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クレアチンで認知症の予防ができるかもしれないぞ?ってな感じの実験の話

 
 

「クレアチン」といえば、もはや筋トレ用サプリのド定番。実際、クレアチンがパワーアップや筋肥大に役立つのは間違いなく、研究の蓄積も多いうえに、安全性に関してもかなり信頼できる物質であります。当然、私もめっちゃ飲んでおります。

 

ところが近年、このブログでもお伝えしたとおり、この「筋肉サプリ」が実は脳の健康にも役立つかもしれないという研究が増えてきたんですよ。クレアチンってのは人体のエネルギー源になるので、当然ながら脳にも良いだろうと考えられるわけですな。

 

でもって、先日アルツハイマー病の患者さんを対象とした試験(R)が発表されまして、ここでも興味深い結果が得られております。

 

ご存じのとおり、アルツハイマー病といえば、脳にアミロイドβやタウたんぱく質が蓄積していく病気のこと。これらが神経細胞を壊すことで、記憶障害や認知機能の低下が進んでいくと考えられてまして、現在の治療薬も、基本的にはアミロイドやタウをターゲットにして開発されております。

 

が、近年の研究では、「アルツハイマー病の本質は脳のエネルギー不足にあるのではないか?」という視点が注目されてまして、これが割と優勢になってるんですよ。具体的には、アルツハイマー病の患者さんは、脳内でATP(アデノシン三リン酸)というエネルギー物質の産生が落ちているというんですな。ATPは細胞の“燃料”そのもので、これが不足すると神経細胞は正常に働けなくなり、アミロイドβの処理も滞り、さらに病気が進んじゃうんですな。

 

で、ここで登場するのがクレアチンです。クレアチンは筋肉だけでなく、脳にも豊富に存在する物質なので、エネルギー代謝を支える重要な役割を担っているんですよ。その仕組みをざっくり言うと、

 

  1. クレアチンはATPと結合して「ホスホクレアチン」という形になる
  2. ホスホクレアチンが、必要なときにATPに戻り、瞬時にエネルギーを供給する

 

という流れで、細胞の中にエネルギーの“貯金”を作っておく働きをしてるわけです。ところが、アルツハイマー病ではこのシステムが弱っているケースが多く、脳内のクレアチンやホスホクレアチンが減少しちゃうらしいんですな。

 

実に困ったもんですが、となれば外からクレアチンを補ってやれば、脳内のエネルギー不足をカバーできるのではないか?って発想が生まれるのは当然のこと。今回の臨床試験では、この仮説を検証したわけです。

 

この研究は、アルツハイマー病患者19名を対象にしたパイロット試験で、どんなデザインだったかと言いますと、

 

  • 1日20gのクレアチンモノハイドレートを8週間摂取
  • 朝と夕方に分けて10gずつ服用
  • プラセボ(偽薬)なしのオープンラベル試験

 

って内容になってます。すると、8週間後に参加者の認知機能には大きな変化がありまして、

 

  • 全体的に、参加者の脳機能が中〜大の効果量で改善!

 

  • 改善した能力はこんな感じ。
    • 全体的な認知能力
    • 流動性知能(問題解決や柔軟な思考)
    • ワーキングメモリ(情報を一時的に保持し操作する力)
    • 音読認識(文字を読み、意味を理解する能力)
    • 注意力と抑制コントロール(集中力を保ち、余計な刺激を無視する能力)

 

  • 副作用としては、筋肉痛や下痢、便秘などが報告されたものの、いずれも軽度で、数週間で解消した。

 

といった感じだったんだそうな。つまり、「クレアチンを飲むことでアルツハイマー患者の脳機能が向上する!(かも)」という、なかなかインパクトのある結果が出たわけです。

 

ただし、ここで「やった!クレアチンはアルツハイマーの特効薬だ!」と喜ぶのは早計でして、毎度のことではありますが、この試験の限界も押さえておきましょう。

 

  • 被験者が少ない(19名)ので、統計的な信頼性はまだ低い。
  • プラセボ対照がなく、参加者全員が「自分はクレアチンを飲んでいる」と知っていたため、思い込み効果(プラセボ効果)を排除できない。
  • 試験期間が短い(8週間)なのも問題。アルツハイマーは進行がゆっくりした病気なので、たった2ヶ月の改善が長期的な効果につながるかどうかは不明。
  • 初期〜中期の患者のみなので、重度のアルツハイマー病に効果があるかどうかは、まだわからない。

 

ここらへんはかなり実験の「どこまで信じればいいか?レベル」を下げてますんで、注意しておきたいところです。また、過去の動物実験では「メスのマウスには効果があったが、オスにはむしろ悪影響だった」というデータもありますんで、性差や個体差の影響も考慮する必要があるかもしれませんな。

 

さらに言えば、今回の研究でクレアチンで認知機能が改善したのは、単なるエネルギー補充だけでなく、クレアチンの持つ別の効果も関わっているかもしれないんで、そこも注意っすね。具体的には、

 

  • 酸化ストレスの軽減:細胞を傷つける活性酸素を減らす
  • 神経炎症の抑制:脳内の慢性的な炎症を抑える
  • 細胞シグナルの改善:神経の生存や可塑性をサポートする

 

みたいな働きです。こうした効果がまとまって、アルツハイマー病患者の認知機能を底上げしている可能性もあるんじゃないかと。

 

では、「認知症予防のためにクレアチンを飲んでみる」ってのはアリなのかといいますと、現時点では“補助的な選択肢”としてはアリなんじゃないでしょうか。その理由はシンプルで、

 

  • すでに筋トレ分野で安全性が確立している
  • サプリとして安価で入手が容易
  • 副作用も軽度で、一過性のものがほとんど

 

というメリットがあるからです。もちろん、「こいつで認知症知らずだぜ!」とは言えないものの、予防や認知機能サポートの一環として、低リスクで試せる戦略なのは確かですからね。

 

ってことで、今回の研究はあくまで「まだ予備的」ではあるものの、クレアチンが脳の健康に役立つ可能性は示してくれてるんじゃないかと。このポイントをふまえた上で、現時点での実践的な提案をまとめると、

 

  • 認知症予防の基本はあくまで 運動・食事・睡眠・ストレスケア
  • そのうえで、クレアチンを少量(3〜5g/日)サプリとして追加するのは合理的
  • 特に筋トレ習慣のある人なら「筋肉と脳、両方にメリットがあるサプリ」として相性が良い

 

といった感じになるでしょう。まあ脳への効果が無かったとしても、私は今後もクレアチンを飲み続けるつもりですが。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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