腹筋で「腹だけ痩せる」は本当に可能なのか?を掘り下げた研究の結果を見てみよう
「腹の脂肪を落としたいなら腹筋だ!」ってアドバイスはよく耳にするところで、引き締まった腹を作るために日夜シットアップに励んでいる人もおりましょう。
が、少し詳しい方であれば、「腹だけ痩せるなんて無理!脂肪は全身から落ちるんだから、腹筋は腹筋でしかない!」って意見のほうが運動科学の世界では優勢なのをご存じでしょう。事実、いままで「部分痩せ」が確認された例は非常に少なく、いまでは「腹の脂肪を削るために腹筋しましょう」と指導するようなトレーナーさんも、ほぼいなくなったはず(多分)。
ところが、新たにノルウェーの研究者たちが発表した研究(R)では、「いや、やり方によっては、腹の脂肪だけちょっと落ちるかもよ?」という主張をしてまして、これがちょっと興味深かったんで内容を整理してみましょう。
まずは用語のチェックからしておくと、この研究で言う「部分痩せ(spot reduction)」ってのは、「特定の部位の筋肉を使う運動によって、その部位の脂肪が他より多く減る現象」を意味しております。 たとえば「腹筋をたくさんやった人は、全身の体脂肪が同じぐらい減ってても、腹部の脂肪だけはもっと余計に落ちる」みたいな話ですね。
ただし、上述のとおり、過去に行われた多くの研究では、一部にだけ「腕だけ細くなったっぽい」みたいな報告もあったりはしたものの、 全体としては「よくわからんけど部分痩せは無理でしょう」ってのが長年の結論だったわけです。しかし、今回の研究は、「じゃあ、エネルギー消費をなるべく揃えた上で、腹部に寄せたトレーニングをやったらどうなる?」 ってところを、わりとガッツリ掘り下げたんですな。
実験の対象は過体重の男性16名(平均43歳、BMI約30)。研究チームは、参加者を2グループにランダム割り付けして、10週間トレーニングを指示しております。
- 腹部強化グループ(AG): トレッドミル(最大心拍の70%で27分)+ 体幹回旋&腹筋(低負荷で4×4分)を追加。
- コントロール(CG): トレッドミル(最大心拍の70%で45分)のみ。
どちらも運動は週4回を10週間ほど続けてまして、みんなの体脂肪はDEXAで部位ごとにチェック。これに加えて筋力(1RM)や酸素摂取(VO2)もチェックして、「ただ運動量が違うだけ」にならないように工夫をしております。
ちなみに、ここで研究チームは「高負荷の腹筋エクササイズをゴリゴリやる」のではなく、30〜40%1RMの低負荷なエクササイズを指示してます。これはおそらく「腹部に“有酸素運動っぽい”刺激を送り込む」って意図があったんでしょうな。
で、結論がどうだったかと言いますと、 腹部強化グループのほうが「体幹の脂肪」が有意に減ったんだそうな。もうちょい具体的に言うと、
- 体幹脂肪:腹部強化グループは有意に減少、コントロールグループは「体幹脂肪が減ったけど有意ではない」って結果。
- 全体の体脂肪:両グループとも減少していた(差は大きくない)
- 体重:両グループとも減少
- 筋力:体幹回旋や腹筋の1RMは、腹部強化グループが大きく伸びた(これは当たり前)
みたいになってまして、乱暴にまとめると、「全体としてはどっちも痩せたけど、腹を追加で攻めたほうが腹(体幹)の脂肪が落ちやすかった」 ってことになります。この研究を見る限り「部分痩せは存在した!」って結論になるわけですね。
が、個人的には、ここで喜びすぎるのもどうかと思うわけでして、実験を見てみるといくつかのツッコミポイントがあるんですよね。いくつかピックアップすると、
注意点1:腹部グループの時間が長すぎる:腹部強化グループのセッションが1回84分ぐらいになってて、これを現実にできる人は相当レアでしょう。
注意点2:食事がブラックボックス:ここでは参加者による食事記録の詳細がほぼ出てきていないので、腹部グループがたまたま食事を変えてた可能性もゼロじゃないんですよね。 過去の「腹筋やっても腹は落ちません」系研究では食事をちゃんと報告してる例もあるので、 ここはモヤるポイントです。
注意点3:参加者が男性だけ:脂肪分解には性差があり得るので、女性に同じ現象が起きるかは不明だったりします。
注意点4:再現性はまだ不明:「部分痩せ」は過去に結果が割れてきた歴史があるので、1本のRCTだけで決着をつけるのは無理。もっと現実的なプロトコルで追試してもらわないと、なんとも言えない感じがしております。
みたいな感じでして、この報告だけだと何かを言うのは難しいかなー、と。いちおう、この研究チームは、「腹部運動によってその部位の血流やカテコールアミン(アドレナリン系)が増えて、脂肪分解が起きやすくなったのでは?」と推測してるんですが、このへんは「そうかもね」ぐらいの仮説と捉えるのがいいんじゃないでしょうか。 ただ、少なくとも今回のデータは「腹部の運動は腹部の脂肪に何かしら影響する」って可能性を匂わせたところに価値があるんでしょうな。
いずれにせよ、腹の部分痩せを狙って84分×週4のトレーニングをするのはコスパが悪すぎるので、現実には「全身の減量をベースにしつつ、腹への刺激を“上乗せ”する」ぐらいが落としどころになるでしょう。たとえば、
- 週2〜4回、有酸素(または早歩き)を20〜40分
- その後に腹部の“低負荷で息が上がる系”を5〜10分だけ足す
- 種目は「体幹回旋」「クランチ系」「デッドバグ」などでOK
- 負荷は重さよりもテンポと休憩短めで調整(心拍が上がる感じを目安にする)
って感じっすね。これで「腹の脂肪だけ減る」みたいなことはないですが、少なくとも「全身痩せは進めつつ、腹に追加投資する」ぐらいの話にはなるんじゃないかと。あくまで「減量は全身の脂肪を減らすのが基本で、オプションで腹が減ったらいいなー」ぐらいに考えておくのが一番現実的かなーってところです。どうぞよしなに。



