「脳に効く菌」の最新事情:認知機能とプロバイオティクスの関係とは?
「プロバイオティクス(善玉菌サプリ)って頭をよくしてくれるのでは?」みたいな考え方が昔からあるんですよ。乳酸菌やビフィズス菌が腸に良いのは常識ですが、どうやら脳にも良い影響を与えるらしいんだよなーって話ですな。
ただし、それがどこまで意味があるかについては謎が多かったんですが、新しいメタ分析(R)では、「プロバイオティクスで脳機能は改善するか?」ってあたりを掘り下げてくれてて参考になりました。
これは認知機能が落ちた高齢者778人を対象にした10本のランダム化比較試験(RCT)をまとめたメタ分析でして、プロバイオティクスが脳機能に与える効果をざっくり評価しております。ポイントざっくり並べると、こんな感じです。
- 参加者の平均年齢:60〜82歳
- 実施地域:中国(6本)、日本(3本)、イラン(1本)
- 対象者の多くがアルツハイマー型認知症などの軽度〜中等度の認知障害
- 使用された菌種:ビフィズス菌や乳酸菌が中心(単独または複数)
- 介入期間:4〜52週間(最も多かったのは12週間)
日本で行われた実験もふくまれてるのがナイスでして、それなりに参考になる知見を出してくれてるんじゃないでしょうか。
で、結果は以下のようになりました。
- プロバイオティクスは認知機能を改善した。しかも、単一菌種のほうが多菌種より効果が大きかった。
- ただし、効果が出たのは12週間以内の試験のみで、それ以上長く続けても、特に認知機能の向上は確認されなかった。
ということで、ビフィズス菌や乳酸菌を単独で飲んだほうが、軽い認知障害が改善するんじゃないかって結論であります。こりゃあなかなか期待できる結果ですなぁ。
が、プロバイオティクスに詳しい方であれば、ここで軽くひっかかったんじゃないでしょうか。「あれ?昔のデータでは菌の種類が多い方が効果があるとか言ってなかったっけ?」みたいな感じで。
その疑問は正しくて、実際のところ2023年の別のメタ分析(R)では、
- 複数の菌種をほうが認知機能を改善する傾向が強く、単一の菌種だけだと効果が見られなかった
という結果になってまして、今回の研究とちょっと矛盾してるんですよね。じゃあどっちが正しいの?って感じになりますが、2つのデータを見比べてみると、おそらく以下のような感じで整理できそうでな気がしておりす。
- 認知機能がかなり落ちてる高齢者 → 特定の菌種で効果あり
- 比較的元気な高齢者 → 菌の多様性が重要
要するに、「すでに乱れた腸内環境をピンポイントで正す」タイプと、「全体的な腸内多様性を高める」タイプでは、ターゲットが違うってことなんじゃないかと。そう考えると、プロバイオティクスの使い方も、自分の今の状態によって変わるのかもですなぁ。
では、そもそも「なぜ腸内細菌が脳に効くのか?」ってところを考えてみましょう。その仕組みについてはまだ完全には解明されていないんだけど、今のところ以下のようなメカニズムが候補として挙げられております。
- 炎症の抑制:アルツハイマー病などの神経変性疾患は、慢性炎症と深く関係していると言われるんだけど、プロバイオティクスには、腸内のバリア機能を改善して炎症を抑える働きがあり、それが脳にもいい影響を与えているのかもしれない。
- 血糖値の安定化:血糖コントロールが悪化すると、認知機能も低下しやすくなるのは有名な話。プロバイオティクスはインスリン感受性を高めることもあり、糖代謝の改善を通じて脳のパフォーマンスにも貢献してるのかも。
- 酸化ストレスの低下:善玉菌がつくり出すグルタチオンや短鎖脂肪酸には、酸化ダメージを減らす作用があるため、これも脳細胞を守る要因のひとつかもしれない。
- ストレス反応の調整:まだ動物研究の話だが、腸内細菌を持たないマウスはストレス反応が強くなる傾向があり、逆にビフィズス菌を投与するとストレス耐性が高まることが知られている。これは、迷走神経(腸と脳をつなぐ主要な経路)を通じて、腸内細菌がGABA受容体(リラックスを司る神経受容体)に影響を与えてるのかも。
というわけで、いろんなメカニズムが考えられるので、「プロバイオティクスで脳が改善してもおかしくはないよなー」などと思っております。今回のメタ分析を踏まえてプロバイオティクスと脳について言うならば、こんな感じになりましょう。
- 認知機能が気になる人は、プロバイオティクス試してみる価値あり。特に60歳以上で、すでに物忘れなどの軽度な認知低下があり、生活習慣病やストレスによる炎症が気になるような人は効果が期待できるかもしれない。
- 長く使えば効果が高いというわけでもないようなので、サプリを使うときは12週間くらいが適切な使用期間なのかも。
- 単一菌種と多菌種、どちらを選ぶかは目的次第だが、「今すでに脳機能が落ちてる」と感じてる人は単一菌種で特定の働きを狙うといいかもだし、「予防的に使いたい」と考えている人は多菌種で腸内多様性を増やすといいかも。
まあプロバイオティクスってのは、まだわからないことが多すぎるんで、このガイドラインは今後もコロコロ変わりそうな気がしますが、気になる方はプロバイオティクスをお試しあれー。