大まかな性格テストをするぐらいなら「ニュアンス」を把握したほうが有効じゃない?みたいな研究の話
心理学の世界には「性格は5つ(あるいは6つ)で説明できる!」みたいな考え方がありまして、このブログでもビッグファイブやHEXACOなんてのを紹介したことがありました。ここらへんは非常に信頼がおける性格分類として知られてまして、私も自己分析のためによく使ったりしております。
が、これらの性格テストをした人の中には、「イマイチしっくり来ないなー」と思ったことがある人もいるんじゃないでしょうか? たとえば、ビッグファイブテストで「あなたは外向的です」と言われても、初対面では陽気なんだけど、腹を割って話せるようになるまでに時間がかかるタイプもいるし、 「神経症傾向が高い」と診断された人でも、重要な決定の結果を待つときだけ不安になる人もいるじゃないですか。私たちの行動は環境によってコロコロと変わるものなんで、5つや6つの分類だと納得できないケースも多いんですよ。
そこで、エジンバラ大学のサム・ヘンリー先生らが、「人間の性格は大きな分類で見るよりも、小さな差分(ニュアンス)を見たほうがいいのでは?」という面白い提案(R)をしてくれましたんで、内容をチェックしておきましょう。
ここでヘンリー先生らが指摘するのは、以下のようなことです。
- ビッグファイブ/HEXACOみたいな「性格を大きく分類する」モデルは、研究上の整理にはめちゃ便利で「予測」もしやすい。
- ただし、当然ながら、人間の行動パターンを5〜6個にまとめちゃうのは無理がある。一応、ビッグファイブでも「細かい分類」はあるものの、それでもまだ粗い。
- なので、ビッグファイブのように人間の性格を大きく分類するのではなく、細かい癖(ニュアンス)を大量に見たほうが、その人の行動を当てられるのでは?
要するに「性格を大まかなラベルで把握する」よりも「細かい行動のクセを大量に知っておいたほうが予測精度が上がる」ので、ビッグファイブみたいな分類にこだわる意味はそこまでないんじゃないかって提案であります。
「ニュアンス」と言われてもなんだかわかづらいですけども、ここで研究チームが言っているのは「もっと具体的な行動の傾向」みたいなものです。研究で挙がってた例をいくつか並べてみると、
- 「金に困ったら、盗品を買う誘惑に駆られるかもしれない」
- 「自分はちょっと変わり者(風変わり)だと思う」
- 「重要な決定の結果を待つとき、強い不安を感じる」
- 「初対面では愛想よく振る舞うが、プライベートの話はなかなかしない」
- 「締切が近づくと、普段より神経質になって細部が気になりだす」
- 「曖昧な指示を出されると、すぐ確認したくなって落ち着かない」
- 「相手が困っていると、頼まれてなくても手を出してしまう」
- 「会話で沈黙が続くと、妙に焦って話題を足したくなる」
みたいになります。ご覧のとおり、いずれも日常に根ざした行動のリストになってまして、「この人は誠実性が低い」とか「情緒が不安定だ」みたいに考えるよりも、「その人がどのような人間なのか?」がクリアに浮かぶような気がするわけですな。
そこで研究チームは、世界6カ国から約11,000人の大規模データを使い、HEXACO(割と信頼性が高いとされる性格テスト)の質問項目を項目ごとに分析しました。 具体的には、
- 他者評価の一致:その項目について、評価者同士がどれくらい同じ判断をするか
- 遺伝率:双子データなどで、どれくらい遺伝の影響があるか
- 安定性:2年スパンで順位がどれくらい保たれるか。簡単に言えば、その傾向がどれぐらいブレずに続くかを意味する。
って3つのポイントをチェックしております。簡単にまとめるなら、項目単位で「他人から見てもそう見えるか」「遺伝っぽいか」「時間が経っても残るか」を調べ、そこからニュアンスの信頼性を分析したわけっすね。
で、その結論はシンプルでして、「個々のニュアンスは、どの特性に属するかに関係なく、単体でもそれなりに有用な情報を持ってる」というものだったんだそうな。こちらもより簡単に表現するなら、「大まかな性格のラベルを使うよりもニュアンスを見たほうが、人の行動を予測しやすいことがある」のようになるでしょう。 研究チームいわく、分析の一貫性は「驚くほど」のレベルだったんだそうで、これは使えそうな気がするわけです。
個人的に思うのは、ニュアンスの利点ってのは、たぶん以下の2つになるでしょう。
- 予測が具体的になる:「あの人は外向性が高いから、たぶんこう動くはず」と考えるよりも、「この人は安全圏に入るまで自己開示しない人だ」みたいな考え方のほうが、その人の振る舞いを予測しやすい。まあ、ニュアンスってのが、もともと人間の細かい行動を言語化して切り出したものなので、当然ではありますが。
- 対処が具体的になる:ビッグファイブみたいに大まかな分類だと、どうしても対策がふわっと抽象的になっちゃうけど、ニュアンスを使えば「この人の反応に対して、こちらはどう動くか」を決めやすい。
たとえば、あなたの友人に「仲良くなるまで秘密を話したくない」ってニュアンスを持った人がいるとしましょう。このニュアンスが事前にわかっていれば、この人に対して「出会ってすぐ踏み込んだ質問をするとヤバいな……」って判断がつくじゃないですか。
同じように、別の友人が「聞かれる前に身の上話を全部出す」ってニュアンスを持っているなら、こちらは「情報量が多いこと」自体を前提に接したほうが疲れないはずであります。こういう対策は、ビッグファイブを知っているだけではなかなか立てづらいですからねぇ。
とはいえ、「そうは言っても、相手や自分のニュアンスなんてどうやって知ればいいの?」ってのが気になりますが、とりあえずは個人の性格を大きく分類するのをやめて、行動のクセをログ化するのが良いと思います。 たとえば、
- 自分や相手のニュアンスを知りたい場面を決める:待ち時間、締切前、初対面、飲み会、チャットのやり取り……など、「この人はここでどういう行動を取るのだろう?」と気になるような場面をまずは考えてみる。
- その場面での“反応”を1行で書く:上で決めた場面で、その人や自分がどう反応するか(または、どう反応したか)を記録。「重要連絡を待つと不安で連投する」「初対面は陽気だが距離は詰めない」みたいな感じ。
- それから、記録した反応リストを予測に使う:たとえば、「あの人はここで不安が出やすい」と思ったら、先に手順・期限・次の連絡時刻を提示する、みたいな。
まぁ、こういう作業ってのは、ちょっと仕事ができる人なら言われなくてもやってることだと思いますが、「そこらへんの性格テストよりも使える!」ってのをあらためてデータで示してくれたのはナイスですね。「あの人は協調性が低い」みたいな診断より、「あの人は曖昧な依頼だと怒る」みたいなニュアンスを把握するほうがラクなのは当たり前ですもんね。
もちろん、大きな分類が悪いわけじゃないですが、実務で大事なのは「実際にどうするか?」なので、その意味ではニュアンスのほうが使える場面が増える、ってのが今回の示唆でしょう。いずれにせよ、実生活では「性格特性」より「行動のクセ」をログ化したほうがいいかもですねー。



