その考えは事実? 自分の思い込みを見直す4ステップはこれだ!という本を読んだ話
『インナー・プロパガンダ(Inner Propaganda: Leading Hearts and Minds Through Turbulent Times)』って本を読みました。著者のオーウェン・フィッツパトリックさんは、社会心理学や行動変容を専門にする講演家で、これまで北朝鮮、アフガニスタン、ルワンダ、イランなど、100カ国以上を訪れながら、説得やプロパガンダの仕組みを調べてきた人なんだそうな。
で、本書は「私たちは現実をそのまま見ているのではなく、自分の脳が作った物語を現実だと思い込んでいるんじゃないか?」って問題を扱った一冊になっております。ここで著者が注目するのが「インナー・プロパガンダ」って考え方で、日本語にするなら「脳内プロパガンダ」って感じっすね。
この考え方がどういうものかと言いますと、私たちの脳は、外の世界を客観的に見ているわけではなく、
- 自分の信念に合う情報を選ぶ
- 都合の悪い事実を目立たなくする
- 過去の出来事に意味を与える
- 感情に合った物語を作る
- その物語を何度も頭のなかで放送する
といったように、無意識のうちに自分にとって都合がよいように、自分が見ている現実を編集しているわけですな。
なので、こうして脳が作られた物語に対して、「いま自分の頭では、どのようなストーリーが放送されているのか?」と考えられるようになれば、役に立たない信念を見直し、自分や他人の心をうまく動かせるんじゃないの?ってのが本書の主張になっております。だいぶ認知行動療法っぽい考え方ですね。
というわけで、今回も本書から勉強になったところをチェックしてみましょうー。
本書の基本的なメッセージは、「自分の思考は脳が編集した物語であり、現実を反映していないことを忘れるな!」というものである。
私たちは、自分の頭に浮かんだ考えを、簡単に事実として扱ってしまう。「あの人は自分を嫌っている」「この失敗でもう終わりだ」「自分は人付き合いが苦手だ」「世の中はどんどん悪くなっている」といった具合である。しかし、これらの考えには、観察可能な事実だけでなく、過去の経験、現在の感情、所属集団の価値観、将来への不安などが混ざっている。脳が外の世界から必要な材料を選び、それらをひとつの筋が通った物語に編集している。
著者は、このような物語を作る心の働きを「内なる独裁者」と呼ぶ。これは、自分の頭のなかに独裁者がいて、専属の報道機関を使いながら、都合のいいニュースを24時間流しているようなイメージである。
たとえば、「自分は誰からも好かれない」と信じている人は、他人に拒絶された体験を強く記憶する一方で、親切にされた経験については、「相手が社交辞令でやっただけだ」と処理しやすい。同じように、「世の中は危険だ」と信じていれば、犯罪や事故のニュースばかりが目に入り、何も起きなかった普通の一日は記憶に残らない。このように、脳内プロパガンダは、存在しない事実を作り出すだけでなく、事実の選び方と解釈を変えてしまう。
著者自身も、14歳のころに長年のいじめで追い詰められた経験がある。そのころ、頭のなかでは、「自分は拒絶された人間だ」「自分はひとりだ」「この苦しみは永遠に終わらない」といった物語が、疑いようのない現実として認識されていたとのこと。
ところが、両親への遺書を書いていた際、「両親を愛しているなら、本当にこれが愛なのか?」という疑問が浮かんだ。この問いをきっかけに、それまで絶対的だった物語に亀裂が入り、「死んだほうがいい」という声と「生きるべきだ」という声が争い始め、最終的には後者が勝った。
このエピソードから著者が強調するのは、強く落ち込んだ人が、単にネガティブな考えを選んでいるわけではない点である。本人にとっては、ネガティブな物語が現実そのものとして感じられている。
そのため、脳内プロパガンダから距離を取る最初のステップは、無理にポジティブになることではない。まずは、「これは現実そのものではなく、いまの脳が信じている物語かもしれない」と気づくことが重要となる。
この点を説明するために、本書では、第二次世界大戦で活躍したフアン・プホル・ガルシアという二重スパイを紹介している。この人物は、「ガルボ」と呼ばれた有名なスパイで、ナチス・ドイツから鉄十字勲章を授与されるほど信用されていた人物である。
ドイツ側は、ガルボがイギリス各地に27人の部下を抱え、大量の機密情報を集めていると信じていた。しかし、実際には部下などひとりも存在せず、ガルボは新聞、旅行案内、自分の想像力などを使って、架空の報告を作り続けていた。ノルマンディー上陸作戦の際にも、ガルボは「本当の上陸地点は別にある」という情報をドイツ側に信じ込ませ、ドイツ軍の判断を狂わせることに成功した。
ガルボが信用されたのは、彼の情報がすべて精密だったからではない。彼が、ドイツ側の予想や願望に合う物語を提供したからである。人は、自分の予想に反する怪しい話よりも、自分がすでに信じていることに合う話を簡単に受け入れてしまう。
これは、私たちが自分の脳にだまされる仕組みと同じである。脳が作る物語は、自分の過去の経験や価値観と一致しているため、外部から与えられた怪しい情報よりもはるかに信用しやすい。
そのため、本当に点検すべきなのは、「そんなの当たり前だ」「自分がこういう人間なのは明らかだ」「誰が見てもそう思うはずだ」といったような、自分にとって心地よく信じられる考えのほうである。
では、そもそも人間の信念は、どのように作られるのか。私たちは、証拠を集め、論理的に検討し、そのうえで結論を出しているつもりでいる。しかし著者によれば、信念が定着するまでには、だいたい次の3段階を通る。
まず、その考えが感覚的に「正しい」と感じられる。次に、その考えが、自分らしさや所属集団の価値観に合っているかを確認する。最後に、その考えを正当化するための理屈を組み立てる。
ざっくり言えば、私たちは、感じて、所属を確認し、最後に理屈をつけるというステップで、独自の物語を生み出す。
たとえば、会社が「これからAIを積極的に導入します!」と発表したとする。そこで経営陣が、生産性の向上やコスト削減を示すデータを大量に見せても、社員が納得するとは限らない。
なぜなら、社員の頭では、「自分の仕事がなくなるのではないか」「これまで身につけた技術が無価値になるのではないか」「AIを使いこなせなければ、自分の評価が下がるのではないか」といった感情が先に動いているからである。
この状態でデータだけを提示しても、「会社は都合のいい数字で自分たちを説得しようとしている!」と思われる可能性が高い。その情報を受け入れたときに生じる感情的なコストが処理されていないからである。
これは「人を説得するには感情に訴えろ!」という話ではない。事実や論理はもちろん必要だが、人の信念は論理だけで作られていないため、論理だけでは変わりにくいという話である。
相手の考えを変えたいなら、まず「この考えを受け入れたら、自分はどんな人間になってしまうのか?」「自分の仲間からどう見られるのか?」「何を失うように感じるのか?」といった問題にも目を向ける必要がある。正しい情報を伝えるためには、その情報を受け入れられる状態を作らねばならない。
本書では、人が「真実」として体験するものを、5つのタイプに分けている。
1.客観的真実:証拠によって確認できる事実のこと。
2.感情的真実:本人がそう感じていること。
3.願望的真実:本人がそうであってほしいこと。
4.集団的真実:所属する集団が正しいと考えていること。
5.過去の真実:本人の記憶のなかで事実になっていること。
現実について判断する際には、1の客観的な真実を優先すべきなのは言うまでもないが、人間は客観的真実だけを真実として体験しているわけではない。「自分は軽く扱われた」と感じている人に対して、「客観的には失礼な発言ではない」と説明しても、それだけでは何にもならない。本人のなかでは、「軽く扱われた」という体験もまた、現実の一部だからである。- そのため、意見が対立したときに重要なのは、「いま何が争われているのか?」を見分けることである。いま自分は客観的な事実について争っているのか、相手の感情について争っているのか、所属集団の価値観がぶつかっているのか、それとも過去の記憶が食い違っているのか、などをまずはチェックせねばならない。
ここを区別せずに話し合うと、一方はデータを示し、もう一方は「自分の気持ちを無視された」と反発する。一方は過去の記憶を語り、もう一方は客観的な記録で反論する。このように、別の種類の真実について話しているため、議論がいつまでもかみ合わなくなる。
このように信念が作られる仕組みを理解し、まず自分の心と頭を調整し、そのうえで他人の心にも働きかけられる人を、著者は「ビリーフ・リーダー」と呼ぶ。
- そこで、本書が提案するのが「信念の監査」という手法である。これを実践するためには、もし自分が何かの考えに強く支配されていると感じたら、次の4つを自問してみるのが基本である。
1.自分はいま何を信じているのか?
2.その信念によって、自分は何を達成しようとしているのか?
3.その信念は、本当に目的の達成に役立っているか?
4.代わりに、どんな信念を持てば、もっと役に立つだろうか?
たとえば、「失敗したらすべて終わりだ」と信じている人がいたとする。この信念の目的は、恥をかいたり、損をしたりしないように、自分を危険から守ることだと言える。
しかし、その結果としてあらゆる挑戦を避け、必要な経験まで失っているなら、その信念は本来の目的に役立っていない。自分を守るための考えが、自分の行動範囲を狭める原因になっているのだと言える。
このようなケースでは、「失敗しても終わりではない」「小さく試せば、損失を抑えながら学べる」「不安を感じることと、実際に危険であることは別だ」といった、より役に立つ信念を探していくのが重要となる。
ここで大事なのは、「自分なら絶対に成功する!」などと、無理にポジティブに考えようとしないことである。必要なのは、以前の信念よりも証拠に合っていて、なおかつ自分の目的や行動を助ける物語を選ぶこと。「絶対に成功する」ではなく、「失敗する可能性はあるが、小さく試すことはできる」ぐらいのほうが、現実的で役に立つケースは多い。
とにかく大事なのは、「この考えは正しいか?」だけでなく、「この考えは、どのような情報を強調しているのか?」「どんな事実を小さく扱っているのか?」「自分はこの物語によって何を守ろうとしているのか?」と問い直すことで、脳内プロパガンダの影響は少しずつ弱くなる。
ということで、今回は『インナー・プロパガンダ』って本の話でした。認知バイアスや説得について扱った本はいろいろありますけど、「自分の脳内に専属の独裁者と報道機関がいる!」という比喩でまとめてるのがおもしろいですね。頭に浮かんだ物語を絶対的な現実だと思わず、「いま、自分の脳はどんなニュースを流しているんだろう?」と考えてみるのはめっちゃ大事なスキルですんで、心がけておきたいところですねー。



.jpg)
