かの有名な「マシュマロテスト」は間違っていた!という衝撃すぎる研究が出てた件
まさかマシュマロテストに物言いが……
超有名な心理実験といえば「マシュマロテスト」。ざっくり言えば、「子供のころに目の前の誘惑に打ち勝つ能力が強かった人は、20年後に人生で成功してる確率が高かったよ!」みたいな研究で、心理学の教科書にも掲載されるレベルの著名な実験だったりします。
さらにくわしくは「マシュマロを制する者は人生を制す」を読んでいただければと思いますが、要は「ガマンは成功の素!」って話でして、心理学の世界ではかなーり確立された考え方であります。
……だったんだけど、近ごろ行われた追試(1)では、「おい!マシュマロテストの結果が再現できなかったぞ!」って結果になってて激しくビビりました。パワーポーズやグリットに続いて、マシュマロテストまでこんなことになるとは……。
マシュマロテストでは子どもの成功を正しく測れなかった
これは、ニューヨーク大学とカリフォルニア大学の共同研究で、以下のような感じになっております。
- 参加者は910人の子供(オリジナルの実験は90人)
- 子どもたちに「マシュマロを7分ガマンできたらもう一個あげるよ」と伝える(オリジナル実験は15分)
- 子どもたちが大人になってどうなったかをチェックする
オリジナルとは微妙な違いはありますが、なにせオリジナルよりも人数が多いのが強みっすねー。
でもって、まず大きな結果から言うと、
- マシュマロを7分より多く待てた子どもは、成長してから学校の成績がよく、数学の能力も高い傾向があった!
だったそうです。ここだけ見ると「ん?やっぱマシュマロテストは正しいんじゃないの?」って気になるわけですが、いっぽうでは、
- 両親の教育レベルと経済状況を組み込むとマシュマロテストの効果が消える!
って結果も出てるのがおもしろいところなんですな。どういうことかと言いますと、
- 金持ちで学歴がある家庭で育った子どもほど、目の前の欲望に強い
- 貧しくて両親が大学を出てない家で育った子どもは、目の前の欲望に弱い
みたいなことです。要するに、本当に大事なのは「ガマンできる能力」じゃなくて、たんに「良い家庭」で育った子どもは成功しやすいってだけの話なんじゃないか?って説が出てきたわけですな。
結局、大事なのは家庭環境なのか?
研究者いわく、
子供の生活背景と環境を考慮に入れれば、「目先の喜びを遅らせられるかどうか?」は、必ずしも人生に意味がある違いをもたらすわけでではない。
たとえば、あなたに2人の子どもがいたとしよう。どちらの子どもも同じ背景で育ち、同じような育て方をされ、人種も性別も家庭環境もまったく同じだし、認知機能にも変わりがない。ここで、片方の子どもだけが目先の欲望に強く、もう一人は弱かった場合、この違いが大きな差がをもたらすのだろうか? おそらく答えはノーだ。
確かに、行動経済学の研究でも「貧しい状況では認知機能が下がる」なんて結果が出てまして、環境がヒトの能力に影響をあたえてるのは間違いなさげ。結局、環境が大事なんじゃないの?って考え方には一理があるんじゃないかと思う次第です。
もっとも、個人的には、今回の結果はパワーポーズやグリットほど傷は深くないなーとも感じております。というのも、セルフコントロール能力の重要さを示すデータはマシュマロテストだけじゃありませんで、
- 数万人レベルの計量経済学のデータでは「誠実さ(勤勉さ、忍耐、自制心などを表す指標)が高い人ほど収入も多い!」って結論
- 心理統計でも「誠実な子どもは犯罪歴が低く、長生きの可能性も高い」って結論がやたらと多い
なんて知見が山ほどあるんですよね。もちろん多くのデータは家族の収入や両親の学歴なんかも調整されてて、やっぱ「目の前の欲望に打ち勝つ能力」が大事って考え方は動かないように思うわけです。
では、本当に大事なポイントはなんなのか?
では、なんでこのような食い違いが出たのかと言いますと、
- そもそも「セルフコントロール能力ってなんなの?」ってとこが統一されてなくないすか?
って気がするんすよね。というのも、マシュマロテストで測ってる能力って基本的には、
- いかに嫌なことを耐えられるか?
の能力なんですよ。基本的には、不快感をぐっとこらえられる能力を測ってるわけっすな。
ところが近年のセルフコントロール研究を見てますと、
って考え方が主流になりつつあるんですね。つまり、目先の欲望をガマンできる人ってのは他人より忍耐力があるわけではなくて、
- 誘惑が多い環境に身を置かない能力が高い
- 嫌なことにポジティブな側面を見いだすのがうまい
ってことなのではないか?ってのが近年の流れかと思います。
その意味では、以前に「意志力とは◯◯の問題である」で書いたことと同じ結論になりまして、
- セルフコントロール能力は正しい戦略を立てられるかどうかの問題である(だから不快感への抵抗力を見てもしょうがない)
みたいなところに落ち着くのではないかと。要するに、持ち前のガマン能力よりも、事前に誘惑を避けるためのプランニング能力のほうが大事って話です。
つまり以上の話をまとめると、
- マシュマロテストで人生が成功するかどうかを判断するのは難しい
- 意志力とかセルフコントロール能力よりも、「計画力」にフォーカスしたほうがメリットは多そう
って感じになるのかなーと思っております。にしても、ここ数年の心理学界は激動してますなぁ。