今週の小ネタ:「クレアチン」がうつ症状の改善に役立つかも、「スーパームーバー」は脳の老化にも強いらしい、「音読・手書き・計算」を1日30分で記憶力の低下を防げるかも

ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
「クレアチン」がうつ症状の改善に役立つかも
クレアチンといえば、「筋肉を増やしたい人が飲むサプリ」ってイメージが強いはず。しかし近年は、クレアチンが脳の働きにも関わっているとして、メンタルヘルスへの効果が注目されてまして、過去にもそんなエントリを書いております。
で、新しく出た系統的レビュー(R)も似たようなテーマを調べてまして、ここでは「クレアチンと精神病の関係」を調べてくれててタメになりました。
念のためおさらいしとくと、クレアチンは肉や魚にも含まれる天然の成分で、ATP(細胞のエネルギー源)をすばやく補充する役割を果たしております。いわば、細胞用の予備バッテリーみたいなもんですな。
でもって、脳は大量のエネルギーを消費するので、当然ながらクレアチンの影響も受けるわけです。実際のところ、うつ病や双極性障害では、脳がエネルギーをうまく使えていないって問題が生じている可能性がありまして、それならば「クレアチンでエネルギーを供給すれば、症状も改善するのでは?」と考えられているわけです。
そこで、今回のレビューでは、クレアチンを使ったRCT5件を分析。参加者は合計238人で、4件が大うつ病、1件が双極性障害を対象にしていたそうな。なかでも有望だったのが、成人女性52人を対象にした8週間の試験で、全員が抗うつ薬を服用し、半数には1日3〜5gのクレアチン、残りにはプラセボを追加したらしい。
その結果、なにがわかったのかと言いますと、
- クレアチンを飲んだグループは、うつ症状がより大きく改善した。寛解に達した人は、プラセボが約26%だったのに対し、クレアチングループは52%だった。
- また、薬を使っていない大うつ病の患者100人を対象にした試験でも、認知行動療法に1日5gのクレアチンを加えたグループは、プラセボ群より症状が改善していた。
- ただし、すべての試験で効果が出たわけではなく、抗うつ薬が効きにくかった成人や、SSRIを服用中の女性を対象にした試験では、クレアチンとプラセボの明確な差は確認されなかった。
みたいな感じだったそうな。ってことで、こうして見ると、現時点では「クレアチンを抗うつ薬や認知行動療法に追加すると、一部の患者には役立つ可能性があるかも?」ぐらいの認識になるんでしょうなぁ。
まぁ、クレアチンが筋肉に効くのはほぼ確なので私は今後も使い続けますが、「メンタルに効かせたい!」って場合は、そこまで期待せずにご利用いただくといいでしょう。
「スーパームーバー」は脳の老化にも強いらしい
「歩く速度は健康状態の鏡!」みたいな話は有名でしょう。実際のところ、歩行速度は筋力、心肺機能、バランス感覚、神経機能などが反映されるんで、老化の指標としてよく使われるんですよね。
で、新しく発表された研究(R)では、「スーパームーバーは、脳の老化にも強いのでは?」って話になってて面白かったです。「スーパームーバー」ってのは、80〜90代になっても同年代よりずっと速く歩ける人のこと。通常は年齢とともに歩くスピードが落ちるもんですけど、このような人たちは、慢性疾患が少なく、生活習慣も健康的で、生物学的な年齢も若いらしいんですな。
そこで、研究チームは、アメリカ、ヨーロッパ、中国、メキシコなどに住む80歳以上の3,989人を分析。年齢と性別ごとの平均より歩行速度が、だいたい上位7%ぐらいに入ってる人をスーパームーバーと定義したんだそうな。
その後、参加者を約3〜5年間追跡してみたところ、
- スーパームーバーは、普通の歩行速度の人に比べて、新たに認知機能の低下が起きる相対リスクが51%も低かった!
- スーパームーバーほど、記憶力だけでなく、情報処理の速さや空間を把握する能力も維持しやすかった
- 脳を調べると、スーパームーバーは「海馬」(記憶や空間認識を司るエリア)の一部が大きかった
って感じだったんだそうな。要するに、速く歩ける人ってのは、老化に耐えるための脳構造を持っている可能性があるわけですね。
で、ここで特におもしろいのが、死後の脳を調べた研究では、
- スーパームーバーは生前の認知機能が高く、アルツハイマー病の診断も少なかったものの、脳に蓄積したアミロイド斑やタウのもつれは、普通の人と大きく変わらない
って結果も出てるんですよ。つまり、スーパームーバーってのは、認知症の原因がないわけではなく、「同じぐらい脳にダメージがあっても、脳の機能を保ちやすい」って可能性があるんですな。
もっとも、この研究だけでは「速く歩けば認知症を防げる」とは言えないのでご注意を。こいつは観察研究なので、無理に歩く速度を上げたところで脳が若返るかは不明なんで。
なので、このデータから知見を得るならば、「速く歩こう!」ってことではなくて、
- 「自分は以前より歩く速度が落ちていないか?」を定期的に確認しよう!
って話になるんでしょうな。歩行速度の低下は、筋肉や関節だけでなく、脳を含む全身の変化を知らせるサインかもしれないんで、「老化メーター」の一つとしてモニタリングしとくといいんじゃないかってことで。
「音読・手書き・計算」を1日30分で記憶力の低下を防げるかも
年を取ってくると、「人の名前が出てこない」とか「何を取りに来たのか忘れた」みたいな場面が増えるもの。多少の物忘れは自然な老化の一部なんだけど、なかには「軽度認知障害」へ進む人もいまして、これが困ったもんです。
そんななか、「音読・手書き・簡単な計算を毎日やったらどうなる?」を調べた研究(R)が出ておりました。研究チームが使ったのは「StrongerMemory」って脳トレプログラムで、参加者には毎日、
- 文章を声に出して10分読む
- 文章を手で10分書く
- 簡単な計算問題を10分解く
というメニューを12週間続けてもらったらしい。要するに、ひとつの能力だけを鍛えるのではなく、記憶、注意、言語、運動などの脳機能をまとめて刺激しようという発想ですな。ここで音読する本や手書きする内容は参加者の自由だったそうで、これならなんとか続けやすそうですなぁ(1日30分ぐらいだし)。
ほんで、どういう結果が出たのかと言いますと、
- 12週間後、15点満点の認知テストの平均点は、12.73点から13.26点に上昇していた
- 改善の大部分は、覚えた情報を後から思い出す「遅延再生」の成績によるものだった
- 参加者本人も、「以前より記憶の状態が良くなった」と答える傾向が見られた
って感じだったそうな。思ったよりも良い結果ですなぁ。
ただし、この結果を「音読・手書き・計算で認知症を防げる!」と受け取るのは早計でして、なんせこの研究は比較になる対照群がないもんですから。参加者の全員が脳トレを行ってますんで、本当に3つの課題が効いたのか、それとも、
- 脳に良いことをしているという期待
- 毎週のグループ交流
- 同じテストを受けたことによる慣れ
などが影響したのかは判断できないんですよね。点数の上昇も0.53点なので、日常生活が目に見えて改善するほどの効果かどうかも不明ですし。
なんだけど、音読、手書き、計算はいずれも安くてお手軽ですからね。ほかの基本的な対策に、毎日30分の読み・書き・計算を加えてみるのはアリじゃないでしょうか。


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