このブログを検索

インターネットポルノ中毒って本当にそこまで恐ろしいの?みたいな話

 
 

こんなご質問をいただきました。

 

インターネットポルノ中毒」を読んだら、ポルノ断ちがすごく大事だと書いてありました。この本の内容はどれぐらい信じっれて、どれぐらい実践するべきなのでしょうか。

 

この本でいうポルノ中毒ってのは、日常生活や人間関係、機能を妨げるほどポルノに依存した状態を指してまして、これにより「集中力不足やうつ症状が起きるのだ!」ってのがメインテーマになってます。これは怖いですねぇ……。

 

 

では、この本の主張について、私がどう思っているかと言いますと、まずもっとも重要なポイントと言えるのは、

 

  • ポルノの悪影響について専門家の意見は一致していない

 

ってところです。これはアメリカ心理学会(APA)の論説(R)を読んでいただくのが早いですが、

 

  • ポルノ賛成派は、ポルノが人々の性生活の向上に役立ち、欲望の安全なはけ口を提供することができると指摘している
  • ポルノ反対派は、ポルノが人間関係を損ない、性的攻撃を助長し、不健全な行動や破壊的な行動を引き起こすと指摘している。

 

って感じでして、果たして「インターネットポルノ中毒」が指摘するほど大きな問題なのか?って問題については、はっきり言えるレベルじゃないんですよね。2019年の研究(R)によると、こういった障害の有病率は約3~6%ぐらいかなーと想定されてるんですけど、そもそも正式な分類がないため正確な判断はめちゃくちゃ難しいんですよね。

 

 

ここらへんはアメリカ心理学会も苦労してまして、近ごろでは「精神疾患の診断統計マニュアル(DSM-5)の第5版にポルノ依存を入れてみたら?」みたいな提案もあったんですが、最終的には「この診断を支持する十分な証拠がない」って理由で立ち消えになってますし。とりあえず、現時点ではそれぐらいの証拠しかないということですね。

 

 

また、米国セクシュアリティ教育者・カウンセラー・セラピスト協会(AASECT)なども似たようなスタンスを取っていて、

 

  • 性依存症またはポルノ依存症を精神保健上の障害として分類することを支持する十分な証拠はない

  • 現時点における性依存症の訓練・治療方法および教育法などが、正確な知識によって適切に行われているとは思えない

 

って感じです(R)。まぁいまのところ、「少なくない専門家が否定的な見解を示している」ってのは押さえておくとよさそうです。

 

 

では、具体的にどんな調査があるかを簡単に見てみましょう。

 

  • 2013年の研究(R)によれば、男性の場合はポルノの使用が性的な満足度の低下と相関したが、女性は逆にポルノで性的満足度が向上する傾向があった。

 

  • 2014年の研究(R)では、ポルノ依存に関する研究の多くはデザインが不十分で、偏りが非常に大きい点を強調。そのうえで、ポルノの使用と有害な影響との因果関係を裏付ける証拠はほとんどないと指摘している。

 

  • 2015年の研究(R)では、性的なイメージの視聴に問題を抱えた参加者を調べたが、一般的な中毒に関わる脳の経路が存在しないことが明らかになった。つまり、典型的な依存症のモデルが当てはまらない可能性がある。

 

  • 一方で、2015年に行われた別のレビュー(R)では、ポルノ依存は物質依存症と基本的なメカニズムを共有していると結論づけている。

 

ってことで、全体としてはかなりビミョーと言いますか、「ポルノ依存の悪影響はあるかもしれないが、かなり限定的なんじゃないかなー」って感じがするわけです。ちなみに、もうひとつ2015年の調査(R)を見てみると、

 

  • 実際にポルノを視聴するのが問題なのではない! 自分がポルノ中毒だと信じることが、より大きな苦痛をもたらすのだ!

 

みたいな結論を提示してまして、いよいよ難しい状態になっております。複雑ですねぇ。

 

 

といったところで、いろいろ見てきましたが、すべてをふまえて個人的な雑感としては、

 

 

  • ただし、ポルノの見過ぎとメンタル悪化の相関が報告されるケースは確かにある

 

  • とはいえ、ここまで意見が割れるってことは、おそらくポルノを視聴する側の問題も大きいのではないかなぁ……

 

ぐらいの感じですね。基本的なスタンスは「ネットで心を病む理由、それは「逃げのインターネット」」に書いたことと近くて、

 

  • ネットのポルノそれ自体が問題ってわけではなく、精神的な苦痛から逃れるために視聴するのが問題なのでは?
  • 性的な不満のはけ口に使ったり、日常の欲求不満から逃れようとして視聴するのがヤバいのでは?

 

みたいな感じです。なんらかの回避のために使うことで、より依存に近い感じになっていくんじゃないかなーって話ですね。

 

 

まぁ、これはあくまで個人の仮説ですし、他にも「ポルノに対する文化の規範」とか「特別な脳内化学物質の変化」みたいなところも関わってそうな気もしますが、おそらく「何か別の嫌なことから気をそらすための利用」が良くないのではないかって気がしております。

 

 

もちろん、そうは言っても、一部に依存症や中毒症に近い事例が見られるのも確かですんで、

 

  • ポルノを仕事中にも見てしまう
  • ポルノで人間関係の問題が起きている
  • 減らそう、やめようと思っても、どうしてもやめられない

 

といった問題があるかたは専門家をお尋ねください。くり返しになりますが、現時点で「ポルノ依存」には正確な判断基準がないし、それゆえに治療法も確立されてないんですけど、「ポルノ依存ってのじゃいろんな要素ををふくんだ複雑な現象なんだなー」って理解があるセラピストを選ぶ必要がありそうですが。


スポンサーリンク

スポンサーリンク

ホーム item

search

ABOUT

自分の写真
1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

INSTAGRAM