よくわかる部分やせの歴史 :「部分やせ」はどこまで可能か?#1
「部分やせ」には2パターンの主張がある
当ブログに届く質問のなかで、わりと多いのが「部分やせ」に関するものです。「ウエストだけ細くしたい!」とか「太ももの肉を何とかしたい!」みたいな話ですね。
で、ネットを探すと、
- 部分やせが不可能なことは科学的にも確認されている!
- いや、実は部分やせはできることが近年に判明したのだ!
って2パターンの意見が出てきてとまどうはず。科学の世界ではありがちな光景と言いますか。
では、実際のところはどうなの?ってことで、「部分やせ」の歴史をおおまかにみていきましょう。
全身の体脂肪は均等に減っていく
まず、「部分やせは不可能!」って話が出てきたのは30年も前の話で、1984年に行われた研究がベースになっております(1)。これは19人を対象にした実験で、27日間にわたって全員に腹筋運動をやりまくってもらったんですね(シットアップを1日140〜336回)。
しかし、その後で腹まわりのサイズや脂肪の量を調べたところ、変化はほとんどゼロ。がんばって5000回以上の腹筋運動をしまくっても、まったく腹はやせてなかったんですね。
もうちょい最近の例でいうと、2006年にコネチカット大学が行った研究(2)も有名なところ。104人の男女を対象にした実験で、12週間にわたって「利き腕じゃないほうの腕」だけを集中的にトレーニングしたんですね。
そのうえで全員をMRIにかけたところ、トレーニングした腕とトレーニングしなかった腕では、どちらも同じように皮下脂肪が減ってたんだそうな。つまり、どれだけ特定のパーツをトレーニングしても、体脂肪はすべてのエリアから均等に減っていくんだ、と。
その理由としては、
- 筋肉と体脂肪はつながってない:そもそも、筋肉のまわりにある脂肪は、別に血管をとおして筋肉とつながっているわけでもないんですね。なので、いくら筋肉を鍛えても周囲の脂肪への影響はないだろう、と。
- 筋肉は「中性脂肪」を使えない:基本的に、体脂肪は「中性脂肪」としてエネルギーを蓄えています。が、筋肉の細胞は中性脂肪を燃料として使えないので、筋肉と隣り合った脂肪から直にエネルギーを取り込むのはあり得ないんですね。
といった感じ。結局は「全身の脂肪は(ほぼ)均等に減っていく!」って結論にしかならないんですよね。というわけで、フィットネスの専門家のあいだでは、「部分やせは不可能!」が定説になってきた次第です。
筋トレで部分的に脂肪が分解した!
では、いっぽうで「やっぱり部分やせは可能だ!」って話があるかといえば、2007年にコペンハーゲン大学が新たな論文(3)を出して、「やっぱ部分やせってできるんじゃない?」って可能性がでたからであります。
これは男性を対象にした実験で、全員に「片足だけ」のレッグエクステンションを30分ほど続けてもらったんですね。その後で両足の血流と脂肪細胞をチェックしたら、
- エクササイズした足は血流が増えて脂肪も分解していた
- エクササイズしなかった足は、特に脂肪が分解していなかった
なんと、集中的に運動したエリアのほうが、脂肪の分解が活発だったんですな。なんでも、筋肉の収縮で血行がよくなったおかげで熱が発生し、周囲の脂肪に影響をあたえたみたい。近ごろのエステで流行っている「キャビテーション」と似たような仕組みですね。
この実験をベースに、いまでは海外の有名トレーナーが「部分やせメソッド」を開発してたりします。具体的には、ルーニー・ロウリー博士の「部分やせプロトコル」(4)なんかがメジャーなところ。
ただし、これだけで「やっぱ部分やせは可能なんだ!」と思うのは早計だったりします。というのも、上記の実験をよくみると、30分のエクササイズで約0.1gの脂肪しか溶けてないんですよ。つまり、1kgの体脂肪を部分やせしようと思ったら、ざっくり5000時間ほど追加の筋トレが必要なことに!
うーん、これは現実的じゃないっすね。 やはり「全身の脂肪は均等に減る!」って前提は崩れなさそう。
残された希望
そんなわけで、いまのとこ「部分やせは無理!」ってのが科学の結論であります。せつないですねぇ。
が、ここですべてをあきらめてしまうのは、実はまだ早かったりもします。確かに、特定のエリアだけの脂肪を燃やすのは不可能ですが、「もともと燃えにくいタイプの体脂肪」を溶かしやすくするのなら可能だからです。
といったところで、長くなったので続きはまた次回にー。