お風呂に入っただけで持久力アップ?──「パッシブ・ヒートトレーニング」はどう使うべきかを考える
「トレーニング後に熱いお風呂に入ると、持久力が向上するらしい!」みたいな話を耳にしたことがある人は多いでしょう。熱による一時的な体温上昇が、心拍数や血漿量、発汗機能などに生理的な適応を引き起こし、結果として持久力が高まるという身体のメカニズムに基づく考え方であります。いわゆる「パッシブ・ヒートアクライメーション(受動的熱順化)」ってやつですな。
これが事実なら、時間もコストも抑えつつ高い効果を得られるナイスなトレーニングだと言えるわけですが、果たして「運動後のホットバスには本当に効果があるのか?」ってことで、そこらへんを調べた研究(R)を検証してみましょう。
まず、こいつがどんな研究だったかと言いますと、
- 被験者は、平均 VO₂max 60 mL/kg/min の男性サイクリスト14名
- 実験の期間は週3回×3週間、計9回の HIIT
- 運動のセッション後すぐに30分間、42℃ または 34℃ の入浴をする
- 筋肉の生検でミトコンドリア適応を確認/20km タイムトライアル/タイム・トゥ・エグゾースト(疲労限界テスト)などを行う
みたいになります。かなり無難な研究デザインでよろしいのではないでしょうか。
それで、どんな結果が得られたのかと言いますと、
- タイムトライアルの成績は、熱いお風呂でも常温でも同程度に向上した!
- ただし、ミトコンドリアの中身や量の変化は、どちらのグループにも見られなかった。
だったそうな。つまり、「熱いお風呂に入っても、常温と変わらない」という結末でして、運動後すぐ風呂に入る私としては「なーんだ」って感じの結論だったりです。
が、それでも「運動後の風呂」の効果を否定するのは、個人的には早いと思ってたりします。というのも、過去の研究では「熱への適応(ヒートアクライメーション)」により、以下のような生理的メリットが報告されているからであります。
- 血漿量の増加 →血液の 循環効率アップ
- 心拍数と深部体温の低下 → 暑さに強くなる
- 汗の早期発汗と増加 → 冷却効率アップ
- 赤血球やヘモグロビン量の増加 → 酸素運搬能力向上
- 乳酸閾値の向上 → 高強度を持続可能に
こうした変化は、特に今年の夏のようなめっちゃ暑い環境においては、持久力の向上に直結するはずなんですよね。ゆえに“熱”ってのは、使い方によっては非常に意味ある介入になり得るんではないか、と。
では、なぜ今回の研究では効果が出なかったのか?ってとこが気になりますが、ちょっと考えてみると、こんなことが考えられるんじゃないでしょうか?
- 「熱の強さが足りなかった」説:この研究の入浴中の深部体温は最大でも 37.8℃。ところが、ヒートアクライメーションに必要とされる“しっかりしたストレス”には、最低でも 38.5℃ 程度まで体温を上げる必要があることが示唆されてたりする。一方で、101〜108℃の高温サウナに入った研究では、VO₂max や持久力、乳酸閾値の向上が確認されており、熱ストレスの強度が重要だと思われる。
- 「トレーニングとのバランスが裏目に出た」説:この研究では、週3回すべて高強度のセッションを行っている。その一方で、熱の有効さを確かめた研究では、週6〜8回の頻度で、軽めの日にサウナを組み込むパターンが多い。要するに、疲労が溜まらないよう工夫しつつ、熱刺激だけを効果的に取り入れる戦略が必要ということになるのだと思われる。
- 「個人差・期間が足りない」説:熱への適応には個人差が大きく、年齢・性別・トレーニング歴・過去の熱環境への露出歴などが影響する。さらに赤血球量の増加など、いくつかの適応には5週間以上の継続が必要との報告もあるため、3週間では不十分だった可能性もありそうな気がする。
ここらへんの食い違いはかなり大きいと思っていて、そのせいで“熱”のメリットがうまく生かせなかった可能性があるんじゃないかなぁ、と。そこで、今回の知見を活かすにはどうしたらいいのかってのを考えてみると、以下のような戦略が望ましいのではないかと思うわけです。
- 身体を熱に順化させたい時 → 体温を 38.5℃ 以上まで上げる入浴をするか、サウナに入る
- 疲労をコントロールしたい → 強度が高い運動の後ではなく、軽めのセッションの後に風呂に入る
- 長期的な適応を狙う → 週6回程度・5週間ほど運動の後に風呂に入り続けるスタイルが望ましい
要するに、「ただ風呂に入るだけ」は不十分なんだけど、「ちゃんと計画を立てて、熱刺激の強度と頻度を管理すれば、効果は期待できる」って感じじゃないでしょうか。
あらためてポイントをまとめておくと、
- 熱ストレスの強度が大事(体温を38.5℃ 以上まで上げてくれるレベル)
- トレーニングとのバランス(疲労管理の工夫も大事)
- 継続期間(最低でも 5 週間を視野に入れる)
このあたりを踏まえつつ、実際のトレーニング計画に組み込めば、ホットバスやサウナの価値はグッと高まりそうだなーと思っております。ぜひご自身の環境や目的に合わせて、ヒートトレーニングを試してみていただければと。