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2024年9月に読んで良かった6冊の本

 

月イチペースでやっております、「今月おもしろかった本」の2024年9月版です。今月読めた本は23冊。そのなかから、特に良かったものをピックアップしておきます。

 

ちなみに、ここで取り上げた以外の本や映画については、インスタグラムのほうでも紹介してますんで合わせてどうぞ。とりあえず、私が読んだ本と観た映画の感想を、ほぼ毎日なにかしら書いております(洋書は除く)。

 

男はなぜ孤独死するのか

 

男性が孤独に陥りやすい背景を分析した本。古来より男性は成功や自立に重きを置く一方、対人スキルの習得に努力を注がなくても良いように社会的に“甘やかされて”おり、そのせいで孤独が進行するのだ!って主張がベースになっております。

 

仕事や地位に集中するあまり、友人や家族とのつながりが薄れ、年齢と共に孤独を深めていく人の存在には、誰もが心当たりがあるでしょう。本書では、地位、権力、富、自律性を追い求めるマッチョな姿勢が、いかに良い友人関係を犠牲にしてしまうのかという事実を、数十年にわたる調査をもとに描きだしてくれていて説得的でありました。

 

男が孤独になりやすい原因はいくつかあって、

 

  • 女性が親密な人間関係を作るために、かなりの時間とエネルギーを費やすのに対し、男性は「男は自律するもの!」という考え方に囚われて、そこまでのコストをかけない。

 

  • 人間関係を軽んじた結果、男性はモノや金の偏愛で孤独を癒やそうとし、これがさらに孤立を深める。

 

といったあたりが指摘されてます。学生時代の友人とのつきあいがゼロな私にとっては、刺さる内容ですねぇ……。

 

もちろん、後半にはこの問題への処方箋も提示されているんですが、これは読んでのお楽しみ。とにかく地に足の着いた解決策がまとめられていて、「やっぱこれしかないよなぁ……」という印象でした。原著が出たのは2011年ですが、いまでも十分通用するというか、メリトクラシーが加速する現代において、より切実に感じられる一冊ですね。めっちゃおすすめ。

 

 

 

RITUAL(リチュアル)

 

人間にとってなぜ「儀式」が重要であり、どういった役割を果たしているのかを、人類学の視点から探求した本。著者のクシガラタス先生は、人間が行う儀式を調べるために、実験室とフィールドの手法を組み合わせた先駆者でして、その研究法が細かく説明されているだけでも、個人的には買いっすね。

 

全体としては、いかに儀式が人間の本性に深く根付いているのかを解説してくれていて、勉強になるポイントが満載でした。たとえば、

 

  • 儀式と知性は並行して進化し、最も知性の高い動物ほど儀式のレパートリーが豊富

 

  • 儀式は不安やストレスに対する自然な反応であり、人間や他の動物の対処メカニズムとして進化した

 

  • 不確実な状況でのコントロール感覚をもたらし、ストレス軽減に効果を持つ

 

  • 集団的儀式は、集団の一員であることを示すシンボルや特定の行動を用いることで、人間の間に所属関係を築き、一体感を生み出し、強く永続的な絆を確保する(ただし、集団儀式が分裂や憎悪を助長する可能性も認めている)

 

  • 儀式が機能するためには、いかに多大なコストをかけられるかが大事

 

といったあたりは、大変おもしろく読ませていただきました。これを読めば、古代から続く儀式が単なる迷信や無意味な行動ではなく、人間の精神的な健康や社会的結束にとって極めて重要な役割を果たしている事実が実感できるでしょう。

 

文化人類学に興味がある人だけでなく、人間関係やストレスマネジメントに興味がある人にもおすすめ。

 

 

 

諜報国家ロシア ソ連KGBからプーチンのFSB体制まで

 

ロシアの諜報機関の歴史と行動原理を解説した本。著者の保坂氏は、ロシアや東欧での外交官経験を持つ方だそうな。

 

ロシアがいかに諜報を重んじ、それが現在の国際政治にどんだけ影響しているかをまとめた内容で、ウクライナで公開されたKGBの機密文書やリーク情報を出典にしているあたりがナイス。権威主義国家がスパイだらけなのは知ってましたが、こんだけ諜報活動を中心に国家を運営しているのは知らなかったので、大変勉強になりました。

 

特に面白かったのは、ロシアの情報工作(アクティブ・メジャーズ)の解説で、ここで描かれるプロパガンダの戦術は納得感が満点。いくつか例を挙げると、

 

  • 95%の真実に5%の嘘を混ぜれば説得力が激増!その際は、真偽を検証できる正確な情報にほんのわずかだけ検証ができない偽情報を混ぜよう!

 

  • 偽情報を広める際は、その中に「反ソ連」の情報を含めて信憑性アップだ!

 

  • 既存の陰謀論に偽情報をからめると、拡散力がアップするぞ!

 

  • 「真実はいつも多面的だ!」という口当たりの良い世界観を混ぜ込むと、左翼知識層やジャーナリズムからウケが良くなるぞ!

 

  • 相手をおとしめたい時は、一気に複数の仮説をばらまくのが良いよ!

 

  • 敵対するグループ内にできるだけたくさんの「友人」を作ろう!その際は、どうでもよい情報を相手に少しずつ握らせると、信頼を得ることができるぞ!

 

  • 偽情報がバレたときは「ロシア嫌悪症による情報攻撃だ!」といって被害者を装おうぜ!その上で、「冷静で理性的な議論をしよう!」と呼びかけると、こちらが落ち着いているような印象になるぞ!

 

こういった手法は、企業とか個人レベルでも使えるでしょうな(実際にSNSでも見かけるし)。これが冷戦時代のKGBから続き、現代でもよく行われているのが凄いっすね。

 

他にも、KGB出身のプーチンがマフィアでズブズブだったり、ロシアの諜報機関が社会に浸透しまくっている様子が細かく描かれるあたりもオモロ。ロシアの現代政治を知りたい人だけでなく、情報工作に興味がある人にも有用でしょう。

 

 

 

移民の経済学 雇用、経済成長から治安まで、日本は変わるか

 

移民問題を経済学の視点から深掘りする本。「移民がいないと日本は滅びる!」「移民で治安が悪化する!」みたいに、つい感情的な議論になりがちなテーマですけど、本書は、いったん倫理の問題を棚上げした上で、データに基づいて言えることだけをまとめてくれてて超好印象でした。

 

で、このように誠実に書かれた本にありがちなことですが、各論に明確な結論は示されておりません。当たり前ながら、移民の数が増えることで、得をする人と損をする人の両方がいるので、単一の処方箋など出せるはずがないんすよね。

 

一例を挙げると、

 

  • 雇用の問題については、当然、移民と競合する仕事の人は割を食う。しかし、それ以外の職業に就く人々の賃金はほとんど影響を受けず、むしろ雇用が創出される可能性がある。

 

  • 移民の受け入れが犯罪率の上昇につながるというデータはない(というか、逆に犯罪率を下げるというデータもある)。しかし、移民が職業の機会に恵まれない時には、その限りではない。

 

  • 移民の受け入れは、多くの国で経済的なメリットがあることが示唆されている。ただし、日本国内の所得格差を広げる可能性もある。

 

ということで、各論について細かなメリデメが提示されていて、一気に解像度を上げてくれた感じ。さらに言えば、同じテーマでも学者のスタンスでデータの解釈が異なる点にも触れていて、細かいとこまで複雑さをオミットしないところがまた良いですね。

 

移民問題を考える際の基本書として使えるので、気になる方はぜひどうぞ。

 

 

 

洞窟壁画考

 

古代の洞窟壁画に描かれた動物や幾何学図形、手形などをもとに、原始の人々の視点や美術の起源を探る本。著者の五十嵐さんは、実際にフランスやスペインの遺跡を訪れ、洞窟壁画の研究を長年続けてきた方だそうです。

 

500ページにわたって「太古の人類はなぜ暗い洞窟の奥に絵を描いたのか?」を掘り下げていて、動物の絵から当時の暮らしぶりを考えたり、抽象画から原始人のコミュニケーションを推察したり、壁画の場所から人類の拡散を予測したりと、幅広い視点のさばきっぷりがまずは圧巻。

 

そんな知識の渦に飲まれるうちに、原始の人が認識していた世界や、現代人とは異なるだろう脳の使い方がなんとなく浮かび上がってくるあたりが、個人的なおもしろポイントでありました。

 

「ピダハン」なども似たようなところがありますが、私は「先進国の暮らしとあまりに違うせいで、世界の認識がまったく違う脳みそ」みたいな話がめっちゃ好きなんですよね。専門的な本なので幅広く推奨しづらいものの、私と似たフェティッシュをお持ちの方であればおすすめ。

 

 

 

肉を脱ぐ

 

売れない新人作家が、同姓同名の人気VTuberの存在を発見したところから暴走を始める話。

 

「身体、どうよ?」って問いを巡り続けるストーリーで、自分の肉体に疎ましさを覚える主人公が、ひたすら精神や概念だけの存在に近づこうとする姿を、アートとエンタメのちょうど真ん中ぐらいのバランスで描いていて、終始「お上手ですなぁ!」と思いながら読み進めました。精神の純粋さに特化した結果として、「自分の名前」ぐらいしかアイデンティティを保証するものがなくなってしまう展開も納得感がありますね。

 

同じく身体の問題を扱った作品といえば、「ファイトクラブ」って傑作がありますが、あちらは「精神のよどみ→身体の再獲得」って方向に進むのに対して、本作は「身体への嫌悪→精神の純化」みたいな方向に進むのもおもしろいところ。いわば、逆ファイトクラブですな。

 

まぁ個人的には、「精神と身体はニコイチだよなー」って枠組みで生きてるので、主人公の思考にシンクロはしづらいものの、「頭だけで生きようとしたらこうなるよなぁ……」ってリアルさを感じられてよろしゅうございました。特に、私のようにアレルギーに悩まされたり、病気に苦しめられた経験があったり、身体的な差別を受けた経験があったりするような人であれば、主人公が訴える身体の鬱陶しさには、少なからず同じ問題意識を持てるんじゃないでしょうか。

 

ちなみに、ネタバレは避けますが、最後もやはり「ファイトクラブ」と同じく(ある種の)破壊が待ってまして、悲しさ混じりのカタルシスを味わえるのもよかったです。おすすめ。


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