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現代人の道徳心は死につつある? はぁ? なに言ってるの? というデータの話

 

 

SNSを見ればみんな自己中なことばっか言ってるし、ニュースではヤバい事件ばかり流れるし、国内でも不平等やヘイトクライムは多いし、現代人の道徳心は死につつあるのだ!

 

 

……みたいな主張を聞くことも多い昨今ですが、直近のメタ分析(R)では、

 

  • 現代人の道徳心がなくなってる? はぁ? 証拠ないでしょ?

 

って結論になってて、激しく共感させられました。似たような議論は「21世紀の啓蒙」でもおなじみですけど、こちらはさらに広範なデータを扱っていて良い感じです。

 

 

これは「明日の幸せを科学する」で有名なダニエル・ギルバート先生などの研究で、チームはこんなことを言っておられます。

 

世界中の人々は道徳が衰退したと信じている。研究者たちが道徳について調べたところ、誰もが一貫してを道徳の衰退を信じ続けてきた。

 

道徳の調査ってのは、日本をふくむ世界の国で行われており、大半の人が「世の中は悪くなっている!みんな悪い人間になっている!」と思いがちなんだ、と。これはSNSを見ていても感じる現象ですね。

 

 

しかし、このような感覚がデータでも支持されるかと言えば、それはまた別の話だったりします。さらにチームいわく、

 

現代人は「いま起きている不快な出来事は、すべてが近年に出てきたものだという強い感覚を持っている。

 

しかし、それは幻想だ。「間違いなく道徳は低下している」と感じられたとしても、それが事実だという証拠にはならない。

 

とのことで、みんなの感覚と現実には大きな違いがあるんだって話ですね。

 

 

では、具体的にチームがどんな研究をしたのかと言いますと、以下のような感じです。

 

  1. ギャラップ、エコノミストやウォール・ストリート・ジャーナルなどの出版物を含む主要な調査からの70年分のデータを調べ、約22万人のアメリカ人の道徳観を調べる。

  2. 日本をふくむ世界の59か国でも調査を行い、みんなの道徳観をチェック。

  3. さらに、1965年から2020年までの他の調査データを調べ、450万人分の回答を分析したうえで、みなの道徳心の変化を調べる。

 

世界中から大量のデータをまとめて、みんなの道徳の認識と、道徳心の変化をチェックしたわけですね。

 

 

すると、結果はこんな感じになりました。

 

  • 質問の約84パーセントで、アメリカ人の大多数が「人間の道徳心はどんどん低下している」と回答した。

 

  • 世界の人たちを対象にした試験でも、ほとんどの人は「みんな道徳的じゃなくなってるよねー」と回答した。

 

  • ただし、実際の道徳心の評価は安定しており、道徳心が下っていることを裏づける証拠はほとんどなかった

 

ってことで、世界中の人は「道徳はめちゃくちゃ悪化している!」と思っているけど、実際にはみんなの道徳心はずっと一定のレベルをキープしてたらしい。これは、昔からいろんな識者が言ってきたことではありますが、あらためて膨大なデータで認められた感じですね。

 

 

研究チームいわく、

 

2000年以上も前のローマの歴史家リウィウスは、「道徳の衰退は道徳の基礎の低下から始まり、そこから最終的な崩壊へと進み、最後には、不道徳に耐えることも、それを正すこともできない、現代の暗い夜明けをまねいた」と嘆いた。

 

とのことで、「いまの人は道徳がない!」と思うのは、もはや人間の基本的な心理のメカニズムなのかもですね。

 

 

このような錯覚が起きる理由はいくつも考えられますが、研究チームは、以下の推測をしておられます。

 

  • 研究によると、人間は、眼の前のネガティブな情報に対しては強烈に記憶に残す傾向を持っている。そのため、現在に近い時代ほど、ネガティブな印象が残りやすい。

 

  • 一方で、ネガティブな記憶は、長期的にはポジティブな記憶よりも消えやすい傾向がある。そのため、時間がたつにつれて過去の嫌な記憶は薄れ、昔のほうがバラ色の時代だったかのような錯覚が生まれる。

 

ヒトの脳は、ネガティブとポジティブな記憶を異なる方法で処理するので、おかげで過去ほど美化されやすいんだってことですね。これは非常に納得できる話で、私も「昭和30年代は人情があって……」みたいな話を聞くと、「あの時代が、どれだけ凶悪犯罪率が高かったと思ってるんだ!」と思うことがしばしばであります。

 

 

ちなみに、この錯覚を軽減する方法もありまして、研究チームは「自分の生活で出会った人を振り返って、みんなの道徳レベルを考えてみるといいよー」とのこと。確かに、実際に世間で出会う人たちって、そんなに悪い人であるケースってほとんどないので、あらためて考え直すことで、ある程度の解毒剤になるかもですな。

 

 

さらに余談ですが、今回のデータのような「みんな現代は最悪だとか言うけど、実際には良くなってるよ!」ってテーマを扱った書籍には、以下のようなものがあります。

 

 

どれもデータにもとづいて、「現代は本当に悪くなってるのか?」を検証してますんで、未来に絶望している方はお読みいただくといいんじゃないでしょうか。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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