2024年に読んだ311冊と、鑑賞した映像コンテンツ103本から、特に良かったものを選ぶエントリ
https://yuchrszk.blogspot.com/2024/12/2024311103.html
年の瀬!ということで、今年読んだ311冊と今年見た映像コンテンツ103本から、特に「良いねー」と思ったトップ10を、それぞれまとめておきますので、年末年始の読書の参考にどうぞ。
ちなみに、今年は「最強のコミュ力のつくりかた」という本を出版しましたので、こちらも合わせてよろしくお願いたしまーす。
とにかくすぐ役に立つ6冊
読んですぐ日々の生活に活かせるタイプの本です。今年は以下の6冊が良かったですねー。
- エビデンスを嫌う人たち:地球平面説の信奉者、反ワクチン派、気候変動の否定論者などと対話を重ね、科学を否定する人たちにどうアプローチすべきかを探った本。たんに正しい事実や筋の通った論理を提供するだけじゃ説得は不可能だから、相手との信頼を築くところからはじめようぜ!って考え方が全編を貫いていて、本書が提示するテクニックはあらゆる人を説得するためにも使える感じでした。あくまで科学否定論の本なんだけど、実践的なコミュニケーション本としても有効でしょう。
- リサーチのはじめかた: 「いかに研究テーマを決めるか?」って問題を掘り下げた本で、小手先のテクニックには頼らず、最高の問いは自分の内面からしか生まれない! 自己省察を研究の習慣にせよ! という根本的なところから論を進めていて、激しく賛成させられました。
- 「自信がない」という価値:自信がないほうがリスク評価が正確!自信がないほうがモチベーションが上がる!自信がないほうが実力は向上する!といった主張を、具体的な研究と例を挙げて議論していく本。「根拠のない自信を持て!」みたいなアドバイスは、いまだに自己啓発の世界でよく耳にするので、そんなナルシスティックな考え方の解毒剤としても有用っすね。
- ビジュアル・シンカーの脳 「絵」で考える人々の世界:ビジュアルで物事を考えるのが得意な脳を持つ人々の才能をあきらかにした本。自分の脳タイプを判断するテストがついているので、自分の脳の特性を知り、それを活かす方法を知りたい方にオススメ。
- 人生後半の戦略書 ハーバード大教授が教える人生とキャリアを再構築する方法:人生の後半を豊かに過ごす方法をまとめた一冊で、「結晶性知能」の活用法をガッツリまとめてくれていて、私ぐらいの年齢の人には本当に有用っすね。一部に「このデータってどうかなぁ……」と思うところもありましたが、メインの主張に影響はないのでまぁ良いかなと。
- FRIENDSHIP(フレンドシップ) 友情のためにすることは体にも心にもいい:友情が心身に与える影響を科学的に探求し、意味のある友人関係を築くための実践的なアドバイスを提案する本。積極的なコミュニケーションの取り方や、友人との関係を深めるための心理的なテクニックなどを、“愛着理論”に基づいて説明してくれるあたりがナイスですね。
世界の見方が変わる5冊
続きましては、「世界はこうも解釈できるのか!」というセンス・オブ・ワンダーを与えてくれる本です。
- 体内時計の科学:生命をつかさどるリズムの正体:現代社会が私たちの健康、幸福、そして寿命に与える影響を解説し、体内時計と共に生きることの重要性を説く本。体内時計を調整するための具体的なアドバイスがあるわけじゃないんですが、あらためて人体の凄さを思い知らせてくれる良い本です。
- RITUAL(リチュアル):人間にとってなぜ「儀式」が重要であり、どういった役割を果たしているのかを人類学の視点から探求した本。「知性が高い生物ほど儀式を行う傾向がある!」みたいな面白い知識が満載だし、実験室とフィールドの手法を組み合わせた研究法を詳しく説明してくれるところも楽しいっすね。
- 資本主義が人類最高の発明である:資本主義がいかにして世界中の貧困を減少させ、人々の生活水準を向上させたかを実証的に説明する本。とにかく資本主義のメリットをデータつきで解説してくれるんで、「資本主義は限界だ!」「資本主義は問題がある!」みたいな主張にゲンナリしている方ほど響くんじゃないでしょうか。
- 美しき免疫の力 動的システムを解き明かす:説明が難しい免疫のメカニズムを、一流のストーリーテリング技術を使い、ミステリ仕立てのスリリングな物語として提示してくれる楽しい本。B細胞やT細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、Toll様受容体など、めっちゃハードな概念をここまでわかりやすく説明できるのは凄いですねぇ。
- WEIRD「現代人」の奇妙な心理:「なぜ西洋人は今のメンタリティを持つにいたったか?」をまとめた本。現代の“主流”な価値観である、実力主義、代議制政府、信頼、革新、自制などが、実はすべてが歴史や文化の移り変わりのなかで決まった特殊なものであることを説得的に示してくれて、目から鱗が500枚ぐらい落ちました。
世の中の解像度が上がる6冊
さらに、世の中で起きている事件や現象について、さらに深い理解を与えてくれる本もまとめておきます。
- 現代化学史: 原子・分子の科学の発展:18世紀から20世紀後半までの化学の進化を描いた本で、ラヴォアジェの化学革命や量子論の出現、DNA構造の発見など、科学史における重要なマイルストーンを網羅し、それぞれをわかりやすく教えてくれて超勉強になります。天才たちが難問に挑む姿を描くストーリー集としても楽しいし、適度に図と写真を使っていてわかりやすい。
- 人を動かすルールをつくる:行動経済学の理論を法学に応用し、法律がより効果的に機能するための方法を提案する本。「法律を作っただけじゃ人は動かないんだから、人間のモチベーション構造を組み込まなきゃダメでしょ!」って思想が根底にあるのが良いし、この議論を展開させるためのデータがいずれも興味深く、読み物としてもめっちゃおもしろかったです。
- ジェンダー格差-実証経済学は何を語るか:ジェンダー格差が経済成長に与える影響を、経済学の視点から解説した本。単なるフェミニズム的な主張ではなく、どこまでもデータをもとに話を進めてくれるし、割と手堅めな研究をメインに取り上げてくれるので安心して読めました。特にジェンダー格差の起源は産業革命以前の農業にさかのぼれるんじゃないか?説が面白かったですねー。
- 男はなぜ孤独死するのか:男性が孤独に陥りやすい背景を分析した本。古来より男性は成功や自立に重きを置く一方、対人スキルの習得に努力を注がなくても良いように社会的に“甘やかされて”おり、そのせいで孤独が進行するのだ!って主張がベースになっていて、地位、権力、富、自律性を追い求めるマッチョな姿勢が、いかに良い友人関係を犠牲にしてしまうのかという事実を、数十年にわたる調査をもとに描きだしてくれていて説得的でした。
- 移民の経済学 雇用、経済成長から治安まで、日本は変わるか:移民問題を経済学の視点から深掘りする本。いったん倫理の問題を棚上げした上で、データに基づいて言えることだけをまとめてくれてて超好印象でした。当たり前ながら、移民の数が増えることで、得をする人と損をする人の両方がいるので、単一の処方箋など出せるはずがないってスタンスが一貫しているのも良いですね。
- ポイント経済圏20年戦争 100兆円ビジネスを巡る五大陣営の死闘:日本の共通ポイントサービスの20年にわたる競争と進化を詳細に描いた一冊。Tポイント、楽天ポイント、dポイント、Ponta、PayPayポイントなど、主要なサービスの成長戦略やマーケティング手法が勉強になるのはもちろん、企業の裏側で行われた人間ドラマが濃厚に描かれてまして、ここ数年のビジネス系ノンフィクションではトップクラスに面白かったです。
おもしろ小説5冊
今年も良い小説をたくさん読めまして、特に以下の5冊が印象に残りました。
- 黄色い家:ヤクザのシノギに関わった少女の反省を描く話。裏社会エンタメとして十分おもしろい上に、そこに「シスターフッド」や「権力勾配の変化」のようなテーマを無理なく接続したうえで、日本人が「家」に持つイメージの特殊性と、コミュニティが救いにも呪いにも変わる状態を描いていくあたりが上手すぎますね。
- 生きる演技:「演技」ってワードを起点にしつつ、「人格」とか「自己」みたいなものがどうやって立ち上がるかを考えていく超チャレンジングな小説。「人生は演技だ!」とか「人はみな複数のキャラを演じている!」みたいな主張はよく聞くところですが、本作はそこからさらに進んで、その空間から惹起される記憶で生まれる自己 個人の記憶のゆらぎに影響される自己 流動的な対人関係のなかで変わっていく自己などを言葉にしようと試みているのが凄い。
- クララとお日さま:太陽エネルギー駆動のAIロボットが、病弱な少女の友人として仕える話。 親子の愛情、格差社会、宗教的な本能など、いろんなテーマをふくむ作品ですが、基本的にには「技術が進みまくった後にも残る“人間性”って何?」って問いをめぐる内容になっていて、感情がヒトに与える影響力と、それがいかに人間を形成しているかを重層的に示していく筆致にシビれますね。
- 恐るべき緑:シュヴァルツシルト、グローテンディーク、ハイゼンベルクといった20世紀の天才学者の半生を追った伝記のように見せかけて、作者が創作したおもしろエピソードが添加されていて、科学書でもあり、小説でもあり、評伝でもあり……という不思議な味わいの本になってました。“世界の深淵を覗き込んだ天才が見た“世界”を、疑似体験させてくれるところが素晴らしいですね。
- タタール人の砂漠:若い将校が辺境の砦に赴任し、未知の敵「タタール人」の襲来を待ち続ける話。「未来に良いことがあるに違いない!」と思うものの、何も行動を起こさずにただ待ち続けて人生を浪費しちゃう問題を徹底的に掘り下げてまして、私ぐらいの年齢の人が読むと刺さりまくるんじゃないでしょうか。
おもしろ漫画2つ
今年は漫画はあんま読めませんでしたが、なかでもよかった2作品を挙げておきます。
- サターンリターン:自死した旧友の謎を解くために、主人公が奔走する話。王道ミステリーのようにはじまりながら、やがて主人公が隠す謎が明らかになり始め、それによって各人の抱える心の問題が浮き彫りにされ………って感じで、最後のほうは凡百のサイコスリラーをぶっ飛ばすドライブ感がある傑作でした。
- 二月の勝者:進学塾の塾講師を主人公に、彼の指導を通じて子どもや親たちが成長していく姿を描いた漫画。なにせ私が「中学受験すべて失敗」「大学のころ進学塾の講師を3年」という経験の持ち主なので、子供の視点にも共感できるし、教師側の苦労にも思い至るところが多いしで、ガッツリ没入させられましたねー。
おもしろ映像コンテンツ
最後は今年良かった映像コンテンツです。個人的に良かったものを、上から下に向かって特に良かった順に並べてます。
- シビル・ウォー アメリカ最後の日:内戦が始まったアメリカを、4人のジャーナリストが取材する話。といってもアクチュアルな視点を掘り下げる内容ではなく、「殺し合いが日常になった世界の地獄めぐり」と「ジャーナリズム倫理についての思考実験」の2つを掘り下げた映画になってまして。前者については「ゾンビ・ミーツ・地獄の黙示録」みたいでとても良いし、後者についても目撃者になることの重要性や、報道の倫理的ジレンマを突き放した視点で描いていてナイスですね。
- ホールドオーバーズ:1970年代のニューイングランドの寄宿学校で、クリスマス休暇中に居残りを余儀なくされた3人が、嫌々ながら一緒の時間を過ごす話。基本はめっちゃ地味な話なんだけど、傷ついた人間が触れ合う際に起きるダイナミズムを、感傷的になりすぎずに観察者の視点を保ちつつ、人生への失望が少しずつ癒されていく様子を描く手際にホロリとさせられました。
- Cloud クラウド:ネットで恨みを買った転バイヤーが命を狙われる話。前半は不穏な空気が漂うホラー映画のように進み、中盤でサイコな殺人集団が主人公追うスリラーになり、後半では急に70年代風の乾いたガンアクションに切り替わるという変な映画で、ジャンルを横断する映画が好きな人間としてはウヒウヒ言いながら楽しみました。
- ナミビアの砂漠:メンタルが不安定な女性の日常を、ひたすら観察させられる映画。作中で明言されないものの、主人公のキャラは「境界性パーソナリティ障害」の特徴にかなり当てはまっていて、すべての行動にいちいち説得力を感じさせられました。もっとも、その生態を描写するだけで終わっていたら、昔よくあった悪女が男を振り回す系の陳腐な文芸映画になってたかもですが、中盤からパーソナリティ障害のケア描写が始まったあたりで「めっちゃええやん!」となりましたねー。
- 関心領域:アウシュビッツ強制収容所のすぐ隣に住む、所長一家の生活を描くホロコースト映画。虐殺の様子はなにも映さず、美しい庭園の向こうから流れてくる小さな銃声や叫び声だけを観客に感知させ続ける105分で、まさに「板子一枚下は地獄」を描ききった映画で、「この企画をよく成立させたな!」って気持ちに。
- ソウルフル・ワールド:夢を追うジャズピアニストが、魂となって霊界に迷い込み、元の肉体にもどろうと奮闘する話。過去にも実存的なテーマを扱ってきたピクサーが、本作ではついに「生きている意味とは?」って問題にまでふみこんでいてすごい。しかも、それを親しみやすいアニメの文法に落とし込んでいるし、アクションの演出は的確だし、笑いのシーンも外さないし、デザインとグラフィックは斬新だしで、とにかくスキがない一本。
- Tinder詐欺師: 恋愛は大金を生む:Tinderを使って女性から大金をだまし取る詐欺師の実話を描いたドキュメンタリー。オンライン詐欺の手口を伝える啓蒙映画でもあり、出会いの悲喜劇を描く恋愛作品でもあり、手に汗を握らせるスリラーでもあり、被害者たちの雪辱を描く復讐劇でもあり……みたいな感じで、このテーマに興味がない方でも一見の価値がありましょう。
- マリウポリの20日間:ロシアのマリウポリ侵攻後に、現地に残って撮影を続けた唯一のジャーナリストの記録。「傑作」という言葉を使うのがはばかられる作品ですが、これはまぎれもない傑作ですね。90分のあいだほぼ泣かされっぱなしの映像体験でして、全ての人類が見るべき傑作でしょう。
- インサイド・ヘッド2:思春期を迎えた主人公の脳内でうずまく、感情の揺れを描く人気作の続編。前作では、人間が持つ5つの基本的な感情が、いかに私たちの行動をコントロールしているのかを映像にした傑作でしたが、本作では新たに登場する「不安感」を主軸に据えることで、また一歩進んだメンタルの問題を扱っていて最高。感情と自己に距離を置けない問題を、見事に映像にできていて驚きました。
- 悪は存在しない:自然に囲まれた土地に、ある企業がグランピング施設を作ろうとする話。最初は「田舎と都会の対立」を描いたベタなヒューマンドラマのように始まり、それが途中で「都会の人間もまたシステムの一部に過ぎない」という方向に展開し、そこからさらに「崩れた世界のバランスを取り戻す」って話になり……って感じで、どんどん抽象度が増していく語り口に引き込まれまくりました。クライマックスのあたりなどは、オジサンが組んずほぐれつしてるだけなのに、あたかも大自然を舞台にした神話劇を見ている気分にさせられるから凄いもんです。
- どうすればよかったか?:統合失調症を発症した姉と、その事実を認めず治療を拒んだ両親の25年間を、当事者である監督が記録し続けたドキュメンタリー。ラストでは人生の不可逆性に頭を殴られた感覚になりまして、とにかく「生きねば!」って気にさせられる凄作でありました。