をもうけています。最先端の企業ほど、あらためて仕事の価値観の問題を見直しつつあるのです。
仕事の価値観は、たんにマインドセットを変える以上の効果を持っています。
病院の清掃チームが自分を「治療に欠かせないメンバーの一員」だととらえ直した瞬間から、尿瓶は「洗うべき物体」ではなく「患者の健康レベルを示す指標」に変わるでしょう。そこに、新たな行動と責任が生まれるからです。