睡眠を圧縮して効率を上げる「多相性睡眠」ってどこまで本当なの?
ちょい前に「睡眠を1日4.5時間まで減らして1年で博士号を取った男の話」なんてのを書きました。これは「多相性睡眠を使って勉強時間を伸ばしたよー」って話でして、
- 日中は、1回20分の睡眠を6時間ごと3回とる
- 夜は3.5時間だけ眠る
ってやり方で睡眠時間を圧縮して勉強を続けたんだそうな。すごいっすねぇ。
ただ、この多相性睡眠についてはよくわからんとこが多く、「個人の体験談ばっかでなんとも言えんなぁ……」って感じだったんですが、近ごろ国立睡眠財団からレポート(R)を出してくれてまして、非常に良い感じでした。
これは多相性睡眠に関する22件の先行研究を調べたレビューになっていて、1930年代〜2020年までに行われた実験をまとめて大きな結論を出してくれてます(午後の昼寝やシエスタの研究は除外)。まずその結論から先に言っちゃうと、
多相性の睡眠でメリットが得られることを示す証拠は見つからなかった。
のようになります。まぁこれがすべてと言ってもいいので、結論しか興味がない方はここで読むのをやめてもらっても問題ないっすね。
ただそれで終わるのもつまらないので、もうちょい細かいところをメモっておくと、こんな感じです。
多相性睡眠で眠りの質は上がるか?
- 28時間ごとに睡眠と覚醒サイクルを繰り返す「連結型睡眠スケジュール」と14時間ごとに睡眠と覚醒サイクルを繰り返す「二相性睡眠スケジュール」を比べた試験では、二相性を使った参加者の睡眠の質が下がり、入眠までの時間が長くなり、覚醒時間も多くなり、浅い睡眠の時間が伸びた。
- 3時間の多相性睡眠スケジュール(3時間ごとに1時間寝る)と8時間の連結睡眠スケジュール(要するに普通の睡眠)を比べた試験では、多相性睡眠グループは全体の56%の時間しか眠れなかったのに対し、連結睡眠スケジュールでは90%だった。
多相性睡眠でメンタルは改善するか?
- 船員を対象にした試験では、「60分睡眠→160分起床」のスケジュールで40時間過ごした船員は、40時間の試験期間中に一睡もしなかった船員よりも単語の想起テストの成績が悪かった。
- 僧侶を対象にした試験では、夜間に礼拝のために目覚める分割睡眠スケジュールを採用した僧侶は、普通に眠った僧侶に比べて、記憶の問題を訴えるケースが多かった。
- 複数の研究において、多相性睡眠は気分の悪化と関連しており、多相性睡眠スケジュールにさらされている期間が長くなるほど、抑うつ度の評価が高くなった。イライラや感情的な不快感も、多相性睡眠で増えるケースが多かった。
多相性睡眠で生産性は改善するか?
- 二相性または多相性睡眠スケジュールとパフォーマンスの関係を調べた試験では、視覚的な注意力、手の安定性、タッピング速度、記憶力などの認知機能の主要領域でパフォーマンスの低下が報告された
- 複数の研究により、慢性的な睡眠不足に陥った人は、自分のパフォーマンスを過大評価する傾向が確認されている。そのため、多相性睡眠を実践する人の証言は、自分の覚醒度を過大評価している可能性が高い。
多相性睡眠で健康は改善するか?
- 多相性睡眠と健康を調べたデータは少ないが、既存の文献では、健康への悪影響が実証されている。多相性睡眠スケジュールは、睡眠不足、悪い概日リズムでの睡眠、睡眠効率の低下、睡眠の中断と断片化、概日リズムの乱れ、レム睡眠の不足などを起こす可能性がある。
ってことで全体的にボロボロと申しますか、現時点で多相性睡眠を支持することはできなそうですね。
個人的には「多相性睡眠の証言は自分のパフォーマンスを過大評価しがち」ってのが笑いました。海外の多相性睡眠コミュを見てると、やたらとイケイケなコメントを見かけたりするんですが、あれは徹夜明けのテンションだったのか(笑)。
研究チームいわく、
多相性の睡眠スケジュール、およびそれらのスケジュールに内在する睡眠不足は、さまざまな身体的健康、精神的健康、およびパフォーマンスの悪影響と関連しているというのが総意である。
24時間あたりの睡眠時間を大幅に減らしたり、1日24時間の中で睡眠を複数のエピソードに分割するようなスケジュールは推奨されない。
ということで、やはり睡眠時間を圧縮できるようなうまい話はないってことで、あらためて普通に眠ろうと思いました。