「この人、信じていいの?」をジャッジするための、科学的チェックリスト
「この人、信じていいのか?」と思う場面はどこにでもありましょう。友人関係、恋愛関係、職場の人間関係など、あらゆる場面で私たちは「他人の信頼度」を毎日のように判断しているわけです。そしてこの問い、実は心理学的にかなり深掘りされたテーマでもあるんですね。
ということで、ここで紹介するのは、「信頼を判断するには“3つの軸”を使おうぜ!」みたいな研究(R)であります。開発したのは、イスラエルのハイファ大学による研究チームで、心理療法の現場から生まれたフレームワークなんですが、日常の人間関係にも応用可能な良い内容になってますね。
なぜ「信頼」がすべての人間関係の土台になるのか?
で、まずは前提の話をすると、心理学者エリク・エリクソンの理論によれば、「基本的信頼(basic trust)」は、赤ちゃんのころに親から得られるかどうかで決まり、その後の人生の“信じる力”を大きく左右するとされております。これは愛着スタイルの話とも似ていて、幼少期に得た「この世の中は安全だ!」って感覚が「他者に心を開いても大丈夫」って感情を生み、そのおかげで安心して人とつながれるようになり、最後には人生において豊かな関係性を築きやすい……みたいな考え方ですね。
ということで、かように「信頼」は人間関係を上手く進ませる土台になるんですが、ここで問題になるのは、「相手が信頼に値するかどうか?」をいかに見極めるかでしょう。笑顔は嘘を隠せるし、言葉は飾れるしで、これが意外と難しいもんなんですよね。
ということで、研究チームは、ここで「エピステミック・トラスト(Epistemic Trust:ET)」という新たな概念を提唱しておられます。これは、簡単に言うと、
- 「この人の話には意味がある」と感じられるとき、人はその相手に信頼を寄せる!
みたいな考え方です。まあ、誰も意味を感じられない人のことなど信頼したくないので、当たり前の結論ではありましょうが、意外と「信頼」って文脈では語られない視点かもですね。
ETはもともと心理療法で「セラピストの言葉が信頼されてるか?」を測るものですが、その構造を日常の対人関係に応用したのが、今回の研究のポイントであります。このETってのは3つの軸で構成されてまして、
- シェアリング
- ウィーモード
- 学習
って感じになります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
信頼の構成要素1. シェアリング:「この人は本音を話しているか?」
信頼の第1の軸は、「感情や内面を共有しようとする姿勢」です。簡単に言うと、
- シェアリングが低い状態=感情を語ろうとしない、共有の価値を信じていない
- シェアリングが高い状態=自分の感情や考えを、自然体で正直に伝える
みたいになります。もちろん、誰にでもなんでもかんでも話すわけにいかないですが、ここでのポイントは「話そうとする意志があるかどうか」だったりします。相手が感情を押し殺してばかりで内面をまったく出さないなら、信頼関係を築くのは難しいっすもんね。
信頼の構成要素2. ウィーモード:「この人と“ひとつのチーム”になれるか?」
2つめの軸が、「会話がキャッチボールになっているかどうか」です。研究ではこれを「We-mode」と表現してまして、要するに“一緒に考えてる感”のことですね。簡単に言うと、
- ウィーモードが低い状態=一方的な会話、相手の話に被せる、沈黙が多い
- ウィーモードが高い状態=言葉を借りる、補完しあう、視点を深める
みたいになります。たとえば、相手の話に「うん、それってつまりこういうこと?」と返せる関係だったり、あるいは「あ、それ私も思ってた!」と自然に言い合える関係だったりすると、それは「We-mode」が高い状態だと申せましょう。
カウンセリング研究では、「ウィーモードが高いクライアントほど、セラピーの効果が高まる」という結果が出てるそうな。信頼があるときに、人間は自分の中の言葉を“相手と共通の言語”に変換できるわけですな。
信頼の構成要素3. 学習:「この人の言葉から学ぼうと思えるか?」
最後の軸が「相手の言葉に対してオープンでいられるか」という点です。簡単に言うと、
- 学習が低い状態=他者の意見を無価値と見なす、批判から学ばない
- 学習が高い状態=自分の行動パターンを認識し、変化の意志を持つ
みたいになります。たとえば、「それは違うよ」と言われたときにイラッとするだけでなく、「あれ? もしかして私、いつもこういう反応してるかも…」みたいに内省できるような状態ってのは、相手に信頼があるからこそ起こる感情なんですよね。まあ信頼できる相手から言われると、アドバイスもすんなり入ってくるもんですしね。
信頼を判断するための「身体感覚」を使う
というわけで、信頼に必要な3つの要素を紹介してきましたが、研究チームいわく、最終的には「この人とは安心して話せるか?」という身体感覚が重要だとのこと。たとえば、
- 話していて、体がこわばらないか?
- 否定されずに話を聞いてもらえている感覚があるか?
- 「あ、この人ともっと話したい」と思えるか?
みたいなところです。これらは心理療法の現場でも重要視されている“非言語的な信頼のサイン”であり、日常でも強力な判断材料になるわけですな。「この人を信頼していいのか?」と困ったら、ここらへんの身体感覚があるかどうかをセルフモニタリングしてみるのがよさそうですな。
ということで、あらためて信頼を形作る3つの要素をまとめるとこうなります。
- 感情を共有できること
- 一緒に会話をつくれること
- 相手の言葉を学びに変えられること
これらを意識すれば、「この人、信じていいのか?」という問いにも、ある程度の確信をもって答えられるようになるはずであります。逆に、あなた自身がこれらを意識してコミュニケーションすれば、相手からの信頼もぐっと高まることでしょうな。どうぞよしなに。