今週の小ネタ:死んだ乳酸菌でメンタルが改善するかも、ビタミンDで月経痛が改善、ここ数十年でみんなの代謝が下がってる?
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
加熱殺菌した乳酸菌でメンタルが改善するかもー
「加熱殺菌した乳酸菌を飲んだらリラックス度が上がったぞ!」ってデータ(R)が出ておりました。「死んだ腸内細菌を飲む意味はあるのか?」って疑問は昔からありますけど、ここでは死菌にも意味があるんだって結論ですね。
これは58名の 看護学生を対象にした試験で、まずは参加者を2つのグループにわけてます。
- 死菌グループ:50億CFUの死んだ乳酸菌(Lactobacillus helveticus)とマルトデキストリン粉末を毎日飲む。
- プラセボグループ:外見、におい、味を乳酸菌に似せたマルトデキストリン粉末を毎日飲む。
テストの期間は4週間で、実験の前後で全員の不安、疲労、睡眠の質などをチェックしたところ、
- 乳酸菌を飲んだグループは、リラックス度のスコアがプラセボよりも高かった。
- 「親切さ」の得点も、プラセボより乳酸菌グループのほうが高かった。
- その他の気分に関する有意差は観察されなかった。
って感じだったらしい。まー、正直わりとゆるい試験だし、参加者の主観的な気分の変化しか追ってないんですが、「プロバイオティクスがメンタルに効くかも?」って説は昔から根強いし、「お腹を壊すとメンタルもやられる!」 って可能性もかなり高いんで、ラクトバチルス・ヘルベティカス菌を飲んでみるのはアリなのかもなぁ。
ビタミンDで月経痛が軽くなるかも?
「ビタミンDのサプリで月経痛が軽くなるかもだ!」ってメタ分析(R)が出ておりました。
これは、原発性月経困難症の女性695人(13-40歳)を対象にした調査で、9件のランダム化比較試験をまとめて、わりと精度が高めな結論をだしてくれたんですよ。実験で使われたビタミンDは、300,000IUの単回投与(2試験)、3,000IUまたは300,000IUの月1回投与(3試験)、50,000IUの週1回投与(3試験)、5,000IUの1日1回投与(1試験)って感じになってます。試験期間は1ヵ月から4ヵ月のあいだですね。
すると、分析の結果はこんな感じになりました。
- 全体の分析では、ビタミンDのサプリは月経痛の痛みが軽くなることがわかった。
- サブグループ解析では、ビタミンDを飲む回数や期間にかかわらず、月経痛がやわらぐ可能性が示された。
- 月経痛の痛みがやわらぐ効果は、ビタミンDを飲む量が1週間あたり50,000IU以上で統計的に有意となった。
1週間あたり50,000IU以上ってのは、サプリの摂取量としては多めで、正直「こんなに飲んでもいいんかなぁ……」という気もしますな。まぁこのメタ分析は、データ数はかなり少なめながら、バイアスのリスクはそこまで高そうでもなく、そこそこ信頼できるかもしれません。サプリを試してみたい方は、お医者さんにご相談のうえどうぞ。
ここ数十年でみんなの代謝が下がってるぞ!
「おい!みんなここ数十年でみんな代謝が下がってるぞ!」という研究(R)が出ておりました。どんなに運動しない人でも、気づかぬうちに1日のあいだに結構なカロリーを消費しているわけですが、その総エネルギー消費量が、米国と欧州で減り続けているというんですな。
これは米国と欧州に住む男女4,799人が対象で、国際原子力機関(IAEA)のデータを使い、1981年から2017年の間に集められたカロリー消費量の変化をプロットしたものです。ここで集められたデータは、総エネルギー消費量(TEE)、基礎エネルギー消費量(BEE)、活動エネルギー消費量(AEE)の3つで、分析の結果は体組成(脂肪量と無脂肪量)と年齢で調整したそうな。
そこで、どのような結果があったかと言いますと、
- この30年間で、TEEは男性で推定1日222キロカロリー/日(7.7%減)、女性で推定1日122キロカロリー(5.6%減)減少した。
だったそうです。まー、この研究は、30年以上にわたって収集されたデータを使ってるんで、この間に調査法が変わった可能性もありまして、そのあたりは注意が必要でしょう。
しかし、この研究が示すとおり、ここ数十年で本当に代謝率が下がったとすれば、欧米で特によく見られる肥満の増加は、消費エネルギーが減ったのも原因なのかもですな。なんでこういうことが起きたのかは不明ですけど、考えられることとしては、
- 運動量が減ってるから?:現代人は運動不足だとさんざん言われているので、それで個人の総エネルギー消費量が減ったのかーという仮説。ただし、実際に調べてみると、米国、スペイン、英国などでは、余暇の身体活動は減少しておらず、むしろわずかに増加しているって指摘さえあったりするので、この仮説が正しいかは微妙なところ。
とはいえ、アメリカのデータによると、たいていの人は、仕事でのエネルギー消費は少なくなったとも言われるので、そこで消費エネルギーが低下しているのかもしれない。結局、身体活動によるエネルギー消費の変化を正確に確かめるのは超難しいため、なんとも言いづらいというのが正直なところ。
- 暖房が進化したから?:通常、気温が下がると、人間の体は熱を発生させて体温を保とうとする。しかし、1980年代以降、室内暖房が発達したため、昔よりも寒さにさらされなくなった結果、代謝が下がったのかもしれない。ただし、室内温度と代謝率との間にはっきりした関係があるかどうかは謎。
- オメガ6の摂取量が減ったから?:多くの国では、ここ数十年で動物性脂肪の消費が減少し、代わりにオメガ6の摂取量が増えている。ただし、オメガ6が増えることで代謝が下がるのかはいまんとこ謎。
といった仮説が述べられておりました。個人的には日常の活動量が原因じゃないかなぁ……と思いますが、ここ数十年で代謝が下がっているってのは、なかなか興味深い話ですなぁ。