【質問】「加齢臭」ってどこまで対策する必要があるんすか?
こんなご質問をいただきました。
鈴木さんと同じ46歳男です。年齢を重ねると本当に体臭は変わるんでしょうか? 自分もアラフィフになり加齢臭を気にしなければならないと思ったものの、自分の体臭が変わった気がしません。これは自分の臭いは自分ではわからないだけでしょうか?そのときは、加齢臭の対策はしたほうがいいのでしょうか?
ということで、加齢臭はどこまで気にすればいいのか、と。これは同じ年齢の私たちには、気になる問題ですよね。
で、そもそもの話をすると、加齢臭が話題になりはじめたのは2001年のことで、資生堂の土師信一郎先生を中心とする研究チームが行った実験(R)がもとになってます。これは、26〜75歳の被験者を対象にした試験で、みんなに同じシャツを3晩続けて着てもらったあとで、シャツに付着した分子を抽出して化合物を分析したんですよ。
その結果、ほとんどの化学物質は年齢による影響を受けなかったんだけど、2ノネナールという物質だけが例外で、こいつだけは40歳を超えてから年齢とともに増加したんだそうな。といっても、2ノネナールは私たちの体内から出る物質ではなく、高齢者になるとオメガ7系の不飽和脂肪酸の量が増え、これが空気に触れて分解されて出来上がる仕組みになっております。
あくまで22人を対象にした小規模な試験ではありますが、その後でこれといった反論があったわけでもなく、土師先生のチームが出した結論は、時の試練に耐えていると言っていいんじゃないでしょうか。その点で、年齢にともなって体臭が変わるのは、十分にありえる話です。
が、ここで最も問題になるのは、「2ノネナールって本当に加齢臭の原因なの?」ってとこじゃないでしょうか。
というのも、「正味なところ加齢臭ってどこまで臭いの?問題」で紹介したとおり、2012年に行われた研究(R)は、「ほとんどの人は2ノネナールの臭いを全く気にしない」と報告しているからであります。簡単におさらいすると、この研究が提示する結論と言うのは、
- 実際に高齢者の体臭を嗅いでもらったところ、たいていの人は「高齢者の体臭は若い人よりも不快でない」「若い人の体臭のほうが高齢者よりも強くない」と評価した。
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たいていの人は、若い人と中年の人の体臭の違いを見分けられない。一方で、高齢者の体臭サンプルは簡単に識別できたが、やはり不快なものだとは評価されなかった。
みたいな感じです。「これは高齢者の体臭です」と明示されない場合は、とりたてて高齢者の体臭が不快なわけでもないらしいんですな。要するに、高齢者の体臭は確かに独特なんだけど、必ずしも不快で強烈な臭いではないってことですね。「加齢臭」って言葉が普通になった現代では、いまいち受け入れづらい結論かもですな。
ただ、そもそも「香り」ってのは、解釈によって快不快が変わるとこがありまして、土師先生のチームも、2ノネナールについて「不快な油っぽい臭い」や「草のような臭い」といった表現をしておられます。油っぽい臭いは嫌ですけど、草のような臭いであれば、賛否がわかれそうですもんね。
事実、上述した2012年の研究でも、「年配の人の臭いが不快とみなされるのは文脈次第では?」と推測しておられます。簡単に言えば、「加齢は良くないことだ」や「年寄りは厄介者だ」みたいな文化が根強いところでは2ノネナールが不快に感じられるし、逆に「お年寄りは経験値がある」や「歳を取るほど人生は楽しい」みたいなイメージがある文化圏では、2ノネナールは逆に良い香りだと判断されるってことですね。それはそうかもですなぁ。
で、最後に「加齢臭の対策はしたほうがいいのか?」ってポイントについて申し上げますと、
- 2ノネナール対策をうたう特別な製品を購入する必要はないでしょう
ってのが現時点での結論になります。それというのも、近ごろは2ノネール対策に特化した製品も増えましたが、いまのところ、これらの製品が実際に2ノネナールそのものに効いていることを示す証拠はないものですから。
おそらく、多くの製品はたんに2ノネナールの臭いをマスキングしてるだけでして、それなら別に一般的なデオドラントを使えばいいんじゃないかなーと考えております。加齢臭がどうこうとかこだわらず、ぜひご自分の体臭に合ったデオドラントを探していただければと。