筋肉にダメージを与えた方が筋肉は育つ!はどこまで正しいのか?
筋肉を育てるには筋肉のダメージが必須!みたいな考え方があるわけです。
- 筋肉の繊維が切れたり、筋細胞に炎症が起きたりする
- 筋肉が修復しようとしてがんばる
- がんばったぶんだけ筋肉が増える!
みたいな仕組みを想定しているんですな。いまも一部のトレーナーさんがよく言う話で、ジムでも「だからガンガン筋肉を痛めつけよう!」みたいなアドバイスが行われてたりするんですな。
が、近年では「筋肉ダメージって意味なくない?」って話も出てきまして、当ブログでも、ちょっと前に「筋肉痛と筋肉の発達は関係ない」なんてデータを紹介したばかりだったりします。
といったところで、何人かの方から「もうちょっと詳しく!」ってリクエストをいただきましたので、近年の「筋肉ダメージと体の発達」に関する知見を軽くまとめとこうかと。
この問題に関する研究が進んだのは2010年ごろで、おもにブラッド・シェーンフェルド博士が主導しております。この博士は筋トレの鬼として有名な先生で、当ブログでも、
なんかに登場しております。筋トレに悩んだら、とりあえずこの先生を追いかけておけば安全。
で、博士が2010年に行なったレビュー論文(1)では、「筋肉を育てるためには何が必要なの?」って疑問の答えを3つにまとめてたんですよ。
- メカニカルテンション:適度な重さのウェイトを上げ下げすること。ほどよく筋肉を動かすことで、全身に「筋肉を増やせ!」という指示が行く。
- メタボリックストレス:ガンガンに体を動かして、体内に乳酸やらクレアチニンが増加。そのおかげで成長ホルモンが分泌される。
- 筋肉ダメージ:筋肉に傷がついて筋肉痛が起き、その修復時に筋肉が増える
ってことで、この時点では「筋肉のダメージも役に立つのでは?」って見解だったんですが、これはあくまで「理論的」なものだったりします。
というのも、実は「筋肉のダメージと筋肉の発達」を示したデータってのは、
- 動物実験
- テストステロンを注射した高齢者
を対象にしてまして、どこまで一般層に通用するかはわかってなかったんですな。これだけ有名な仮説にしては意外ですよね。
ってことで、2012年にはそこらへんをさらに細かく調べたレビュー(2)が出まして、こちらでは、
筋肉のダメージが筋肥大をもたらすというアイデアには、いまだ科学的な証拠が見当たらない。
って結論にトーンダウンしております。いろいろ細かく調べていったら、筋肉痛で筋肉が育つって考え方には科学的な証拠がなかったんだ、と。当時この結論を読んだわたしも驚いたものです。
では、具体的に「健康な成人」を対象にしたデータはどうかと言いますと、
- 14人の健康な男女を対象にした2011年の実験(3)では、半分のグループに「あえて筋肉ダメージが増えるエクササイズ」を指示したけど、ダメージがないグループと筋肉量の発達は変わらなかった
- 11人の健康な高齢者を対象にした2007年の実験でも、やっぱり筋肉ダメージが多くても筋肉は増えなかった(4)
- 筋トレ初心者を対象にした2016年の実験(5)では、トレーニングを開始してから3週間後は筋肉痛が多い方がタンパク質合成が増えたが、筋肉のダメージが治ったあとは全く関係がなくなった
などなど、いずれも「筋肉ダメージでは筋肉は増えない!」って結論になってたりします。まぁここまで積み重なると、やっぱ関係ないんだろうなぁって感じですね。
ってことで、結論としましては、
- 「筋肉痛が筋肉を増やす」ってのは理論的にはありえる
- が、筋肉ダメージは筋肉を育てるほどのインパクトを持たない!
ってことになりましょう。現実的には、筋肉ダメージを気にしながらエクササイズをする意味はなさそうですねー。