うつを「強さの証拠だ!」と捉え直すと、目標達成が50%伸びるかもしれない説
「かつてうつを経験したことがある人ほど、目標に向かうのが怖くなる」みたいな現象があるんですよ。うつに一度悩んだことがある人は、症状が落ち着いたあとも、
- 「自分はメンタルが弱い人間だ」
- 「またダメになるかもしれない」
- 「大きな目標なんて無理だ」
といった思考に悩まされて、じわじわと行動ができなくなってしまうケースは少なくないんですな。
なかなか困った問題ですが、近ごろ面白い研究(R)が出てまして、なんでも「うつを“弱さ”ではなく“強さの証”として捉え直すだけで、目標達成率が約50%も上がった」というんですな。面白いっすねぇ。
まずこの研究の前提を押さえておくと、「うつで目標追求が妨げられる」って現象は昔からよく知られてまして、その理由としては、
- 疲労感の上昇
- 意欲の低下
- 集中力の低下
といった生物学的な問題がよく言われるわけです。で、ここらへんの問題はもちろんあるとして、研究チームはさらに「もうひとつ見えない要因が大きいのでは?」って指摘をしてるんですよ。それが、皆さまご存じ「スティグマ」であります。
スティグマってのは社会的な偏見のことで、たとえば「うつ」に対して、社会はしばしば「うつを経験した人は精神的に弱い人」みたいなラベルを貼りがちじゃないですか。でもって、このようなラベリングを本人が内面化しちゃうせいで、たとえ症状が改善しても、
- 「自分は壊れやすい人間だ!」
- 「私は成功に向いていない!」
と無意識に思い込んじゃうケースがよくあるんですな。いわゆるセルフ・スティグマと呼ばれる現象であります。
そこでこの研究では、過去に抗うつ薬を処方された経験のある成人に、以下のようなトレーニングを指示しております。
- うつ症状と闘った人たちの体験談を読む
- 自分自身のうつ経験を「強さの証」として考え直す
- それを「他人へのアドバイス」としてまとめる
これがどういうことかと言うと、たとえば、
- 朝ベッドから起きるだけで全力を使い切るような状態でも、それでも出勤し続けた自分を「責任感と持続力のある人間」と捉え直す
- 何も楽しく感じられない中でも人間関係を保とうとした自分を、「感情の調整力が発揮できた」と再評価する
- うつが再発しながらも通院や治療を続けた事実を「回復力(レジリエンス)の証拠」として再解釈する
といったような実践を繰り返したらしい。これによって「うつに苦しんだということは、自分の中には粘り強さや感情の調整能力があるという証拠だ」って感じで、うつ自体へのネガティブな考え方をポジティブに書き換えよう!ってことですな。
それと同時に、この実験では対照グループも作ってまして、こちらには「うつの一般的な情報を読んで感想を書いてねー」というタスクのみが指示されたそうな。このグループを作ることで、「うつについて考えただけで良い変化が起きるかも?」って可能性を取り除いたわけです。
でもって、2週間後に、参加者たちがどれだけ自分の目標を達成できたのかをチェック。それぞれの個人的な目標はかなりバラバラで、「週3回運動する」「企画書を完成させる」「友人に連絡する」みたいなものだったそうな。
その結果がどうだったかと言いますと、
- 対照グループの目標達成度は43%
- トレーニンググループの目標達成度は64%
なんとも興味深い結果ですけども、ここまでの効果が出た理由について、研究チームは「トレーニングによって自己効力感が改善した」ことを理由に上げておられます。要は、トレーニングのおかげで「自分はやればできる」って感覚が育ったってことですな。
実際のところ、データを見てみると、トレーニングを行ったグループは「うつ」へのネガティブな姿勢が弱まり、「うつ状態でもなんとかなる」って感覚が増大してるんですよね。過去の文献を見ていても、人間は「能力」よりも「自己イメージ」によって行動量が決まるケースが非常に多いみたいなんで、トレーニングでセルフイメージが書き換わったってのは大きな変化なんでしょうなぁ。
ちなみに、このトレーニングを行ったグループには、
- 自分に対してより思いやりを持つ
- 自己批判が少ない
といった傾向も見られたそうで、これも面白い変化ですね。自己効力感と同時にセルフ・コンパッション(自己への思いやり)も向上したってのは、なかなかよろしい成果じゃないでしょうか。
もちろん、この研究には限界もありまして、「目標の達成度」は自己申告でしかないし、追跡が2週間のみで長期効果は不明だしで、正味な効果にはよくわからないところもあるんですけど、もし過去にうつを経験しているなら、このトレーニングに似たことを試してみてもいいかもしれません。具体的には、こんな問いを自分に投げてみてください。
- あの時、ベッドから起き上がるのにどれだけの力が必要だったか?
- あの絶望の中で、何を守ろうとしたか?
- あの苦しさを、どんな能力を使って生き延びたか?
その上で、質問の答えを「自分に備わった能力」として書き出してみるわけです。たとえば、「何もやる気が出なかったのに出勤し続けたのは、私の“責任感”と“持続力”があったからだ」や「毎日ネガティブ思考に飲み込まれながらも通院を続けたのは、“諦めない力”があったからだ」みたいな感じですね。この時に、できれば「同じ経験をした人にアドバイスするとしたらどうなる?」という形にすると効果が強まる可能性がありますんで、あわせてお試しくださいませ。
うつは確かにしんどい状態なんだけど、それと同時に「うつと闘った事実そのものが、自分の強さの証でもある!」って見方もできますんで、自分の思考を自分で再解釈してみることで、以降の行動量が大きく変わるかもしれませんな。



