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今週半ばの小ネタ:睡眠に効くプロテイン、恋愛相手のスマホを盗み見る人、都市は意外とメンタルに悪くない説


ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。

  

 

 

 

「植物プロテイン vs. 動物プロテイン」睡眠の質を上げるのはどっちだ?

ぐっすり寝るにはアミノ酸が大事!みたいな話がよくあるわけです。というのも、アミノ酸ってのは、睡眠に必要なホルモン(メラトニンやセロトニン)の原料になるので、適切なアミノ酸がないと、どうしても睡眠の質が下がっちゃうんですよ。

 

 

ここで重要なのが「トリプトファン」ってアミノ酸で、こいつの摂取量を増やすと睡眠が改善するってデータは少なくなかったりします。もちろん、私もトリプトファンの摂取量は気にしてますしね。

 

 

ただ、ここで問題になるのが、タンパク質をたくさん摂取すると、同時に大分子中性アミノ酸(LNAA)の摂取量も増えちゃうところです。LNAAには、トリプトファンが脳に届くのをブロックする性質がありまして、睡眠の質を下げてしまうかもしれないんですよ。

 

 

そう考えると、「トリプトファンの絶対的な摂取量よりも、トリプトファンとLNAAの比率の方が重要なのでは?」って疑問がわくのは当然の話。この疑問が事実なら、無闇にホエイプロテインを飲んでも、睡眠の質が改善しない可能性があるんですな。

 

 

というわけで、シンガポールで行われた研究(R)では、トリプトファンとLNAAの比率と睡眠時間の関係を調べてくれてて、参考になりました。




実験の概要を簡単にまとめておくと、以下のようになります。

 

  1. シンガポール在住の中高年者104名を集める

  2. みんなの食事記録を使い、以下のポイントを調べる

    1. 普段のタンパク質摂取量と睡眠の質 

    2. タンパク質の供給源(動物、植物、乳製品)と睡眠の質 

    3. トリプトファンとLNAAの体内量、それらの相対的な比率と睡眠の質

 

でもって、その他の栄養素などの要素を調整したところ、結果はこんな感じになりました。

 

  • 植物性トリプトファンの摂取量が多いほど、睡眠時間が長く、トリプトファンとLNAAの比率も高かった
  • 乳製品トリプトファン(および乳製品タンパク質)の摂取量が多いほど、睡眠時間が短い傾向があった

 

というわけで、どうやら睡眠のためには植物性プロテインのほうが有効かもしれないみたいっすね。また、予想どおり、体内の「トリプトファン:LNAA比」が高い人ほど、脳に運ばれるトリプトファンの量が多く、そのぶんだけセロトニンに変換される量も増えるみたい。

 

 

こうして見ると、やはりホエイプロテインだけでタンパク質を摂るのは良くなくて、同時に植物性のタンパク質も増やしていく必要があるんでしょうなぁ。

 

 

 

恋愛相手のスマホを盗み見る人とは?

近ごろ、海外サイトでよく聞くのが「ファビング」って現象であります。簡単に言えば、会話中に相手を見ないでスマホばっか見てる状況のことで、誰にでも一人や二人は心当たりがありましょう。

 

 

当然ながら、ファビングは人間関係への悪影響が大きいことで知られるんですが、新しい研究(R)では、「ファビングをすると相手にどんな影響があるか?」ってとこを調べてておもしろかったです。

 

 

これは、いま恋愛をしている男女346人を対象にしたもので、

 

  • パートナーがファビングを行う頻度を回答してもらう

  • ついでに、自分が相手を監視する頻度も尋ねる(相手の電子メールを読むとか)

 

ってあたりを調べてます。つまり、この研究チームは「恋愛相手を監視したがる人ほどファビングされやすいのでは?」と考えたわけですね。

 

 

では、結果をならべてみましょう。

 

  • ファビングは非常に一般的な現象で、女性の約93%、男性の約89%が、過去2週間に少なくとも1回は「パートナーからファビングをされた」と報告した。

 

  • 研究チームの予想どおり、恋愛相手からファビングをされる回数が多い人ほど、その相手のスマホを盗み見る頻度が高い傾向があった。

 

研究チームの予想どおり、ファビングには、相手の監視行動を刺激する働きがあるみたいっすね。つまり、スマホでなにかやましいことをしている人ほど、相手にファビングをしないほうがいいぞ、と。

 

 

研究チームいわく、

 

(ファビングの問題は、)相手の中にパートナーから無視されたという感覚を植え付け、これが疑念の感情を誘発する。そして、この感情がストレスや不安につながり、パートナーの情報をさらに集めようとする行動につながる。

 

ほとんどすべての人が、パートナーと接している間にスマホを見るが、この行為が、二人の関係に悪影響を及ぼす可能性があることを認識しておく必要がある。

 

とのこと。ファビングは相手に想像以上の不安をもたらすから気をつけようってことですね。

 

 

ちなみに、どうしても会話中にスマホを見なければいけない時のために、研究チームは以下のアドバイスをしておられました。

 

(相手とのコミュニケーション中にスマホを見るときは、)なぜその時に携帯電話を見ているのかをパートナーに説明したり、その行動にパートナーを参加させたりすると良い。

 

確かに、自分の行動の透明性を高めるってのは、恋愛じゃなくても人間関係の基本ですからねぇ……。

 

 

 

都市、意外とメンタルに悪くない説

都市の生活は自然暮らしよりも体に悪いのでは?」というデータはたくさんあるわけです。たとえば、2011年の有名な研究(R)でも、都市部に住む人は、扁桃体(ストレス処理に関する脳領域)が、地方に住む人より活性していると報告してたりしますからね。

 

 

ただし、これまでのところ、この問題は観察研究の結果がメインだったので、「本当に都市生活が脳に悪影響をもたらすのか?」ってのはわかってなかったんですよ。その点で、新しいデータ(R)は、介入研究で因果関係を調べてくれていて参考になりました。

 

 

実験に参加したのは、ベルリンで募集された男女63人(平均27歳)。そのうち半分にはベルリンの都市部の森を1時間散歩してもらい、残りの半分には、ベルリン中心部の交通量の多い通りを1時間散歩するように指示したんだそうな。この時、散歩の前後に、みんなの扁桃体の活動を測定したところ、結果は以下のようになりました。

 

  • 自然の中を散歩した参加者は、扁桃体活動が低下していた(これは予想どおりですね)
  • 街中を散歩した参加者は、実験中も扁桃体の活動が安定していた(こっちはちょっと意外)

 

ということで、自然環境のおかげで脳の興奮が収まったのは納得なんですけど、都市を歩いても特に扁桃体は活性化しなかったみたいなんですよ。これはやや意外でしたね。

 

 

研究チームいわく、

 

実験の前は、自然によって扁桃体の活動が低下し、都市の中では扁桃体の活動が上昇すると考えていた。しかし、実際には、都会での散歩は、ストレスに関連する脳の活動は上昇しないことがわかり驚かされた。これらの部位の脳活動は、都市を散歩した後も安定しており、都市の活動がさらなるストレスを引き起こすという説に反している。

 

 

とのこと。意外と都市は脳にストレスを与えているわけではないんじゃないか?という結論であります。

 

 

これをどう解釈するかは難しいんですけど、個人的には、「スマホは脳に悪い!」って説と似たような側面があるのかと思っております。要するに、スマホ自体には良いも悪いもなくて、その使い方によって影響が変わるだろうって考え方ですね。

 

 

同じように、都市の生活が何でもかんでも悪いってことではなく、いたずらに脳を刺激させないような暮らしさえできれば、少なくとも悪影響を避けることができるのではないかと考えられるわけです。これは、新宿住まいの私にはうれしい知見っすね。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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