このブログを検索




アイデアが出ない人ほど「箱」を作れ! 創造性を高める制約の使い方を書いた本を読んだ話

  


『箱の中(Inside the Box)』って本を読みました。著者のデイヴィッド・エプスタインさんは、『RANGE(レンジ)』や『スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?』などで知られるサイエンスライターっすね。『RANGE(レンジ)』はとても良い本だったので、本書も期待して読みました。

 

まず本書のテーマを一言で言えば、「制約は人間の自由を奪うものではなく、むしろ集中力と創造性を高める装置なんだぜ!」って感じです。「制約」と言うと、窮屈なルールとか、上から押しつけられる管理みたいなイメージがありますが、本書では「人間の脳は自由すぎると迷うし、選択肢が多すぎると疲れるし、いつもの解決策に逃げるよねー」って主張がメインになっております。

 

というわけで、今回も本書から勉強になったところをチェックしてみましょうー。

 

  • 本書の中心的なメッセージは、「制約は創造性の敵ではなく、脳の迷いを減らすための道具だ!」というものである。私たちはつい、「もっと自由になれば、もっと良いアイデアが出る」「制限がないほうが自分らしく動ける」と考えてしまうが、実際にはそうではない。人間の脳は、選択肢が多すぎると判断にリソースを使いすぎ、集中力も創造性も落ちやすくなる。

    たとえば、仕事でも趣味でも、「何でも自由にやっていいよ」と言われると最初はワクワクするものの、すぐに「何から手をつければいいんだ?」「これで正解なのか?」みたいな迷いが発生する。この迷いによって脳が疲労し、最終的には一番慣れたパターンに逃げるようになる。つまり、自由が多すぎると、逆に創造性は減る。

 

  • 重要なのは、「制約」は自分を縛るためのものではなく、大事なことに使う脳の帯域を残すためのものだという点である。文章を書くときに「2000文字でまとめる」と決めるからこそ、何を入れて何を削るかが見えてくる。筋トレでも「今日は30分だけ」と決めるからこそ、メニューを絞って実行しやすくなる。制約が判断をラクにする。

 

  • そこで著者が推奨するのが、「いま抱えているコミットメントを全部見える化せよ!」というアドバイスである。あるゲノム研究所では、スタッフが現在進行中のプロジェクトを1件ずつ付箋に書き出し、それを壁に貼ったところ、全員がすぐに「同時に抱えすぎだ!」ってポイントに気づいた。これは個人でも同じで、私たちは「やることを増やす」のは得意だが、「やらないことを決める」のはめちゃくちゃ苦手である。新しい本を読む、新しい習慣を始める、新しい勉強をする、新しい運動を試す……と、良さそうなものはどんどん追加するが、そのぶん何かを減らす発想はなかなか出てこない。心理学では、このような傾向を「減算無視バイアス」と呼ぶ。要するに、問題を解決するときに、私たちは「何かを取り除く」という選択肢を見落としやすいという意味である。

 

  • ここから言えるのは、まず必要なのは「もっと頑張ること」ではなく、自分が何に縛られているかを可視化することである。そのためには、仕事、勉強、運動、読書、SNS、人間関係、健康習慣、将来の計画など、いま抱えているものを全部書き出してみて、そのうえで「この中で、今後90日だけ止めるとしたら、どれを止めるか?」と問いかける。ポイントは、「一生やめる」と考えないことで、人間は永久に捨てると思うと怖くなってしまうので、まずは90日だけ保留にすると良い。

 

  • メールやチャットをまとめて処理するのも重要である。心理学者グロリア・マークの調査によれば、オフィスワーカーは平均して1日に77回もメールをチェックしており、そのたびに脳が大きな負荷がかかっており、そのせいで1日のパフォーマンスが下がり続けてしまう事実が指摘されている。そこで本書が推奨するのは、メールやチャットのバッチ処理である。たとえば、メールを見るときは、午前11時、午後3時、夕方5時のように時間を決め、それ以外は開かないようにする。これが急にはできないなら、朝の最初の30分だけでも「メールを開かない時間」を作ってみる。

    これは「意志力で集中しろ」という話ではなく、「集中力を奪う環境を減らそう!」という話である。現代人が集中できないのは脳に細かな負荷をかけているからであり、この問題は通知と切り替えの回数を減らせば解決する。

 

  • 創造性を高めるためには「いつもの解決策を禁止する」というトレーニングも有効である。たとえば、「文章を書くときに最初に思いついた導入をあえて使わない」「企画を考えるときに、いつもの売り文句を禁止する」「会議で提案を出すときに『いつもの方法が使えないとしたら?』」と考えてみる。この手法に効果がある理由は、人間の脳が基本的に省エネだからである。脳は深く考えるのが嫌いで、何か問題に直面すると、過去に使ったパターンや、もっともラクな選択肢を自動的に持ってきてしまう。これが創造性の邪魔になるのは当然で、いつもの導入、いつもの結論、いつもの比喩、のような「最初に思いつく答え」は、だいたい過去の焼き直しだからである。

    この問題に立ち向かうためには、「いつものやり方が使えないとしたら、どうするか?」と問い直すのが良い。すると、脳は「え、じゃあどうするの?」と別ルートを探し始め、これが創造性の入り口になる。

 

  • もうひとつ重要なのが、「最初に箱を作る」という考え方である。これは完成形の制約を先に決めてから、その中でアイデアを組み立てることを意味しており、たとえばiPodのリードデザイナーであるトニー・ファデルは、起業家に対して「プロジェクトを始める前に、まずプレスリリースを書け」とアドバイスする。また、自身が製品を作るときも、製品が完成する前に商品の箱を試作していたという。

    彼がこのような実践をする理由は、箱を作ろうとする過程で、自然に優先順位が決まるからである。箱には無限の情報を入れられないため、「この商品は何を解決するのか?」「ユーザーに何を伝えたいのか?」「一番大事な価値は何か?」「逆に、何を削るべきか?」を決めなければならなくなり、そこで創造性が発揮される。

    これを実践するには、たとえば、ブログや企画書を書くときは、いきなり本文を書き始めるのではなく、まずは「完成後の紹介文」を書いてみるのが「箱を作る」ことに当たる。具体的には、「この記事は、制約が集中力と創造性を高める理由を解説し、やることを減らす、メールをまとめる、いつもの解決策を禁止する、最初に完成形を決める、「これで十分」の基準を作る、などの方法を紹介する」といった具合である。これをやると、文章を書いている途中で話がふくらみすぎたときなどに、「これは箱からはみ出してるな」と判断することができる。逆に、箱がないまま走り出すと、話がどんどん広がって、最終的に何を書いているのかわからなくなりやすい。

 

  • 最後に重要なのが、「これで十分」ルールを作るという話である。ノーベル経済学賞を受賞したハーバート・サイモンは、サティスファイシングという概念を提唱した。これは、satisfyとsufficeを組み合わせた言葉で、「十分に満足できる選択肢を選ぶ」という意味である。私たちは、あらゆる場面で「最高」を探しがちだが、現実にはすべての選択肢を比較して、最適解を出すことなど不可能である。にもかかわらず、「もっと良いものがあるかも」と探し続けると、時間とメンタルがどんどん削られてしまう。

 

  • 心理学では、常に最高の選択肢を探そうとする人をマキシマイザーと呼ぶ。マキシマイザーは、一見すると向上心が高くて良さそうに見えるが、実際には自分の決定に満足しにくく、後悔もしやすい。

    そこで必要なのが、「これで十分」の基準を先に決めることである。たとえば、買い物なら、予算、必要な機能、一定以上のレビュー、見た目などをもとに、「この条件を満たしたら買う!」という条件を決め、追加で比較しないようにする。ほかにも、映画なら「10分探して見つからなければ、最初に気になったものを見る」と決めればいいし、服なら「週2回以上使えそうなら買う」と決めればいい。

    これは妥協ではなく、大事なところに認知資源を残すための戦略だと言える。すべての選択で最高を目指すと、本当に大事な場面で判断力が残らなくなってしまうため、どうでもいい選択には「十分ルール」を作っておくほうがよい。

 

 

ということで、今回は『箱の中(Inside the Box)』って本のお話でした。「制約が創造性を高める!」って話はよく聞きますけど、ここを徹底的に掘り下げた本ってのは、意外とありそうでなかった気がしますな。現代人が選択肢の多さに迷ってるのは間違いないので、ここでいう「あえて箱を作れ!」ってアドバイスは、日々の基本的な戦略としてめっちゃよいのではないでしょうかー。


スポンサーリンク

スポンサーリンク

ホーム item



search

ABOUT

自分の写真
1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

INSTAGRAM