ウォームアップって本当に必要?──筋トレの常識に科学が突きつけた意外な事実
筋トレの前にウォームアップをする人は多いでしょう。本番の前にとりあえず軽く1〜2セット挟んだり、ちょっとエアロバイクを漕いでおいたりして、筋トレのパフォーマンスを高めようとするやつですな。
ところが最近、「ウォームアップって過大評価されてない?」と思わせる研究(R)が出まして、これがなかなか面白かったんで、その内容を詳しく掘り下げておきましょう。
この研究は、「ベンチプレスやレッグプレスのパフォーマンスにウォームアップは必要か?」って問題を調べたもので、以下の3パターンを比較してます。
- A:ウォームアップなし→ いきなり本番重量(10RM)でスタート
- B:ウォームアップ1セット→ 10RMの75%で3〜4回
- C:ウォームアップ2セット→ 55%で3〜4回 → 75%で3〜4回
これらを試したうえで、それぞれ「10RMの重さで限界まで4セット」行い、合計のレップ数、疲労度、トレーニング量などを比較したんだそうな。
で、その結果がどうだったかと言いますと、
- ウォームアップしてもしなくても、ほぼ身体の動きは同じだった!
みたいな感じだったそうです。ウォームアップをしようがしまいが、パフォーマンスは3条件ともほぼ差がなかったそうでして、もうちょい具体的に書いとくと、
条件 | ベンチプレスの総レップ数 | レッグプレスの総レップ数 |
---|---|---|
ウォームアップなし | 約32回 | 約32回 |
1セット | 約32回 | 約32回 |
2セット | 約31回 | 約30回 |
みたいな感じ。さらには、同じように「疲労度の指標」についても大差なかったそうで、たとえばベンチプレスの疲労指数は、
- ウォームアップ1セット:52%
- ウォームアップ2セット:56%
- ウォームアップなし:54%
だったらしいんすよ。つまり、「あれ? ウォームアップしたほうが疲れてないか?」って結果なわけです。
なんだか意外な結果のようですが、実は過去の研究でも同じような結果が出てたりしまして、たとえば、
- 2014年の研究(R):40〜60%の1RMでベンチプレスをアップしても、70%1RMでの本番のレップ数は増えなかった
- 2021年の研究(R):「ウォームアップ」 vs 「トレッドミルの有酸素」 vs 「なし」で比べたら、どれも同じようなパフォーマンスだった
といった具合で、どうやら「軽めのウォームアップセット」は、思ったほどの効果がない可能性があるんですよね。
というと、「扱っている重量が軽すぎたのでは?」という疑問がわく方もおりましょう。今回の研究では、平均的なベンチプレスの10RMが48kg前後になってまして、これは筋トレ上級者から見ればかなり軽めの負荷なんですよね。つまり、もともと絶対的な重量が低い場合は、そもそも身体的な準備にそこまでの負荷が必要ないので、ウォームアップによるパフォーマンス差が出ないのではないか?とも考えられるわけです。ここらへんは判断が難しいところですなぁ……。
じゃあ、結局のところ『ウォームアップは行うべきか? それともやめてもいいのか?」ってところが気になりますけど、結論から言えば、これは「ケースバイケース」としか言えないんじゃないでしょうか。ざっくりまとめてみると、
- ウォームアップが必要な場面:
- 本番で高重量を扱う(80%以上の1RM)
- 技術的に難しい種目をやる(スクワット、デッドリフトなど)
- ケガの予防を重視したいとき
- フォームの確認をしたいとき(特に初心者)
- ウォームアップを控えてもよさげな場面:
- 扱う重量が軽い(1RMの50%以下)
- 種目が単純で安全(レッグプレス、マシン種目など)
- 時間がなくて短時間セッションになるとき
- ウォームアップを省略してもよさげな場面:
- ダンベルフライやカールなど、局所の単関節種目
- 軽い自重トレ(プッシュアップ、スクワット)
- 軽いサーキットトレーニングなどの「慣らし」で自然に体が温まるとき
みたいになります。個人的には、最近はマシンを使った筋トレが中心なので、そこまでウォームアップにこだわらなくなってますね。「いや、ウォームアップしないとケガしそうで怖い…」という意見も当然あるとは思うんですが、この点については、はっきりしたデータは少ないながらも、
- 思春期や若年層アスリートでは、ウォームアップによるケガ予防効果が確認されている
- アメリカ整形外科学会も、原則としてウォームアップ推奨
- 高温環境や疲労が蓄積している日には、軽い動的ウォームアップが安全性を高める
といった方向のエビデンスがあるため、「怖いならやっといて損はない」というのが現実的な落としどころじゃないでしょうか。ウォームアップは“絶対”じゃないものの、自分が行うトレーニングの種類と相談しつつ最適なスタイルを選んでいただければと思う次第です。どうぞよしなに。