このブログを検索




スマホをいじると、トレーニングが台無しになるかもしれない件【SNSと運動パフォーマンスの科学】

  


SNSはメンタルに悪い!」なんて主張は昔からありまして、このブログでもTikTokやInstagramが若者の自己肯定感を下げるとか、YouTubeが集中力を奪うみたいな話を書いてまいりました。まあ、個人的には、SNS自体は良くも悪くもなくて、使い方の問題だろうとしか思ってないんですけど、なにせ身近な存在なんで気になるとこっすね。

 

で、新たにチェックした研究(R)もSNSのダークサイドに関わるもので、結論から言いますと「運動前にSNSを見ていると、トレーニングの効果が下がるかも」みたいになります。こりゃあ運動好きな方は要チェックですな。

 

これはパライバ連邦大学による研究で、バレーボール選手14名(平均20歳前後)を集めて、以下のようなクロスオーバーデザインの実験を行ってます。

 

  1. 練習前の30分間を「SNSを見る(Facebook/Instagram/WhatsApp)」か「ドキュメンタリーを見る(オリンピックの歴史)」のどちらかに割り振る。
  2. それぞれの方法で3週間トレーニングを続ける
  3. パフォーマンス(ジャンプ力、アタック効率)を測定
  4. グループを入れ替えて、もう一度3週間トレーニング+パフォーマンス測定

 

って感じで、自分自身を対照にして比較する方法を採用してまして、データの信頼性まあまあってとこです。

 

そこで、どんな結果が出たのかと言いますと、

 

  • ジャンプ力には大きな変化なし
  • アタック効率は、SNSを見たあとのほうが明らかに低下していた

 

みたいになります。「アタック効率」ってのは、バレーボールにおける攻撃の精度や力強さを評価する指標で、要するに「ちゃんと狙ったところにボールを叩き込めるか?」という能力のこと。ジャンプのように「筋力メイン」のスキルよりも、判断力や集中力に左右されやすい要素っすね。そう考えると、SNSが悪影響を与えているのは「筋力」や「瞬発力」よりも、メンタルに関わるパフォーマンスの部分だってことですね。

 

でもって、この問題を起こす原因になってるのが、「メンタルファティーグ(精神的疲労)」って概念であります。なんでも、SNSを見ていると、脳内ではこんなことが起きているらしい。

 

  • スクロールするたびに次々と新しい刺激(画像、動画、テキスト)が現れる

  • 感情的な投稿やニュース、比較的なコンテンツ(他人のリア充投稿など)に脳が反応する

  • 「いいね」やコメント、DMを送るなどのマイクロアクションが続くたびに脳が反応する

 

ってことで、SNSを見ていると、脳は小さな刺激を絶え間なく受け続けており、じわじわと疲労していくんだそうな。しかし、困ったことに、この疲労は身体感覚としてはほとんど自覚できないんだそうで、だからこそSNSを見ると本人も気づかないまま集中力が落ち、判断が鈍り、結果的にトレーニングの効果まで薄れちゃうわけですな。

 

ちなみに、似たような結果は他にも確認されてまして、

 

  • 2019年の研究(R)では、夜11時以降にツイートしたNBA選手は、翌日の試合での得点・リバウンド・シュート精度がすべて低下していた。この現象の背景には「SNSによる睡眠の質低下」があると考えられている。

 

  • 30分間SNSを使用した後に、参加者に100m・200m自由形を泳いでもらった研究(R)でも、記録の低下が見られた(ただし、50mの短距離では影響なし)。このあたりも、SNSは「持久力」や「集中力」に悪影響を与える可能性を示している。

 

みたいな感じになってます。やっぱSNSはメンタルを疲れさせて、そのせいでパフォーマンス低下させちゃうんでしょうな。

 

とはいえ、個別データを見ると、SNSを見たあとに成績が上がった選手もいたりしますんで、いちがいに「SNSでパフォーマンスが下がる!」とも言いづらいところではあります。なんでSNSでパフォーマンスが上がる人がいるのかと言いますと、

 

  • ポジティブなフィードだけをフォローしているせいで、SNSで気分転換できる
  • スマホが“ルーティン化”しており、心理的に安心感をもたらしている
  • SNSを見ても「自己評価」がブレないタイプの人(承認欲求が低い)

 

みたいに推測されております。つまり、SNSと良い関係を結べている人であれば、問題が起きないどころか、逆にパフォーマンスは上がるわけっすな。

 

要するに、ここから得られる教訓ってのは、「集中したい作業の前には、自分を最も良い状態に持っていける習慣を持っておいたほうがいいよー」ってことでしょうな。たとえば、

 

  • SNSを見たあとは、5分間の呼吸瞑想で「リセット」
  • 運動前はスマホを手放し、散歩や軽いストレッチをルーティンに
  • 読書や音楽など、“情報の流入が少ない活動”を挟む

 

といった感じっすね。私自身も、原稿を書く前や運動前にはスマホの電源を切って、代わりに自然音のプレイリストを流したりしまして、なんとなく良い感じがしております(プラセボかもしれませんが)。いずれにせよ、本番までの時間をどう過ごすかで日々のパフォーマンスは大きく変わってくるのは間違いなさそうなんで、自分のルーティンを見直してみるのも良さそうであります。


スポンサーリンク

スポンサーリンク

ホーム item

search

ABOUT

自分の写真
1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

INSTAGRAM