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スポーツや楽器の練習前には「20分の有酸素運動」をしたほうがいいんじゃないでしょうか説

 

運動をすると、体力がついたり、筋肉が増えたりするだけでなく、脳の働きにもよい影響が出る!ってのは、皆さまご存じのとおり。運動によって集中力が上がったり、気分が改善したりする可能性は、さまざまな研究で指摘されております。

 

で、新しい実験(R)では、運動によって「体の動かし方を無意識に調整する能力」も改善するのかってとこを調べていて、なかなかフレッシュな内容になっておりました。

 

この能力ってのは、たとえば「パソコンのマウスを買い替えたら、やたら高感度だった!」みたいな場面があったとしましょう。このような場合、たいていの人は、

 

  1. 最初はマウスのカーソルを動かしすぎて、「あれ? 行きすぎた!」となる
  2. しかし、何度か操作するうちに、自然とちょうどいい位置に動かせるようになる

 

みたいな現象が起きるじゃないですか。このときに脳内で起きているのが、「自分が予想した動き」と「実際に起きた動き」のズレを修正する作業です。こうした調整能力は「感覚運動適応」と呼ばれ、スポーツ、楽器演奏、リハビリなど、さまざまな動作の習得に関わってくる大事な能力なんですよ。もしこの能力が低かったら、道具を変えたり、いつもと違う環境で体を動かしたりするたびに、動作のズレをなかなか修正できず、いつまでも同じミスを繰り返すことになりかねないんですな。

 

そこでこの研究では、

 

短時間の有酸素運動は、脳が無意識に体の動きを調整する能力にも影響するのか?

 

という疑問を調べていて、「脳が自動で行う学習の変化」に注目したのがポイントであります。

 

この実験は、シェルブルック大学などの研究チームが、平均年齢約25歳の健康な男女26人を対象に行ったもの。実験では、参加者に別々の日に以下の2パターンを試してもらったんだそうな。

 

  1. 運動条件:中強度のエアロバイクを20分間こぐ
  2. 休憩条件:ドキュメンタリーを見ながら休む

 

運動の強度は、最大心拍数の65〜75%に設定してまして、これはゼーゼー息が上がる全力運動というより、心拍数がしっかり上がる程度の有酸素運動だとお考えください。

 

で、その前後には、参加者にちょっと特殊な課題をやってもらってまして、

 

  1. 参加者は自分の手が見えない状態で、画面上のカーソルをターゲットに向かって動かす。
  2. このカーソル、基本的には手を動かした方向に進むが、ときどきカーソルの動きが、実際の手の動きから左右に30度ずれるよう設定されている。

 

みたいになっております。つまり、まっすぐ手を伸ばしたつもりでも、カーソルだけ斜めに動いてしまうように設定したんですな。

 

ここで研究チームは、「カーソルがずれても気にせず、毎回まっすぐターゲットを狙ってください」と指示。意識して狙いを修正するのではなく、脳が勝手に行う調整だけを調べようとしたわけです。

 

では、結果です。まず、休憩した日の結果は以下のようになりました。

 

  • 休憩前の無意識の修正量:平均2.93度。
  • 休憩後の無意識の修正量:平均2.20度。

 

ってことで、休憩をはさんだあとは、脳が動作のズレに自動で反応する度合いが、約25%も下がっていたことになります。

 

一方、エアロバイクをこいだ日は、

 

  • 運動前の無意識の修正量:平均2.45度。
  • 運動後の無意識の修正量:平均2.40度。

 

こちらは、運動の前後でほとんど変化なしって結果っすね。休憩した日には発生してた「無意識の調整能力の低下」が、20分間の有酸素運動をはさむことで抑えられたってことですな。

 

さらに、画面のターゲットに反応してから手を動かし終えるまでの時間にも変化がありまして、

 

  • 運動前:平均555ミリ秒。
  • 運動後:平均532ミリ秒。

 

という結果だったそうな。動作全体のスピードは、運動後に約4%速くなってますね。この結果からすると、軽く体を動かして心拍数を上げておくと、脳が動きのズレを処理する仕組みが鈍りにくくなるのかもですな。

 

まぁ、この結果の数字だけ見ると、能力が向上したとまでは言えないし、なんせ小規模な実験なのがアレですけども、スポーツや楽器の練習前に軽い有酸素運動を入れる価値はあるかもしれませんな。

 

こいつを日常で試すなら、

 

  • 楽器の練習前に、20分ほど速歩きする。

  • スポーツの技術練習の前に、軽く自転車をこぐ。

  • ダンスや細かい動作の練習前に、中強度の有酸素運動を入れる。

 

といった方法が考えられるでしょう。それ以外に、もっと日常的な事例も考えるとするならば、

 

  • 新しいスマホやキーボードに替えたとき、文字入力の感覚に早く慣れるため、作業前に軽く歩く

  • 包丁やフライパンなど、使い慣れていない調理器具を練習する前に、その場で足踏みする

  • DIYや裁縫など、細かな手先の調整が必要な作業の前に、軽く自転車をこぐ

 

って感じっすね。研究で使われた強度は最大心拍数の65〜75%なんで、そこらへんは「最大心拍数を「220ー年齢」で計算するのは間違いのもとなので、別の計算式を使ったほうがいいんじゃない?というメタ分析の話」を参考にしてくださいませ。

 

個人的には、「新しい動きを練習する前に、ちょっと体を動かしておくと、脳が動作のズレを修正しやすい状態を保てるかも?」って考え方は正しそうだなーと思っております。その意味でも、やっぱ準備運動ってのは大事なんでしょうなぁ。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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