心理学の教科書、普通にそこそこ間違ってない?問題
「心理学の教科書、普通に間違ってない?」というオモシロ研究(R)が出てましたんで、内容をチェックしておきましょう。
この研究がどういうものだったかと言いますと、
- アメリカの大学で心理学を教える教授たちにアンケートを実施し、「入門用教科書で扱いが不十分・不正確だと思うテーマ」を挙げてもらう。
- 上のインタビュー結果から、問題が指摘されやすい11のトピックを選定(スタンフォード監獄実験やキティ・ジェノヴィーズ事件など)。
- 続いて、市販されている心理学の入門教科書(2018年版で16冊)を収集し、上で選んだそれぞれのトピックについて、どのように記述されているかをチェック。独立した2名の研究者が評価を行い、「未掲載」から「偏りのない記述」までの4段階でスコア化。「論争中のテーマが一方的な主張になっていないか?」「歴史的事例では誤情報を事実として扱っていないか?」といった基準をベースに判断を行う。
- さらに同じ手法で2023年版の教科書(18冊)も分析し、5年間で記述の質やバイアスがどう変化したかを比較する。
みたいになります。要するに、心理学の教科書にどれだけ誤解やバイアスが含まれているかをチェックして、時代とともに改善されているのかを検証したわけですね。
なんでこういう調査が行われたかと言いますと、この研究チームは、前から「心理学の教科書って、わりと雑じゃない?」という問題意識を持っていたからだそうです。教科書として売られている本の中には、古い研究結果をそのまま載せていたりするケースもあるし、議論が分かれているテーマを断定的に書いてしまっている部分もあるしで、全体的にアップデートが追いついていないよなーと、昔から思ってたらしいんですな。確かに、教科書が最新の科学を反映していなかったらヤバいですわな。
で、この研究で問題視されたトピックはいくつかあるんですが、特に有名どころを挙げると、こんな感じです。
- スタンフォード監獄実験:学生を看守と囚人に分けたら暴走した、ってやつで。ところが後の検証で、「実験の演出が強すぎたのでは?」という指摘が出ている。
- キティ・ジェノヴィーズ事件:「38人が殺人の現場を見て見ぬふりをした」という話で有名ですが、実際にはかなり誇張されていたことが判明している。
- リトル・アルバート実験:恐怖条件づけの代表例だが、再検証では「そもそも再現性が低い」という問題が指摘されている。
- フィニアス・ゲージのケース:事故に遭った男性の人格が完全に変わった!みたいな話。しかし、実際にはその後普通に働いていた記録が残っている。
- ビデオゲームと暴力性の関係:強い因果関係があるかどうかは研究者の間でも結論が分かれており、一枚岩の見解は存在しない。
- 体罰の効果:短期的には行動を抑制する可能性があるものの、長期的には逆効果になるという研究も多い。
- 進化心理学:魅力的なストーリーが多い一方で、検証が難しく仮説レベルにとどまる説明も多いため、科学的な確実性にはばらつきがある。
- 脳の可塑性(経験によって脳が変わる性質):確かに変化はするものの、その範囲やスピードは誇張されがちで、「何でも変えられる」といった理解は正確ではない。
- ステレオタイプ脅威(偏見による成績低下):再現性の問題が指摘されており、効果の大きさや普遍性については議論が続いている。
いずれの説も、ストーリーとしては面白いんだけど実際はかなり複雑で、しかも研究者の間でも意見が割れているものばかりでして、スパッと断定できるような単純な話ではないわけです。
では、分析の結果がどうだったかを見てみると、
- 全体としては、多くの教科書で重要な論争点が十分に説明されておらず、やや一方的または簡略化された記述が目立った。
- 「2018年版の教科書:16冊」と「2023年版の教科書:18冊」を比べても、ゲーム暴力の影響はより慎重な表現になっていたり、ジェノヴィーズ事件は誤情報が減少するなど改善も見られたが、「体罰の効果」や「脳の可塑性(経験で脳が変わる性質)」については、むしろバイアスが強くなっていた。
ってことで、教科書の記述は多少改善されているものの、いまだに偏りや不正確さが残っているケースが少なくなかったってことですね。よろしくないっすねぇ。
では、なぜこういう誤りが残るのか?と言いますと、研究者たちはこんな指摘をしております。
- ストーリーとして“わかりやすい”説が残る
- 教育用に単純化しすぎている
- 学者間の意見の対立を無視している
要するに、「複雑な現実」より「わかりやすい物語」が優先されてしまうため、教科書レベルでも誤った記述が改善されにくいんだと。これは心理学に限らず、どの分野でもありがちな話ではありますな。
でもって、さらに研究チームが指摘しているのが、「問題のあるトピックは、たんに削除されて終わることが多かった!」ってポイントであります。たとえば、かつては定番として載っていた有名な実験や理論に問題点が指摘された場合に、その検証結果や批判的な議論を追記するのではなく、そもそも記述自体を削ってしまうケースが多かったわけですね。
こういう現象が起きるのには、
- 間違いを修正する → めんどくさい
- 議論を紹介する → 複雑すぎる
- だから削除 → スッキリ!
みたいな流れが想定されてまして、まぁ「臭いものにはフタだ!」ってことですな。いや、確かにめんどいから記述を削っちゃう気持ちもわかるんですが、もともと科学って白黒ハッキリしてるものじゃなくて、専門家同士でも普通に対立するのが当たり前の世界なんだから、両論併記で残せばいいのになーとかは思ったりしますね。知識が修正されていくのが科学の面白さじゃない!ってのもありますし。
なので、ここから教訓を引き出すのであれば、以下の3つが大事になるでしょうね。
- 一つの情報源を信じすぎない:教科書ですら間違うわけなので、複数の視点を持つしかない。
- 「議論があるか?」をチェックする:何かの主張を見たら、「これ反対意見ないの?」と、とりあえず考えてみるクセをつける。
- ストーリーを疑う:人間はストーリーが大好きなので、話がキレイすぎるときほど要注意だと考えておきたい。
どれも当たり前の話ではあるんだけど、何かを学ぶときは「これは確定した事実なのか?それとも仮説なのか?」を少し意識するだけでも情報の見え方がだいぶ変わってくるだろうなぁ、と思った次第です。


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