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なぜか歳を取っても脳が縮まない“アマゾンの原住民”の謎



アマゾンの原住民は先進国の人間よりも脳が縮まない!」って調査(R)が出ておりました。

 

この研究は、チャップマン大学の人類学者であるヒラード・カプラン先生のチームによるもの。この先生は、アマゾンに住む原住民の調査で有名な博士で、ボリビアのチマネ族と20年間にわたって行動をともにし、欧米の人々との違いを調べてきた偉い人であります。

 

カプラン先生は、2014年から19年にかけて、生物学者・人類学者で構成されたチームを率いて100以上の村をまわり、チマネの村人からデータを収集。1,165人の被験者の脳や肉体の健康レベルについて調べ、これを欧米の人たちと比較したんだそうな。

 

チマネ族ってのは、ボリビアのほかの地域に比べてかなり前近代的な生活を送ってまして、水道がある村はなく、電気が通っているところもほぼゼロ。農業は焼き畑式で、豚の一種であるペッカリーを徒歩で追いかけて狩りをしまくって生活しており、食料を確保するだけでもかなりのエネルギーを使うライフスタイルを送っております。

 

でもって、ここで調査のテーマになったのが「先進国の人の脳と狩猟採集民の脳の違いは?」ってポイントです。ご存じのとおり、人間は歳をとるほど脳細胞が萎縮していくものでして、それによって認知機能が徐々に衰えてまいります。一部の細胞は入れ替わるものの、大半は40歳を超えたあたりから加齢とともにどんどん全体が小さくなっていくんですよ。アルツハイマーなどの認知症でよく見られる症状ですな。

 

ただし、脳の萎縮に関する調査は、先進国に住む白人を対象にしたものばかりで、チマネ族のようなライフスタイルを送る人たちを扱ったものはかなり少なめ。社会によって脳の萎縮が違う可能性も十分にあるんで、そこらへんはまだ知見がたまってないポイントなんですよね。特に、この研究で対象になったチマネ族は、先進国の人より「血管がキレイ」なことで知られてますんで、同じことが脳にもあてはまる確率は高いわけです。

 

すると、果たして分析の結果は研究チームの予想どおりで、

 

  • チマネ族の脳が10年ごとに約2.3%萎縮していたのに対し、モセテン族では約2.8%(チマネ族の近所で暮らす部族)、先進国の人々では3.5%だった。
  • さらに70代以降で比較すると、脳の萎縮スピードの差は、倍近くにまで拡がった。

 

って感じだったそうです。70代以降の欧米人は、チマネ族より倍のスピードで脳が小さくなっていくわけっすね。これはちょとした差が出ましたな。

 

チマネ族の脳が先進国の人間よりも衰えにくい理由は特定しづらいものの、だいたいの専門家はチマネ族のライフスタイルが、脳が衰えない秘訣だろうと考えておられます。それというのも、チマネ族ってのは、欧米の人々よりも感染症に苦しめられている割合が高いにもかかわらず、心臓病や糖尿病の割合が低い傾向があるんですよね。これは年齢に関係なく同じ結果が得られてまして、高カロリーの食料が安く手に入り、運動不足になりがちな先進国のライフスタイルが、脳を縮めさせているのだろうなーとは推測できるんですよ。

 

たとえば、ここではチマネ族の脳の他にも、胸のCTスキャンによって心臓の内部や周辺にたまっている脂肪やカルシウムの量なども測定し、さらにはみんなの日々の食事や運動量なども調べてまして、だいたい以下のような傾向を確認しておられます。

 

 

  • チマネ族は1日に17,000歩も歩く。また、歳を取って狩りに出かけなくなってからも、食事をつくったり孫の世話をしたりするので、体を動かさなくなるようなこともない。一方、欧米人は、食べる量に比べて労働の量が少なく、摂取したカロリーが余ってしまうことが多い。

 

 

  • 先進国の人々の間では、通常、BMIとnon-HDLコレステロール(いわゆる「悪玉」コレステロール)が増加するにつれて、脳の体積が小さくなる。しかし、チマネ族の脳は逆に、BMIとコレステロールの増加とともに大きくなる傾向がある。

    このことから、毎日の生活で大量のカロリーを消費しているのであれば、BMIが高くても問題ないのではない可能性もある。しかし、このバランスが崩れると、脳の萎縮が早く進んでしまうっぽい。その正確なメカニズムは不明だが、心臓血管の状態が悪くなることが原因だと思われる。

 

 

ここらへんの知見をざっくりまとめると、要は「いっぱい動いて、いっぱい食べるのが、やっぱ脳にも良い!」という感じになるでしょう。以前に紹介した「やっぱ健康の秘訣って『いっぱい食べていっぱい動く』ことじゃない?」という早稲田大学の研究に近い結論ですね。狩猟採集民たちは、ガンガンに食べてBMIが多くなっても、それだけガンガンに動きまくるので、脳に悪影響が出ないのだろうって話っすな。

 

運動と認知症リスクの関係については過去にもたくさん研究が行われていて、よく身体を動かす成人は、認知症のリスクが少なくとも3割は低下すると考えられております。運動はオーバーカロリーの害をやわらげるだけでなく、脳の炎症を抑え、ニューロン間のつながり(シナプス)を強固に保ってくれますし。

 

逆に、欧米人は、エネルギーの摂取量と消費量のバランスが悪く、それによって脳に悪影響が出ている可能性が大。研究チームは、この現象を「“過剰な豊かさ”仮説」と呼んでおります。豊かさが深刻な問題をもたらすってのは、このブログをお読みの方には定番の考え方でしょう。まぁ現代では、摂取カロリーと消費カロリーのバランスを取るのって難しいからなぁ……。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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