「怒りをコントロールする方法のベストはなにか?」を調べたメタ分析の話
「怒りをコントロールする方法のベストはなにか?」ってのを調べたメタ分析(R)が出ておりました。怒りを抑えるためには、深呼吸をしたり、運動をしてみたりと、いろんな手法が考えられるわけですが、そのなかで本当に効くものはどれなのかって問題ですね。
これはオハイオ州立大学などの研究で、10,189人の参加者を含む154の研究をまとめたメタ分析になっております。ここで何を調べたのかと言いますと、
- 覚醒を減少させたり増加させたりする活動は、怒りや攻撃の感情にどんな影響があるのか?
ってポイントです。「覚醒」ってのは、私たちの身体がどれだけ活性化しているかを示す指標出、覚醒が高い状態にあると、心拍数、血圧、呼吸数、汗腺の活動などが上がるわけですね。
なぜこの研究で「覚醒」に焦点を当てたのかと言うと、そもそも「怒り」を含むすべての感情は、「生理的な覚醒」と「認知的な解釈」の2つから構成されるからです。例えば、
- 生理的な覚醒: 交通渋滞に巻き込まれて心拍数が上昇し、呼吸が速く浅くなり、体が緊張状態になる。
- 認知的な解釈: 「渋滞が起こったのはあのドライバーの運転が下手だからだ!」と解釈することで、自分の時間が無駄にされていると感じ、それが怒りやイライラへとつながる。
みたいな感じですね。このように、1つの出来事に対して、体の反応(生理的な覚醒)と、その状況をどう評価するか(認知的な解釈)って2つが、怒りの発生に大きく関わっているんですよ。
でもって、過去のメタ分析では、「認知的な解釈を変える方法」に焦点が当てられてまして、実際に「認知行動療法は怒りのコントロールに効く!」って結論が出てたんですよ。ここらへんの手法に興味がある方は、「悩み・不安・怒りを小さくするレッスン」「Shrink~精神科医ヨワイ~ 11」あたりが良い入門書になるでしょう。
ただし、その一方で「生理的な覚醒」の調査は手薄でして、身体の反応をどうやって変えれば「怒り」がおさまるのかはわかってなかったんですよ。そこで今回の研究は、身体反応に焦点を当てたわけです。
で、大量の分析を行った結果として何がわかったかと言いますと、ざっくり以下のようになります。
- 覚醒レベルを上げる活動は、どんなものでも怒りと攻撃性をブーストさせる。そのため、枕に向かって叫んだり、パンチングバッグを叩いたり、ジョギング、サイクリング、水泳などは、怒りを悪化させるだけで役に立たない。
- 逆に覚醒レベルを下げる活動は、どんなものでも怒りと攻撃性を低下させる。例えば、深呼吸、マインドフルネス、瞑想、ヨガ、漸進的筋弛緩法など。
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上記の傾向は、どんな人にでも当てはまった。具体例には、学生、社会人、犯罪者、男女、人種、年齢、国などに関わらず、覚醒度と怒りの関係が確認された。
ってことで、怒りの感情に飲み込まれた時は、「とにかく身体の覚醒度を下げよ!」ってのが正解になるっぽい。一方で、ジョギングやスポーツなどは、ストレス解消法としては意味があるものの、こと「怒りの解消」については逆効果になっちゃうみたいですね。運動が逆効果ってのはちょっと意外でしたが、「身体を覚醒させるから良くない!」と言われれば、確かにそのとおりですね。
研究チームいわく、
ジョギングはストレス解消法として人気だが、われわれが調べた研究では、逆に怒りを増大させる作用があった。ジョギングの反復的な性質が、単調さやフラストレーションの感情を誘発し、怒りを和らげるどころか悪化させる可能性がある。
逆に、球技のように集団で行うスポーツに参加した場合、被験者の怒りは減少した。おそらく、これらは集団活動によって遊び心が刺激され、ポジティブな感情を呼び起こすからだろう。
また、それと同時に、怒りを表に出した場合も、その後で怒りや攻撃性は増した。この研究は、「怒りは吐き出すべきだ」「怒りは発散すべきだ」といった俗説を払拭するのに役立つだろう。怒りを抑えるには、覚醒レベルを低下させるような活動をした方がいい。
とのこと。覚醒度を高めるような運動はだいたい効果がなく、なかでもジョギングのように単調なエクササイズほど、怒りが増大しやすいらしい。他方で、みんなで楽しめるようなものであれば、運動でも「怒り」を下げる働きがあるらしい。身体活動を行うときは、遊びの要素を取り入れれば、少なくともポジティブな感情が増大するおかげで、ネガティブな感情を打ち消したりできる可能性があるってことですな。
ちなみに、この研究で「怒りを抑える効果が高い!」と結論づけられたのは、深呼吸、リラクゼーション、マインドフルネス瞑想、スローフローヨガ、漸進的筋弛緩法、横隔膜呼吸など。とにかく身体の覚醒を抑えられれば、なんでも良いみたいですね。個人的には、漸進的筋弛緩法を練習しとくと、いろいろな場面で使えて良い気がしてますが。