このブログを検索




日本のトップアスリートも苦しめる「男らしさ」の心理的デメリットとは?

 

このブログでは、ここんとこ「男らしさの害」みたいなものをよく書いております。たとえば、

 

 

みたいな感じっすね。もちろん「男らしさ」がなんでもかんでも悪いって話ではないものの、「男だから強くあらねば!」みたいな考え方に凝り固まってると、いろいろとメンタルの問題に悩まされやすいってことですな。


スポンサーリンク

 

で、新たに出た調査(R)は、日本人を対象に同じような問題をチェックしてくれていて勉強になります。これは日本のラグビー選手を対象にした調査で、タイトルはズバリ、「古典的な男性的価値観が、助けを求める行動を妨げているかも?」みたいな感じです。これが国内トップクラスのエリート選手を対象に行われた結果だってのは、なかなかリアルでいいっすね。

 

まず前提として、トップアスリートってのは、ものすごいストレスの中で生きております。

 

  • 日々の激しい競争
  • 周囲からの高い期待
  • 成績次第でキャリアが決まる不安

 

こんな状況だけでもだいぶしんどいですが、さらにアスリートの中には「弱音を吐く=評価ダウン」みたいな認識があり、これがかなり足を引っ張ってるんだそうな。そのため、アスリートたちは、うつや不安を抱えていても、「そんなこと言ったらレギュラー外されるんじゃ?」とか、「代表入りに響いたらどうしよう」なんて不安が先に立って、誰にも相談できないことが多いらしい。これは悩ましい問題っすね。

 

でもって、この研究チームは、上記のような「弱音を吐けない」問題の背景には「男なんだから自立して当然!」「誰かに頼るのはみっともない!」みたいな、“昔ながらの男らしさ”が根深く関わっているんじゃないかと考えたわけです。研究では、ジャパンラグビーリーグワンに所属するエリート選手541人を集めて、まずはメンタルに関するアンケート調査を行ったそうな。

 

具体的には「IMVS」ってテストを使ってまして、だいたいこんな質問に答えてもらってます。

 

 

IMVS

この4週間を振り返って、各項目について、どの程度当てはまるかを考えて回答してください。「1 = 強く反対〜5 = 強く同意」で採点します。

 

  1.  男性は新しい経験にオープンであるべきである。
  2.  男性は新しい考えにオープンであるべきである。
  3.  男性は新しい人々にオープンであるべきである。
  4.  男性は他人のことを気にかけるべきである。
  5.  男は他人を助けるべきである。
  6.  男は地域社会に貢献すべきである。
  7.  男は自立すべきである。
  8.  男は自分で決断すべきである。
  9.  男は自給自足すべきである。
  10.  男は体力を持つべきである
  11.  男は健康でなければならない
  12.  男は良い体型を維持すべきである

 

このIMVSには以下のような2つのタイプが含まれていて、

 

  • 包括的な価値観(1,2,3,4,5,6の質問が該当)
  • 力づけの価値観(7,8,9,10,11,12の質問が該当)

 

研究では、それぞれの価値観が「助けを求める行動」にどう影響しているかを調べたわけですな。その結果がどうだったかと言いますと、

 

  • 包括的な価値観を持つ選手は、「助けが必要かも」とは感じやすく、「相談したい」とも思いやすい。ただし、実際の行動にはつながらなかった。
  • 力づけの価値観を強く持つ選手は、そもそも助けを求めようとしない傾向が強く、実際に相談する行動も少なかった。

 

って感じだったそうです。要するに、男らしさへの点数が高い人は、どちらの価値観が強いにせよ、メンタル的に辛くても誰にも相談せず、一人で抱え込んじゃうわけですね。これは辛い!

 

ここでポイントなのが、多くの選手は「助けを求めた方がいい」と頭でわかってるのに、実際には行動に移せなかったってところですね。これは一般の男性にもよくある話でしょう。

 

その理由はいくつか考えられるんだけど、個人的に「影響が大きそう」と思われるのが、行動を変えるための環境や習慣が整っていないことじゃないかと。たとえば、チームの雰囲気が「相談は弱いやつがやることだ!」と捉えるような文化を持っていたり、相談できる専門家が近くにいなかったりすると、いくら助けがほしいと思っても動けないですからねぇ。ここらへんは環境の影響が大きいんで、選手個人の意識を変えたところで改善は難しいんじゃないかなぁ……ってとこですね。

 

あと、ここで思ったのは、「自立」って言葉の定義が大事だよなーみたいなことですかね。「男らしさ」の定義にはだいたい「自立」が含まれてるし、よく「自立的な人はメンタルに強い」みたいなことも言われるんだけど、ここでいう「自立」は「全部ひとりで抱え込むこと」みたいな定義になってるんで。

 

こう考えちゃうと「自立的な人」は辛くなっちゃうばかりなんで、「自立とは自分の限界を正しく理解して、必要な時に他人の力を借りられることだ!」みたいに考えないと、辛い状態が続いちゃうんじゃないかと。実際、過去の研究でも、メンタルに強い人ほど適切なタイミングで助けを求めるのがうまいって傾向は確認されてますんで、そこはくれぐれも念頭に置いたほうがよいのではないかと。

 

いずれにせよ、「男らしくあれ」「強くあれ」って価値観でメンタルが追い込まれちゃうのは、私たちの日常でもよくある話。「自分が頑張らなきゃ!」と思いすぎて疲れ果てるのは、仕事でも家庭でも普通にありますんで、そんな思考が発動したときこそ「ちゃんと助けを求める」ってのをリマインドしたほうが良いでしょうな。どうぞよしなに。

 


スポンサーリンク
ホーム item

search

ABOUT

自分の写真
1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

INSTAGRAM