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子どものスマホ依存はなぜ起こる? 最新132本の研究でわかった意外な原因と対策

 
 

「うちの子、スマホ漬けになってて心配……」みたいな話を耳にする機会が増えてきた昨今でございます。子供に限らず、そもそも自分がスマホ漬けなんだけど、これって大丈夫なんかな……みたいなお悩みを抱えている方もいらっしゃいましょう。

 

そんななかで、最近おもしろいメタ分析(R)が出まして、なんと132本もの縦断研究(=時間の流れを追った調査)をかき集めて、スマホやテレビなどの「画面の使用」と「子どものメンタルの問題(=不安、落ち込み、攻撃性など)」の関係を徹底的に洗い出した内容になっております。この手の話題は感情的になりがちなものですが、データに基づいた知見を出してくれてるのはありがたいことですな。

 

具体的には、132件の縦断研究(=時間の経過に沿って追跡された研究データ)から15万9,425人の子ども・青少年(0〜18歳)のデータをまとめ、スマホ、ゲーム、SNSなどの利用量と、攻撃性、不安、うつ症状の発生との関連を調べてくれてます。当然ながら、因果の方向性も検証をしてくれていて、非常によろしいですね。

 

で、まず結論から言っちゃうと、

 

  • スマホの悪影響は双方向!

 

みたいになります。必ずしもスマホが子供に悪い影響を及ぼすだけではなく、メンタルが既に悪化した子ほどスマホに手を出しやすくなる、という話ですね。もうちょい詳しく言うと、

 

  • スマホの使いすぎは、子どもの社会情緒的な問題を悪化させる(b = 0.06)

  • 逆に、情緒的な問題を抱える子どもは、スマホに依存しやすくなる(b = 0.06)

 

という双方向の関係が確認されたわけです。つまり、「スマホがメンタルを壊す」のではなくて、「心の状態がスマホへの依存を加速させる」こともあるんだ、と。「スマホの悪影響はどっちが先なのか問題」ってのは、これまでの研究だとけっこう曖昧だったんですが、今回は時間軸をはっきりさせた縦断研究ばかりを集めてるんで、因果関係に一歩近づいたかたちであります。

 

でもって、さらに面白いのが、「どんなスマホの使い方をしてるか?」によって、影響の大きさがガラリと変わる点でしょう。こちらはどんな結果が出たのかと言いますと、

 

  • ゲームをしている子は、あとから社会情緒的な問題が出てきやすい(b = 0.32)
  • 社会情緒的な問題を持っている子は、ゲームにハマりやすい(b = 0.44)

 

ということで、よくも悪くもゲームの影響が特に大きいと言う結果になっております。これは他の用途(たとえば動画視聴や一般的なエンタメ利用)よりも明らかに強い影響でして、ちょっと気になるところですね。まぁゲームってのは他の用途よりも没入感が高いので、それだけに影響も大きくなっちゃうってことなんでしょうね。

 

さらに、この研究でもうひとつ注目したいのは、「スマホを使う時間の長さ」だけが問題じゃないって話であります。もちろん、1日8時間ゲームやSNSに没頭するのはヤバいんですが、それ以上に大事なのは、

 

  • 見ているコンテンツの質
  • 画面を見る環境(ひとりで見るか、親と一緒か)
  • 利用の目的(逃避か、学習か、娯楽か)

 

といった“質的な要素”のほうが、インパクトが大きいって知見も確認されてるんですよ。具体例を1つ挙げると、親と一緒に教育的な番組を観る「コ・ビューイング」は、むしろ子どものメンタルに良い影響を与えるケースも確認されていまして、親がコンテンツに介入することでスマホやタブレットを「絆のツール」として使える可能性も示唆されておりました。ここらへんは、食事の量より質が大事だって考え方と似てますね。

 

ということで、このデータから得られる教訓をまとめると、以下のようになるかもしれません。

 

  1. ゲームやSNSなど“高リスク”用途を制限:まず大事なのは「ゲームやSNSなど、依存性が高い用途」は他の用途に比べてリスクが高いという点。したがって、ゲームの時間はきっちり制限して、SNSはできれば中学以降に解禁するようにして、家族と一緒にできるアクティビティ(料理、ボードゲームなど)を用意するのがめっちゃ大事だと言える。


  2. コンテンツの質を高める(教育系・自然系):スマホやタブレットを見ること自体は悪じゃないので、コンテンツの中身を工夫する手もあり。たとえば、動物ドキュメンタリーや自然映像、子ども向けのマインドフルネス動画みたいな内容は、むしろ情緒の安定に良い影響がある可能性もある。


  3. “一緒に見る”習慣を育てる:「親と一緒に見る」時間はかなり重要。研究でも、一緒に画面を見る子どもは、のちの社会情緒的問題が少なかったと報告されている。子供と一緒に作品を観ながら、「このキャラどう思う?」「こういうときどうする?」など、感情と言語をつなげる声かけをすると、より効果的っぽい。

 

いろいろ書いてきましたが、おそらくこの研究の最大のポイントは「スマホは子どもの心に悪影響を与えることもあるけど、子どもの心が先にヤバくなってからスマホにハマることもある」って点なので、そこを押さえておくのが第一でしょう。あくまでスマホと心は双方向の関係にあるので、「とりあえずスマホ禁止!」みたいな対応は根本解決にならないはず。そこで、「なんでうちの子、スマホばっかり見てるんだろう?」と問い直した上で、「何かしらストレスがあって、逃げ場として使ってるのかも」と想像したりしてみると、よいかもしれませんなぁ。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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