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ダイエットはうつの原因になる?最新研究が示す“本当のリスク”と対策

 

「ダイエットを始めたら、なんかメンタルが落ち込んだ……」という経験がある方もいらっしゃいましょう。食事を減らしたせいで気分が沈み、以前よりも元気が出ない……みたいな状態ですな。実際、体重や食事に気を使いはじめると、メンタルにも少なからず影響が出ることはよく知られるところですからね。

 

では、本当に「ダイエットはメンタルに悪いのか?」ってことで、ダイエットとうつの関係を調べたデータ(R)が出てておもしろかったです。

 

これは2007〜2018年にかけて実施されたNHANES(全米健康栄養調査)という、アメリカ人の健康状態を調べる巨大な調査データを使ったもの。参加者の対象は18歳以上で、BMIが18.5以上の男女28,525人を集めたんだそうな。

 

参加者たちには「現在どんな食事制限をしているか?」って質問に答えてもらい、以下の4つのグループに分類してます。

 

  1. 減量を目的としたカロリー制限系のダイエット
  2. 糖質や脂質など特定の栄養素を制限するダイエット
  3. 糖尿病食やDASH食のような健康的な食事パターン
  4. 特にダイエットをしない

 

それと同時に、精神的な状態はPHQ-9という定番のうつテストで測定。このスコアが10点以上になると、「臨床的に意味のあるうつ症状がある」とみなされるんですな。

 

で、分析の結果がどうだったかと言いますと、

 

  • 結果として、全体の約8%にあたる2,508人がうつ症状ありと判定された。
  • 大まかに見て、カロリー制限をしている人は、そうでない人よりもわずかにうつスコアが高い傾向があった。その差は0.29ポイントなんでかなり小さいんだけど、いちおう統計的には有意。
  • ただし、栄養素制限系のダイエットや健康的な食事パターンでは、全体のスコアに有意な差は見られなかった。
  • BMIごとに分析を分けてみると、過体重の人がカロリー制限や栄養素制限をすると、うつ症状が起きやすい傾向が見られた。一方、正常体重や肥満に分類された人では、その傾向は見られなかった。
  • また、男性だけに限ると、「栄養素制限をしているとうつ症状が高まる」や「カロリー制限をしていると身体的なうつ症状(疲労感や睡眠障害)が強く出る」といったパターンが確認された。

 

ということで、この数字だけを見ると「やっぱりダイエットって気分を落ち込ませるのかなー」って気がするわけです。ただし、話はそう単純ではありませんで、これはあくまで横断研究なので、どうしても「因果関係の不明確さ」って弱点がつきまとっちゃうんですよね。要するに、「ダイエットをしたから気分が落ちた」のか、それとも「気分が落ちていたからダイエットを始めた」のかが分からないわけです。

 

さらに、過去のランダム化比較試験(RCT)を見てみると、むしろ「ちゃんと設計された減量プログラムは、うつを改善する傾向がある」との結果も報告されてたりします。たとえば、食事の質を保ちつつ徐々にカロリーを落とすプログラムや、行動療法を取り入れたアプローチみたいなやつですな。つまり、今回の研究が示しているのは、「メンタルが落ち込んでいる時期に、不適切な制限ダイエットを行うと、さらにメンタルを落ち込ませちゃうかもよ」ってことなんでしょうな。

 

不適切な制限ダイエットってのは、たとえば炭水化物や脂質を極端に減らしちゃったせいで神経伝達物質がうまく作られなくなったり、何度もリバウンドを繰り返したせいで「また失敗するんじゃないか……」みたいに自信をなくしたり、みたいな感じっすね。なので、重要なのは「変なダイエットでメンタルを病まないようにしようぜ!」ってことでしょう。

 

ここまでの話をふまえてみると、ダイエットでメンタルを病まないようにするためには、以下のポイントを押さえてみるといいでしょう。

 

 

  1. 柔軟なゴール設定を設ける:「1ヶ月で5kg減!」のようなハッキリした目標は、達成できなかったときに挫折感が生まれやすく、メンタルの調子が下がりがち。なので、ダイエットの目標を立てる時は、短期・中期・長期の3段階で立ててみると吉。短期は「週3回の運動を続ける」などの行動目標。中期は体脂肪率やウエストの変化、体力の向上など。長期では健康診断の数値改善や生活習慣の定着を目指すと、体重だけにとらわれず、多面的に“成功”を感じられるようになる。


  2. 自分に合った記録法を選ぶ:ダイエットの継続には「記録」が効果的だけど、やり方を間違えるとストレスの元にもなる。たとえば、毎日の体重測定がプレッシャーになるなら、週1回にするか、代わりに写真で体型の変化を記録するのもOK。食事も細かくカロリーを記録するのが面倒なら、写真を撮るだけでも十分。「自分が楽にできる、ちょっと楽しい方法」を選ぶのが大事。


  3. 楽しめる手段でカロリーを減らす:ダイエット成功のカギは、「いかに我慢するか」ではなく「いかに楽しめるか」にあるので、好きな運動を取り入れたり、外食で1品だけヘルシーにしたり、夜だけ炭水化物を控えたりなど、自分に合った工夫を選んでみるとよさげ。


  4. 自己決定理論を使う:ダイエットを続けるには、気合や根性より「自己決定理論」を使うのが大切。心理学では「自律性・つながり・有能感」の3要素が行動の継続に欠かせないとされていて、「自分で選んでいる」「周りに応援されている」「ちゃんと成果が出ている」と感じられると、人は自然とやる気が湧いてくるとされる。この3つがそろうことで、ダイエットにありがちなストレスや孤独感が軽減され、無理なく続けられるようになる。

 

ここらへんを守っておけば、とりあえずダイエットでメンタルを病むことはあんまないんじゃないでしょうか。要はダイエットも持続可能で柔軟なアプローチだってことで、ぜひこの考え方をご利用くださいませ。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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