マインドフルネスっぽいけどマインドフルネスじゃないもの
「マインドフルネス」に関するご質問をいただくケースが多いんですが、いろいろ聞くうちに「定番の誤解」がいくつかあるなーと思ってきました。なんせマインドフルネスは定義が難しい概念なんで、混乱を招きやすいみたいなんですな。
ってことで、ここでは「マインドフルネスとは何か?」じゃなくて、「マインドフルネスっぽいけどマインドフルネスじゃないもの」についてまとめてみます。「◯◯にあらず」を並べることで、マインドフルネスの考え方をわかりやすくしよう、という試み。
1.マインドフルネスは瞑想のことではない
瞑想はマインドフルネスな状態になる手段のひとつですが、瞑想そのものはマインドフルネスじゃございません。マインドフルネスは「現在の体験を全面的に受け入れながら、リアルタイムで注意を向けること」 なんで、この状態を達成できれば手段はなんでもいいんですな。
実際、瞑想の世界でも集中力アップ系の技術(サマタ系)と、マインドフルネス系の技術(ヴィパッサナー系)は区別されてますしね。一般的にはサマタから入ってヴィパッサナーに進むことが多い気がしますが、いきなりマインドフルネス系から試しても問題なし。
また、認知行動療法の実践では、いきなり瞑想を行うよりは、レーズンなどを使った「マインドフル・イーティング」から入っていくケースのほうが多め。確かに、瞑想とマインドフルネスは混同されやすいので、まずはマインドフル・イーティングを試したほうが、マインドフルネスの状態を実感しやすいのかも。
2.マインドフルネスは心を無にすることではない
たまに「心を無にすること」とマインドフルネスを同一視するケースがありますが、これもまた別の話であります。
というか、そもそもヒトの脳はつねに考え続けるようにできてるんで、心を無にするのは基本的に不可能。脳からいろいろと思考や感情がわきあがるのを、リアルタイムでモニタリングしていくのがマインドフルネスだとお考えください。
ちなみに、仏教の世界でいう「空」とか「無」は、セルフモニタリングを徹底したあとで「自分には実態がない!」って事実に気づくことを言ってまして、 「心を無にする」みたいな話ではなかったりします。
3.マインドフルネスはリラックスではない
マインドフルネスを「究極のリラックス状態」みたいに説明する記事を見たことがあるんですけど、やはりありがちな誤解かと思います。
くり返しになりますが、マインドフルネスは自己の感情や思考のリアルタイムモニタリングなので、リラックス状態とは無関係。もちろん瞑想をすると深いリラックス反応が出ることは多いものの、これはあくまでオマケのようなものです。自分がリラックスしてきたら、「あー、いま自分はリラックス反応が起きてるんだなー」と受け流していくのがマインドフルネスであります。
4.マインドフルネスはフロー状態ではない
フロー状態は、深い集中や没頭に入った状態こと。こちらもマインドフルネスと混同されがちな概念かと思います。あくまでマインドフルネスは「観察」が主眼なので、自己の感覚が消えていくフロー状態とはまた別物なんですな。
つまり、フロー状態をモニタリングするマインドフルネスってのもあり得るわけですが、せっかくフローに入ったなら、そのメリットを活かすほうが良いような気がしますね。ちなみに、ミャンマーの瞑想センターとかだと、サマタ瞑想を極めすぎて24時間フロー状態に入っちゃう猛者もいるなんて話も。すごいですねぇ(笑)
5.マインドフルネスは幸福状態ではない
集中系の瞑想が上手くなってくると、たまに凄い幸福感がわき上がってくるケースがあります。この感覚を説明するのは難しいですが、座ってるだけで大満足みたいな気分と言いますか。
この感覚が出ると、つい「これぞマインドフルネス!悟りの境地だ!」とか思いがちなんですけど、これまたマインドフルネスとは違う話。というか、禅の世界などでは「魔境」とも呼ばれる状態で、どっちかといえばネガティブに扱われております。
もし多幸感が出てきても、同じように「あー、幸福感が出てるなー」と観察するのがポイント。まぁ、この感覚を受け流すのって超難しいんですけどね…(実体験)。
ちなみに、ポジティブ心理学では、長期的にマインドフルネスで幸福度が上がる経路は示唆されてまして、こちらは別に問題ないです。あくまで過集中の状態で起きる多幸感には気をつけましょうねって話ですので。