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人生がしんどい!を減らして人生を立て直せるかもしれない「ナラティブ・アイデンティティ法」の話

 

自分は何者なんだろう?」みたいな問いは、いつの世にも常にあるわけです。特に人生が予定通りに進まないときにこういうことを考えがちで、たとえば仕事でつまずいたとき、人間関係が壊れたときなどで、われわれは急に「そもそも自分の人生とは?」みたいなことを考え始めがちっすね。

 

心理学では、こういう「自分の人生に意味を与える作業」をナラティブ・アイデンティティなどと呼んだりします。人間は生きる意味を必要とする生き物なので、困ったときほど「自分という人間が、こういう経験を経て、こうなった」という物語を作ろうとするのだ!みたいな考え方っすね。

 

で、最近の研究(R)では、この「人生の物語をいかに作るか?」が、メンタルの安定や対人関係のしんどさと関わってるよーって話になってていい感じでした。

 

この研究は、18〜25歳の若者140人を対象に、境界性パーソナリティ障害(BPD)の診断を受けた46人と、BPDのない大学生94人を比較したもの。参加者には「人生を一冊の物語だと考え、自分を変えた出来事を2つ書いてくださいねー」って指示を出し、その文章をチェックしてどのような人生の物語を作る人がメンタル的に安定しやすいかを調べたんですよ。なんで境界性パーソナリティ障害に焦点を当てたのかと言いますと、この症状は、感情が激しく揺れたり、人間関係が不安定になったりするだけでなく、「自分が何者なのかわからない」って感覚に苦しむことがよくあるからです。なので、人生の物語とメンタルの問題のつながりを調べるには、うってつけだったわけですね。

 

でもって、研究の結果を見てみると、メンタルが安定している参加者が描いた「人生の物語」には、大きく3つのポイントが観察されたそうな。

 

 

1. 自分は人生を動かしているか?

ひとつめは主体性で、「人生の物語のなかで、自分は自分で何かを選び、自分で決めて動いているのか? それとも、ただ出来事に押し流されているだけなのか?」を表す観点。たとえば、転職で失敗したとしても、

 

  • 「自分には能力がないので、また逃げるしかなかった」

 

と語る人もいれば、

 

  • 「失敗はしたけど、あれで自分に合わない環境がわかった。次は条件を見直して動いた」

 

と語る人もいたりするじゃないですか。後者だって、別にポジティブな話じゃないんですが、「自分は何もできない存在だった」という結論で終わらせず、「失敗のなかでも、自分はちゃんと自分なりの選択をしたのだ!」って要素を残しているのがポイント。これができる人は、人生のハンドルを自分で握っている感覚を持ちやすくなり、これがメンタルの安定を引き起こすわけですね。

 

 

2. 他人とのつながりは、物語に入っているか?

ふたつめは他者とのつながりでして、良い人生語りには、だいたい他者が出てくるとのこと。たとえば、自分を助けてくれた人、裏切った人、距離ができた人など、良い関係も悪い関係も含めて、「他人との関係を通じて自分がどう変わったか」が語られることが多いんだそうな。

 

逆にしんどいときには、人生の物語から他人が消えがちになるんだそうで、「どうせ誰もわかってくれない」「自分はずっと一人だった」「人間関係は、最後には必ず壊れる」みたいな感じで、物語のなかに安全な関係性が存在しなくなるらしい。もちろん、実際にひどい扱いを受けてきた人もいるんでしょうが、それでもたいていの人は、人生のどこかに、ほんの少しでも「この人は自分をまともに扱ってくれた」「自分も誰かを大事にできた」みたいな場面はあるはずなんで、それが物語から消えちゃうのが問題だってことですね。

 

 

3. 出来事を「劣化の証拠」にしていないか?

今回の研究でいちばん重要だったのがここで、メンタルが安定している人は、なんらかの出来事を経験したあとに「自分は成長した!」と見る傾向があったとのこと。この研究では、「自分は以前よりダメになった」「あの出来事で自分は壊れた」「自分の欠陥が証明された」みたいに、自己の劣化を強調する物語を語る人は、特に人格機能が低くなったんだそうな。

 

といっても、これは「嫌な出来事を前向きに考えよう!」みたいな話ではなく、たとえば過去に「いじめられた経験」があった人が、「いじめられた私は価値がない人間だ」という結論に行き着くのと、「いじめられたときはかなり傷ついたし、今でも人間関係は苦手だけど、あの扱いが自分の価値を決めるわけではない」という結論に行き着くのとでは、やはり人生のとらえ方は大きく変わるでしょうからねぇ。この時、前者は過去の出来事に人生を渡しているのに対して、後者は傷ついた事実を認めつつも「その出来事をどういう意味にするか?」を判断する権利を、まだ自分の手元に残しているってのが大きいんですよ。

 

 

ということで、人生の物語の作り方が、メンタルの安定と深く関わっているわけですが、この「ナラティブ・アイデンティティ研究」を現実の生活に活かすのであれば、以下のようなワークをやってみるといいかもしれません。

 

 

ナラティブ・アイデンティティの実践法

 

まず、「自分を変えた出来事」を2つ選びましょう。これは、成功でも失敗でも、人間関係でも、病気でも、引っ越しでもなんでも構いません。

 

そのうえで、各出来事について、以下の3つを書いてみてください。

 

  1.  あのとき、自分は何を失ったか?
  2.  あのとき、自分は何を選んだか?
  3.  あの経験のあと、自分に残ったものは何か?

 

ここでのポイントは「良い話」にまとめないことでして、「あの経験のおかげで成長できました!」みたいに前向きな文章にする必要はありませんので。なので、書き方の例としては、

 

「自信はなくなった。でも、人の痛みには前より気づけるようになった」
「関係は壊れた。でも、次に誰かと付き合うときの境界線はわかった」
「夢は叶わなかった。でも、あのとき本当に欲しかったものは見えた」

 

みたいな感じで十分であります。

 

 

ということで、人生に悩んだときは、上記をふまえて「傷ついた!」とか「落ち込んだ!」みたいな部分まで含めて、「それでも自分はやってきたぞ!」という物語を作ってみてくださいませ。まぁ、人によっては、過去の出来事が重すぎて言葉にしづらいこともあるでしょうから、その場合は、心理士や精神科医などと一緒に整理してみてくださいませ。最近なんだか「自分の人生、失敗ばかりだな……」と感じていたら、ぜひお試しくださいー。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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