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人はなぜ“私も誘って!”と言えないのか?の科学

 

友人が「今度映画に行くんだよ」とか「週末に友だちとカフェ行こうかと」と言ってるのを聞いて、「あ、それいいな…」と思ったが口に出せなかった――。そんな経験がある人は少なくないはず。私も同じタイプで「急に言ったら迷惑かな?」「誘われてないってことは、あまり来てほしくないのかも」とか、いろいろ考えちゃうんですよね。

 

で、最近の研究(R)は、この心理を掘り下げていて面白かったです。この研究を行ったのは、ウェストバージニア大学などのチームで、「なぜ多くの人が、友人のイベントに自分から参加を申し出ないのか?」って疑問を調べたものです。

 

具体的には、8つの実験を行って数千人の参加者を検証してまして、たとえば実験のひとつでは、参加者を以下の2つの立場に分けたんだそうな。

 

  1. セルフ・インバイター:友人のイベントに「自分も行っていい?」と言い出す側の人
  2. プランホルダー:イベントの予定を立てた側の人

 

そして、みんなに複数のシチュエーションを想像してもらったらしい。

 

  • 友人が「今週末、○○さんと映画に行く予定なんだ」と話してきた
  • 同僚が「今度○○公園にピクニックに行くんだ」と言ってきた
  • 知人が週末に誰かとご飯に行く話をしていたが、特に自分は誘われていない

 

そのうえで、セルフ・インバイターには「あなたはこの状況で“自分も行っていい?”と切り出しますか?」と質問し、プランホルダーには「この友人から“行ってもいい?”と聞かれたら、どう感じますか?」と質問しまして、どのような違いが出るのかを調べたんだそうな。

 

すると、セルフ・インバイターとプランホルダーには大きな認識の違いが見られまして、

 

  • セルフ・インバイターの59%しか、「自分も行きたいと伝える」と答えなかった
  • 一方で、プランホルダーの92%は、「言ってくれたら歓迎する」と回答した

 

って感じだったらしい。要するに、みんな「自分も誘って!」とは言わないが、相手から「自分も誘って!」と言われたら、こころよく受け入れるわけですな。30ポイント以上のギャップってのは、かなりの大きさですな。

 

さらに、参加者に「なぜ自分も行きたいと言えなかったのか?」と尋ねたところ、みんな以下のような思い込みを持ってたらしい。

 

  • 「きっとあの人は、自分のことを誘うかどうか考えて、あえて誘わなかったんだ」
  • 「それってつまり、自分とは行きたくないってことだよね……?」

 

たしかに、このような思い込みはよくあるもんで、私も同じようなことを考えることはよくあります。実際は、相手は「そもそも他の人を誘うこと自体、考えてなかった」ってケースが多いのに、勝手に「自分を誘う気はないんだな」とか思っちゃうんですよね。

 

では、なぜ人は勝手に『相手から“拒絶”された!』と感じてしまうのかってことですが、このような誤解の背景には、いくつかの心理的バイアスが関係しております。

 

  1.  エゴセントリズム(自己中心的認知):私たちは、自分が思っているよりも、「相手は私のことを考えているだろう」と思い込みがち。心理学では「スポットライト効果」と呼ばれる現象で、たとえば、自分が何かミスをすると「周りは絶対気づいてるに違いない…」と思いやすいんだけど、実際は誰も気にしていないみたいな状態が典型っすね。今回の実験でも、「相手が自分をわざと誘わなかった」と思い込むのは、相手が自分のことをよく考えているだろうにと過信しているからであります。


  2.  拒絶感受性:過去に嫌な体験をしたせいで、「断られるのが怖い」「嫌われるのが怖い」といった感覚が強まるのもよくある話。こうした人は、相手の“沈黙”すら拒絶と受け取ってしまう傾向がありまして、「どうせ自分なんて誘われないし…」という諦めや、「空気を壊したら悪いし…」という過剰な遠慮が出ちゃうわけですな。

 

どちらも「よくある心理だなー」って感じですけども、今回の実験では、ほとんどの人は「誘ってほしかった」と考えてたんで、このバイアスを認識するのが改善の第一歩になるでしょうな。

 

今回のデータを見てみると、上記のギャップを乗り越えるためには、以下のようなことを心がけると良さそうであります。

 

  • 小さな一言から始める:相手から拒絶されたと思っても、「え、面白そう」「もし空きがあったら自分も行っていい?」みたいに、軽いノリで言葉に出してみることから始めてみるのがよさげ。

 

  • 拒絶を“個人的な否定”と結びつけない:仮に断られたとしても、それは「あなたが嫌われているから」ではなく、「人数の都合」「タイミング」「予算」など、別の要因が絡んでいる可能性が大。自分自身の価値を否定されたわけではない!と頭の中で唱えて、できるだけフラットに受け止めるのが吉であります。

 

  • 「他人は意外と自分を気にしていない」のを思い出す:私たちはエゴセントリズムで行動しがちなんだけど、実際は他人も自分のことで精一杯なのは同じこと。だからこそ、「思い切って聞いてみる」って行動だけで、関係がぐっと良くなることも多かったりするんですな。

 

ちなみに、今回のデータ以外でも、「私たちは相手の好意を低く見積もりがちだ!」って報告はよく出てますんで、これは人間によくあるバイアスなんでしょうなぁ。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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