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「サイコパス=共感力ゼロ」は本当に正しいのか?をガッツリ調べたメタ分析の話

 

サイコパスといえば「共感力がない!」ってイメージが定番でして、ドラマや小説、心理学の入門書などでも「サイコパス=共感完全欠如」みたいな説明をよく見かけるわけです。実際、私もそのように説明することが多かったですし。

 

が、新しい研究(R)では、「サイコパスは本当に共感力が低いのか?」って問題に、新しい角度から光を当てていて良い感じでした。

 

まず簡単に用語を整理しておくと、サイコパスってのは「他人への良心の呵責や罪悪感が乏しい」「感情的には非常に浅い」といった特性を持つ人たちのことを指しております。心理学の実験では、主に「Psychopathy Checklist-Revised(PCL‑R)」という評価尺度でチェックされることが多く、法医心理学の現場でもよく使われてたりします。

 

ただし、このPCL‑Rにはいくつかの課題がありまして、

 

  • 時間とコストがかかる:面接形式なので、実施には手間がかかる。
  • 司法判断への影響:スコアが高いと「危険人物」とみなされやすく、偏見や過剰評価につながることもある。
  • バイアスの危険性:「こういう人だから冷たい」みたいに、先入観で判断されてしまうリスクが高い。

 

みたいな指摘が多かったんですよ。つまり「社会や司法の文脈で“暴走”する恐れがある」という、ある種のジレンマを抱えているわけですね。

 

そこでこの新たな研究では、サイコパスに関するメタ分析を実施。PCL‑Rと共感に関連する指標を使った研究66件をピックアップし、5,711名のデータを分析しております。

 

ここにどんなテストが含まれていたかというと、以下のような感じです。

 

  • 自己報告:「友人が怖がっているときに気づきにくい」「泣いている子どもを見ると自分も泣きたくなる」みたいに、自分の特徴を報告してもらう。
  • 共感クォシェント:「ニュースで人が泣いているのを見ると動揺する」みたいな質問に答えてもらう。
  • 他人の感情を“読む”課題:人間の目元だけを写した写真を見てもらい、その人の感情を当ててもらう。
  • 痛みへの共感:たとえば「耳元で大きな音を鳴らされている人」の場面を想像して、その不快さを評価する。
  • フィクションへの感情移入:物語を読んで、その登場人物にどれだけ感情移入できるかを調べる。
  • 感情認識タスク:顔の表情、声、状況描写から感情を見抜いてもらう。

 

こんな感じで、まさに共感を多面的に測るテストが使われております。これだけいろんな方法を使って、共感とサイコパシーの関係を検討した研究はレアでよいですね。

 

で、肝心の結果ですが、

 

  • 約89%のデータにおいて、PCL‑Rスコアと共感能力との間に有意な関係は見られなかった!

 

だったそうです。要するに、「サイコパスっぽい人でも、共感力や感情認識力に特に問題はない」ってことでして、従来の考え方とはまったく異なる結果が出たわけですね。この結果に対し、研究チームは「PCL‑R評価が高い人=共感能力がないという、研究者・臨床家の認識は根拠が薄い」とはっきり述べておられます。うーん、そうだったのか……。

 

そう聞くと、「なんだ!サイコパスって共感力あるじゃん!」などと解釈したくなっちゃうんですが、個人的には注意したいポイントがあるよなーとか思ったりしました。というのも、多くの研究では「認知的共感(相手の気持ちを“理解する”能力)」を測定することができていても、「情動的共感(相手の気持ちを“感じる”能力)」は十分には測れてないことがあるんですよ。

 

どういうことかと言いますと、

 

  • サイコパスでも、相手の感情を“読み取る”ことはできる。
  • しかし、それを“感じて共鳴する”とは限らない。

 

みたいなことですね。前者は「頭でわかる」認知で、後者は「心で響く」共感みたいな違いで、サイコパスはこの後者が弱いって可能性は十分にあるんですよ。

 

さらに重要なのは、たとえ共感力があったとしても、それを行動に結びつけるかどうかはまた別問題だってところです。たとえ相手に共感ができたとしても、他人のために行動を変えられなかったら意味がないですからねぇ。事実、研究チームも、この点については今後の課題として挙げてますしね。

 

ってことで、この研究から得られる知見をまとめておくと、

 

  • 「サイコパス=共感ゼロ」という固定観念は、よく調べると裏づけが弱い。
  • ただし、共感には認知的共感と情動的共感があるので、どちらを指して「共感できる」と言っているのかを区別しとくのが吉。
  • 診断ツール(PCL‑R)のスコアを過度に重視すると、偏見を助長する恐れがあるので注意したい。

 

みたいになるでしょうね。「共感」ってのは複雑な現象なんで、サイコパスって特性も一筋縄じゃいかないでしょうなぁ。とりあえず、「共感があるかどうか?」ってのを考える前に、「共感をどう使っているか?」ってとこに注目したほうが良いのかもですな。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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