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なぜ「話し合えばわかる!」はうまくいかないのか?交渉の成功は“最初の切り出し方”で決まるぞ!という話

 

 

「ちゃんと話し合えば、きっとわかり合えるはずだ!」みたいな話は、政治でも夫婦関係でもビジネスでもよく言われるところです。確かに、世の中のイザコザの多くは話し合いが足りないことで起きてたりしますんで、「冷静に何度も話し合えばいいのでは?」と思ってしまうわけです。

 

では、この考え方が正しいのかってことで、新しい研究(R)がそこらへんを調べてて面白いです。

 

まずこの研究の結論から言っちゃうと、

 

  • 限られた資源を分け合う交渉では、信頼があっても最初に失敗するとズルズル悪化しやすい

 

という感じです。「限られた資源」っては、お金、時間、家事負担、会社の予算、休日の使い方など、あらゆるリソースの不足を指します。つまるところ、人間関係のもめごとの多くは「何かが足りない」せいで起きてまして、

 

  • お金が足りない。
  • 時間が足りない。
  • 体力が足りない。
  • 注意が足りない。
  • 相手に譲る余裕が足りない。

 

みたいな感じで、このような「不足感」があると、私たちは急に防衛的になったりするじゃないですか。「自分が損するんじゃないか?」「先に主張しておかないと、相手に全部持っていかれるんじゃないか?」みたいな思考が出てきて、話し合いの場が一気にバトルに変わっちゃうってケースはよくあるでしょう。

 

そこで、今回の研究では「どうすれば話し合いは上手くいくのか?」を調べるために、こんな調査をしております。

 

  1. 参加者たちにペアを組んでもらい、「限られた資源をどう分けるか?」を話し合わせる。

  2. 資源として使われたのは「9種類の果物を収穫する権利」で、それぞれの果物の価値は参加者ごとに異なり、相手には知らされなかった。つまり、自分にとって価値が高い果物と、相手にとって価値が高い果物がズレる可能性がある。

  3. さらに研究チームは、参加者の信頼レベルを操作しており、ある条件では「相互信頼を築くことが大事」と教え、別の条件では「信頼しすぎると損をするかもしれない」と警告した。

 

ここで大事なのは、交渉を「1回きりの話し合い」ではなく、「何度も続く話し合い」として扱っている点であります。現実の交渉が1回で終わるケースはほとんどなくて、

 

  • 夫婦なら、家事分担の話を何度もする。
  • 会社なら、労使交渉や予算配分の話が何週間も続く。
  • 友人関係なら、旅行の行き先や費用負担を何度もすり合わせる。

 

みたいに、話し合いが何度も続くのが普通でしょう。ところが、過去の交渉研究では「1回の話し合いでどう決まるか?」を調べるものが多かったんで、研究チームは、「何度も続く交渉では、信頼がどれぐらい役に立つのか?」を調べたわけです。

 

というと、普通に考えると、信頼があるほうが交渉がうまくいきそうなイメージがあるんですが、実験の結果はそうでもなかったそうで、

 

  • 信頼を高めるような条件を作っても、最初の交渉で非効率な取り合いが始まってしまうと、その後の展開を大きく改善することは難しかった。

 

tって感じだったそうな。つまり、「信頼があれば、何度でも話し合って解決できる」わけではなく、「最初に欲張った要求を出してしまうと、信頼があっても話し合いができなくなる」みたいな感じっすね。

 

これは実生活でもよく見る話で、たとえば夫婦で家事分担を話し合うときに、最初から「あなたは全然やってない」「こっちばかり損してる」「今後は全部これをやって」みたいに切り出すと、相手は即座に防衛モードに入りやすくなるはず。その瞬間から、話し合いの目的は「良い解決策を探すこと」ではなく、「自分の正当性を守ること」に変わっちゃうんですよね。

 

研究チームは、こういう現象を「最初の行動が交渉全体を悪い方向にセットしてしまう」と指摘しておられます。最初にお互いが強い態度に出ると、その後の話し合いはどんどん非効率になり、双方にとって得になる解決策を見つけにくくなるってことですね。

 

じゃあ、どうすればいいのか?ってことで、研究チームが提案しているのが、「情報的協力」という考え方であります。これは、いきなり「自分が何を得るべきか?」を話すのではなく、まずは「なぜそれが欲しいのか?」を共有しようぜ、という考え方でして、たとえば「猫を飼うか?犬を飼うか?」で夫婦がモメていたとして、この交渉を、

 

  • 「私は猫がいい。以上!」
  • 「俺は犬がいい。以上!」

 

みたいにスタートさせると、ただのバトルになりがち。しかし、そこで一歩引いて、

 

  • 「子どものころに飼っていた猫との思い出があって、またあの安心感がほしい」
  • 「最近ちょっと運動不足で、犬と散歩する生活に憧れている」
  • 「家に帰ったときに、生き物が迎えてくれる感じがほしい」
  • 「でも費用や世話の負担が不安」

 

みたいに、お互いの背景情報を出していくと、交渉の構造が変わりまして「お互いにどのようなニーズを満たすか?」を探る調整の場になるわけです。

 

でもって、ニーズ調整の場が生まれる、おのずと解決策も増えるもんでして、

 

  • 今すぐ飼うのではなく、まず保護猫カフェや犬の一時預かりを試す。
  • 半年だけ貯金してから決める。
  • 最初は世話の負担が少ない選択肢を探す。
  • 安心感はペット以外の生活改善で一部満たす。

 

こんな感じで、「どちらが勝つか?」から「何を満たしたいのか?」へ視点が変わるわけですな。これは、対人コミュニケーションにおける基礎とも言える考え方でしょうな。

 

さらに、ここでもうひとつ研究チームが指摘するのが「感情を途中で共有すること」でして、「交渉の途中で自分の感情を非防衛的に伝えることが大事だよー」と言っておられます。これもめっちゃ大事なことで、たとえば、

 

「ちょっと今、自分だけ我慢する流れになっている気がして不安になってる」
「反対されているというより、自分の希望が軽く扱われている感じがして悲しい」
「あなたを責めたいわけじゃないけど、この話をすると少し焦る」

 

みたいな表現で、自分の感情をところどころで相手に伝えるわけです。ポイントは「お前が悪い」と言わないことで、「君はいつも自分勝手だ」ではなく、「いま希望が見えなくなっている感じがして不安だ」みたいに表現してくださいませ。これだけで、相手は攻撃された感覚を持ちにくくなりますんで。つまり、交渉で本当に重要なのは、「正しい主張をすること」ではなく、「交渉がバトルに変わる前に、情報と感情を共有すること」だってことですな。

 

ということで、今回のデータから得られる教訓をまとめると、

 

  • 話し合いは、こじれてから頑張るより、こじれる前の最初の3分を丁寧に扱ったほうがいい!

 

って感じになるでしょう。序盤でこじれると交渉を立て直すのはめっちゃ難しいので、話し合いの冒頭では「なぜ私にとってそれが大事なのか?」と「いま自分はどんな感情になっているのか?」を先に出すのが大事になるわけっすね。逆に言えば、交渉下手な人ほどいきなり結論から入るので、そこは注意したいところです。どうぞよしなにー。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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