相手の表情でウソを見抜く「微表情」トレーニングって使えるの?
微表情でウソは見抜ける?
「嘘の見抜き方」に関するご質問をいただきました。
「微表情」についてはどうお考えですか?トレーニングをすると嘘を見抜けるようになれるとか。ドラマなどでも使われていて、海外では政府機関も使っているというのですが。
とのこと。表情だけで人の心を見抜くテクニックは本物なのか、と。
「微表情」ってのは、人間の顔に0.2秒ぐらいのわずかな時間だけ浮かぶ表情のこと。どんな人でも微表情は必ず現れるんで、こいつを見極める訓練さえすれば、他人の心が読めるようになるというんですな。
日本だと海外ドラマ「ライ・トゥ・ミー 嘘の瞬間」で有名になった話ですが、もともとはポール・エクマン博士の「表情分析入門」って本が出どころ。私も10年前に「顔は口ほどに嘘をつく」といった著作を楽しく読んだものです。
微表情の研究結果はかんばしくない
が、結論から言ってしまうと、現代の心理学で「微表情」はまともに取り扱われてないかと思います。実際、心理学の定番の教科書で「微表情」を説明してるケースは少ないような気が。
というのも「微表情」の検証は2000年代からいくつか行われてるんですが、どうにも結果がかんばしくないんですよね。
たとえば有名なのは2008年論文(1)で、697パターンの表情を1/30-sフレームで細かく分析していったんですね。そこでどんな結果が出たかといえば、
- 697パターンのうち、微表情の定義に当てはまるものは14個しかなかった:そもそも、1/25〜1/5秒の時間で観察される表情ってのはほとんど存在してないわけですな。
- 14の微表情を見てもウソと真実を見分けるのは超難しい:14のうち6つが「真実の微表情」だったものの、「ウソの微表情」とほぼ変わらなかったらしい。
みたいな感じ。かなり厳しい事態になってますね。
ちなみに、この研究でわかった「もっとも正確なウソのサイン」は「まばたきの回数が増えたかどうか」だったそうな。うーん、微表情とは関係ない(笑)
微表情トレーニングは防犯率を上げなかった
で、もうひとつおもしろいのが、2010年のレポート(2)です。実はアメリカでは空港のセキュリティに表情分析が取り入れられてまして、すでに3,000人の職員が微表情トレーニングを受けてるんですね。
その結果、防犯の効果があったかといえば、
- 正しい犯人を捕まえる確率は1%以下しか上がらなかった
とのこと。専門家いわく、
結局のところ、表情分析のトレーニングを受けた人々(高度な経験を持つプロの表情分析官をふくむ)は、コイン投げと同じ精度でしかウソを見抜けない。
ってことで、かなり厳し目な批判を行っております。
コイン投げよりはマシなレベル…かも
ただし「コイン投げと同じレベルかどうか」ってとこには異論もあって、2010年のレビュー論文(3)では「トレーニングすれば54%ぐらいに正解率が上がるかも?」 って推測が出てたりもします。まぁ、いずれにせよ対した数字じゃありませんが…。
そんなわけで、いまのところは「微表情にはそんな期待しないでね!」ってのが結論ではないかと。他人のウソを見抜くために時間を費やすよりは、セルフコントロール力を高めるのに使ったほうが実りが多そうです。