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筋肉は本当に「記憶」するのか?マッスルメモリーをがっつり調べたレビュー論文を読んでみよう!

 

筋トレをしている人なら「筋肉は一度つけると戻りやすくなる」って話を一度は聞いたことがあるはず。いわゆる「マッスルメモリー(筋肉の記憶)」ってやつでして、筋トレをサボって筋肉が落ちても再開すればすぐ戻る!って考え方であります。

 

これは体感的にも納得感がありまして、私も実感している話なんですが、「それって本当に筋肉がトレーニングを記憶してるの?」と言われると、意外とまだわかってないところも多いんですよ。現象としては広く認められているのに、そのメカニズムはあいまいなまま放置されている状態なんですよね。

 

そんな状況下、新たに「筋肉は本当にトレーニングの内容を記憶するのか?」ってのを調べたレビュー論文(R)が出てましたんで、筋トレ勢はぜひ内容をチェックしておきましょう。

 

この文献は、過去のマッスルメモリー研究を端から調べたもので、それによって現在までのデータを交通整理して、「結局、マッスルメモリーって何なの?」ってところを再検討してくれたんですよ。実にありがたいですねぇ。

 

では、この調査の要点をピックアップしていきましょう。まず重要なポイントとして、現時点でマッスルメモリーが起きるプロセスには3つの仮説が考えられております。

 

 

仮説1. マイオニュークレイ保持説

まずは、いったん筋トレで増えた「筋細胞の核」が残り、これが再トレーニングで有利になるって考え方です。実際、マウスの研究では、ステロイドで筋肉を肥大させた個体は核が増え、そのおかげで再トレーニングした後で急速に筋肉の量がもどったんだそうな。

 

この話を聞くとマッスルメモリーは有望っぽいんだけど、ただし人間を対象にした研究をチェックすると話がちょっとややこしくて、

 

  • 核は確かに残るっぽい
  • でも「成長スピードが速くなるか」は微妙

 

という結果も出てたりするんですよ。つまり、核が残るからと言っても筋肉がすぐ戻る、とは限らないってことですね。

 

また、ある研究では、

 

  1. 参加者に7週間ほどトレーニングをしてもらって筋肉を増やす
  2. 続いて7週間ほどトレーニングをサボらせて、筋肉を減らす
  3. そこから再トレーニングをしてもらったら、筋肉が最初より大きく成長した

 

みたいな結果も出てるんですけども、この研究は被験者がたった7人だし、その被験者もみんな筋トレの初心者だったりして、本当にマッスルメモリーが効いてるのかどうかは謎だったりします。難しいですねぇ。

 

 

仮説2. エピジェネティクス説

もうひとつ近ごろ話題なのがエピジェネティクス説です。これは簡単に言うと、「トレーニングで『遺伝子の使われ方』が変わり、それが維持される!」というものでして、具体的には、

 

  1. DNAに付く「メチル化」というタグが減る
  2. → 遺伝子が働きやすくなる
  3. → タンパク質合成が効率化

 

みたいな流れが想定されてまして、要は一度トレーニングで“筋肉を作りやすい状態”に遺伝子が書き換わり、その設定がしばらく残ることで再トレーニング時の成長効率が上がるんじゃないか?ってことですな。ただし、これもあくまで理論上の話でして、ちゃんとした検証がないのが残念なところ。ヒトでは細胞レベルの追跡が難しく、証拠としてはまだ弱いのが現状だったりします。

 

 

 

仮説3.実は「筋肉じゃなくて脳が覚えてる」説

個人的に「実はこれが最もあり得るのかも?」と思ってるのがこの仮説で、こちらを簡単に説明すると、

 

  1. 筋トレをすると、神経系の適応が起きて、トレーニングの動作が上達する
  2. その結果、効率よく筋肉を使えるようになる

 

みたいな感じです。つまり、一度やった種目は脳が適切なフォームを覚えているため、そのおかげで高重量もすぐ扱えるようになり、結果として筋肥大も早くなるのではないか?みたいな話ですね。つまり、筋肉の記憶というより「運動スキルの記憶」では?という考え方でして、シンプルながら私は説得力を感じております。

 

 

ということで、このレビューの要点をまとめると、

 

  • 筋トレしていた人のほうが、筋肉が「戻りやすくなる」現象は確かにある
  • ただし、その理由はまだハッキリしない

 

みたいになるでしょう。いまのところどの仮説も決定打ではなく、

 

  • マイオニュークレイの保持
  • エピジェネティクス変化
  • 神経適応(これが一番現実的)

 

などが絡み合っている可能性が高いってことになるでしょうな。

 

なんかモヤモヤする話ですけども、まぁ研究的にはまだグレーだったとしても、実用面で考えるべきことは割とシンプルでしょう。筋肉は「一度つけたら完全に無駄にはならない」ってのはほぼ間違いないので、以下のポイントを押さえておけば問題はないでしょう。

 

  • ブランクを恐れすぎない:なかには「筋トレを2週間も休んだら終わりだ…」みたいに考えがちなんだけど、実際はそこまで簡単にリセットされないのでご安心を。ここは、むしろ無理して続けるより、ちゃんと休んでから再開する!って考えたほうが長期的には良いケースも多いんで。

  • 最初の成長期は超重要:筋トレビギナーの時期に得た適応は、神経系、遺伝子発現、核の増加(可能性)など、いろんな形で残る可能性がありますんで、最初の1年は「資産づくり期間」だ!と思ってガッツリやるのがおすすめっすね。
  • 再開時は焦らない:「前は100kg上げてたのに…」とか思いがちですが、神経適応はすぐ戻るし、筋肉も比較的早く戻るので、2〜6週間くらいでかなり回復するもんだと思いながら取り組むと、心安らかに筋トレを再開できるんじゃないでしょうか。

 

ということで、マッスルメモリーについてはメカニズムがまだよくわかってないものの、「筋トレは無駄にならない!」という点だけはかなり確度が高いので、一度でも鍛えた経験がある方は、ぜひ気楽に再開してみてくださいませ。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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