長生きの最終兵器?「カロリーリストリクション」で本当に長生きできるのか?
ちょい前に「カロリーリストリクション」(通称カロリス)について書いたことがありました。毎日の摂取カロリーを少しだけ減らす食事法で、「見た目が若返る!」とか「長生きできる!」と言われております。実際、アカゲザルの実験ではかなり良い結果が出てまして、「人間でも同じ効果があるんじゃない?」と言われてきたんですね。
2年にわたってカロリスの効果を調べた
ところが、これまでのカロリス研究はヒトに対する実験がなかったのが難点。カロリスの実践者を観察した研究はあったものの、ちゃんと実験室で厳しく調べたデータがなかったんですな。
というわけで新たに出たのが、肥満の研究で有名なエリック・ラバシン博士のチームによる実験(1)。218名を対象に2年にわたってカロリスの効果を調べた大作になっております。これは相当に手間と金がかかっただろうなぁ。
参加者の年齢は20〜50歳で、BMIは22〜28の範囲内。いたって健康的な方々ばかりですね。全員に普段の食事量から25%ほどカロリーを減らしてもらい、脂質や安静時代謝などの数値を調べたんですね。
結局、長生きに効くかはわからなかった
その結果は、
- 深部体温には変化がなかった
- 安静時代謝にも変化がなかった
- 体内の炎症レベルは減った(C反応性蛋白とTNFアルファが減少)
- 中性脂肪とLDL(悪玉)コレステロールが減り、HDL(善玉)コレステロールが上がった
- 血圧が減った
- 甲状腺ホルモンが減った
- 血糖値が改善した
- 体重が1割減った
といった感じ。ぱっと見は非常に良い結果が出てるようですが、難しいのは安静時代謝と深部体温が変わらなかったところです。
というのも、安静時代謝や深部体温が低い人ほど長生きする傾向がありまして、昔から「代謝と体温は長寿の指標」と考えられてきたんですよ。その理屈をざっくり言うと、
- 代謝と体温が下がる
- 体が働かなくてもよくなる
- 体が働かにので酸化が減り、生存に必要な化学物質も保存される
- 長生き!
ってイメージ。代謝と体温が低いと体がオーバーワークにならず、結果として老化のスピードもゆるやかになるって話であります。この仮説はいろんな観察研究で確認されてまして、老化の説明としてかなり有力視されているんですね(もちろん異論もある)。今回の研究で安静時代謝と深部体温が変わらなかったのは、カロリス支持者にとっては「あれ?」みたいな感じでないかと。
そんなわけで今回の人体実験から言えることは、以前にカロリスについて書いた結論と変わらなかったりします。再掲すると、
- 人間の寿命がカロリスで伸びるかどうかはまだサッパリわからない(安静時代謝に変化がないので)
- ただしアンチエイジングへの効果は間違いなさそう(炎症を減らしてるので)
- いっぽうで日々の活力を失わせる可能性も大きい(甲状腺ホルモンが減ってるので)
といった感じ。やはり「アンチエイジングには良さげだけど、日々の活力は減っちゃいそう」って印象がありまして、このあたりのバランスは難しいところです。甲状腺ホルモンの減少は冷え性や生理不順と結びつくんで、あまり女性にはおすすめしづらいかなぁ。
ヒトの長寿を左右する7つの要素
ちなみに、「カロリス」について個人的に賛成なのが、2014年のレビュー論文(2)の意見。過去に出たカロリス研究をチェックしたうえで、ヒトの長寿を左右する7つの要素を選び出したんですね。それが以下の図であります。
カロリー摂取量が重要なのは間違いないけれど、遺伝やタンパク質量といった要素も同じぐらい大事なんで、「カロリスだけにこだわっても意味はないよ!」って話ですね。当然といえば当然の結論ですけど、いまのところはベストな落としどころではないかと。
個人的には、カロリスは心理的に辛いので手を出さない可能性が大。摂取カロリーはプチ断食で調整していこうかと思っております。