トレーニング強度は“しんどさ感”で決めるのが正解だ!みたいな研究の話
ここ数年、「閾値トレーニング」なる言葉が、アスリート界隈を中心にやたら盛り上がってるわけです。自転車界のスーパースターであるポガチャルさんや陸上のヤコブ・インゲブリクトセンが取り入れている「ノルウェー・モデル」なんかが有名ですな。
「閾値トレーニング」ってのは、「閾値をもとに運動のレベルを考えようぜ!」って考え方で、
- 第一閾値:酸素がギリ足りてるライン(体感で、キツくなってくる手前)
- 第二閾値:酸素だけじゃもたないライン(体感で、長くはもたない)
という2つの「しんどくなってくるポイント」を参考ラインにして、
- 第一閾値より下:イージーゾーン(例:Zone 2)
- 第一と第二の間:ミドルゾーン(例:ノルウェー・モデル)
- 第二閾値を超える:ハードゾーン(短時間で運動できなくなるレベル)
と3つの強度に分ける、というもの。こうすることによって、自分に合った適切な強度でトレーニングを行えるようになると考えられるんですな。
というのも、一般的なジョギングやサイクリングで負荷を設定するときって、「最大心拍数の何%」ってやり方がよく使われるじゃないですか。たとえば「中強度は最大心拍数の64〜76%です」みたいなやり方ですね。
でもこれ、実はあんまりアテにならないと言われるようになってきまして、なぜかというと、
- 70%の心拍数でも「余裕すぎる人」もいれば「地獄な人」もいる
- 同じ負荷でも人によって代謝の反応がバラバラ
- 結果として、効果が出る人と出ない人が分かれる
みたいな事実が明らかになってきたからです。最大心拍数ベースのトレーニングは、個人差をまったく考慮していないのではないか、と。
そこで現れたのが「閾値」の考え方なわけですが、しかしそうなると今度は「閾値ってなんだよ!」と思う方もいるでしょう。確かに、この概念ってのは、スポーツ科学の世界では50年以上も議論され続けてきた代物でして、「持久力に効くのはここだ!」という確かな線引きは、まだ発展途上だったりするんですよ。
では、実際のところ、閾値トレーニングには意味があるのかってことで、近ごろ参考になる研究が2本出ましたんで、中身をチェックしときましょう。
まずはベルギーのハッセルト大学のドミニク・ハンセン先生による調査(R)で、45の既存研究から1,500人超のデータをまとめて、閾値トレーニングについて大きな結論を出してくれてるんですよ。これは割と精度の高い結論を出してくれてるんじゃないでしょうか。
その結果がどうだったと言いますと、
- 閾値ベースのトレーニングのほうが、最大心拍ベースよりも安定して効果が出る!
だったそうです。つまり「自分に合った負荷で効率よく鍛えたければ、閾値で決めたほうが良い」ってことですな。
ただし、これは「閾値を上げればパフォーマンスが上がる!」って話ではないので注意しましょう。ノルウェー南東大学によるもうひとつの研究(R)では、約300人のアスリートを対象に「第一閾値の位置(VO2maxに対する比率)とパフォーマンス」の関係をチェックして、こんな結論を出しております。
- 閾値が高いことと、アスリートとしての実力の高さは、ほとんど関係がなかった
閾値が高いからといって運動ができるわけでもないという、なかなか面白い結論っすね。
また、この研究で興味深いのは、「閾値そのものが重要なのではなく、閾値周辺でのトレーニングが、VO2maxと運動効率を高めてくれるのだ!」って知見もでてるところですね。要するに、
- 閾値トレーニングをしても、閾値自体はあまり変わらない
- しかし、一方でVO2max(エンジンの馬力)は増えている
- 結果的に、同じ割合でも身体の“出力そのもの”は上がる
みたいな話でして、閾値トレーニングによって間接的にスピードや持久力が向上するってことですな。
じゃあ実際のトレーニングではどうすれば?って話になりますが、プロじゃない限り「ラボで乳酸測定!」みたいなことは現実的じゃないので、私たちのようなゆるトレーニーは「トークテスト」を使うのが現実的でしょう。
これは、「会話のしやすさ」を参考に閾値を推測するやり方で、
- 運動中にいつもどおりに会話できる → イージーゾーン
- 運動中に短めのフレーズがギリ出る → ミドルゾーン
- 運動中に単語しか出てこない → ハードゾーン
みたいな感じで区別します。この感覚をつかんでおくと、「今日はミドルで行こう」「今日はハードで追い込むか」みたいに、自分の体感でトレーニングの質を調整できるようになりますんで。
ということで、今回の話をあらためてまとめると、
- 最大心拍数ベースのトレーニングはざっくりすぎて非効率
- 自分の閾値(第一と第二)を意識するほうが、効果的で再現性が高い
- 閾値周辺でトレーニングすると、VO2maxと運動効率がアップする
- 素人の閾値トレーニングは「トークテスト」が最適
といった感じになります。「心拍数トレーニング」をやっている方や、「頑張ってるのに成長が感じられない」という方は、一度「自分の感覚でトレーニングできているか?」をチェックしてみると良いかもしれません。私も最近は、心拍数じゃなく「どれくらいしゃべれるか?」を基準にトレーニングの強度を調整してまして、結果として、体調や疲労感のコントロールがしやすくなった気がしております。



